42 / 177
第四章 爆発
第三十八話 師匠と弟子
しおりを挟む
戦況は依然、ガラテヤ様のペース。
俺が再び距離をとるよりも先に、次の攻撃。
「【糸巻《いとまき》】」
再び、竜巻がこちらを向く。
「【蜘蛛手《くもで》】!」
俺は「蜘蛛手」で多方向からの攻撃を狙うが、「糸巻」に全てを絡め取られてしまった。
「ふふ。思いの外、出力あるのよ」
俺は再び「駆ける風」を連発して回避する。
「こんなんバンバン撃ってて大丈夫なんですか?そろそろエネルギー切れが近いんじゃあないですか?」
「正直、キツいけど……魔力が切れる前に、貴方から一本取るからノー問題よ」
「言ってくれますね、ガラテヤ様……!」
しかし、肝心の魔力切れが近いのは、おそらく俺の方だ。
俺は元々、魔術に自信がある方ではない。
風を銃の要領で撃つだとか、ガラテヤ様のように風の鎧をスラスターのように使うだとか、そういった芸当ができない訳ではないだろうが、なにぶん魔力をそこまで貯めることができる身体でもなければ、そういった鍛錬をしているわけでもない。
ゲーム的に言ってしまえばMPが少なく、スキルポイントも振っていない状況というべきだろうか、とにかくリソースには自信が無いのである。
故に、基本的にはあくまでも現役時代のようには使えない風牙流の補助に用いるだけであり、ガラテヤ様の「飛風」を効率化したような「駆ける風」でさえ、俺には何気に「重い」のだ。
「……ジィン、『越風霊斬』は使わないの?マーズさんのパパを吹っ飛ばしたやつ」
「『越風霊斬』危険なのでやりませんよ」
もっとも、「越風霊斬」は別である。
万全な状態で使っても一発で魔力切れを起こすのは勿論、元々のパワー不足が祟ってか、しばらく戦闘不能になるのは間違いないだろう。
魔力をある程度使っていれば、尚更である。
「そう、残念……。じゃあ、とっととカタをつけるわよ、ジィン!【殺……!」
「そうですね……!【風……!」
「抜】!」
「車】!」
ガラテヤ様の風を纏った右手と、俺のファルシオンがぶつかり合う。
やはり、ガラテヤ様は天才だ。
しかし、経験の差はやはりある。
俺はファルシオンの角度を変え、回るように放たれる風の刃を一点に集中させて放つことで、ガラテヤ様の拳を引きつける。
「……ッぐ!」
そして、首元を斬りつけるようにファルシオンの寸止め。
「……一本です」
その瞬間、ガラテヤ様はその場に大きく尻もちをついた。
「んん……っはぁー!!!強かった!流石ね、ジィン!」
「いやいや、ガラテヤ様も……まさか、ここまで力をつけているとは思いませんでしたよ。あわや一本でした」
「ふふっ。やるでしょ、私も」
「ええ。俺、結構頑張ったはずなんですけど……あっという間に、そのラインまでついて来ちゃうんですから。ちょっと危機感を覚えます」
「師匠がいいのかしらね」
「いやいや、ガラテヤ様の飲み込みが早すぎるだけですって」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。これからも、定期的にいろいろ教えて頂戴ね」
「ええ、勿論です」
俺とガラテヤ様はグータッチを交わし、屋敷に戻る。
すると、そこには何やら女子学生が数名。
「あーっ!いないと思ったら、やっぱり!」
「愛しのジィン君とデートですか、このこのぉ」
「羨ましいですわ~!騎士様と、熱いグータッチ……抱擁は!抱擁はまだですの!?」
ガラテヤ様の知り合いだろうか、何か勘違いをしているようである。
「まだって、私達はそういう関係ではないと、再三言っているじゃあないの……」
「うーん……。確かにそうですけど、流石に目の前でそれを言われると少し傷ついちゃいますよ」
「ジィン?何もそんなにヘコまなくても」
「漢のプライドってものがあるんです」
「あら、そう……よく分からないわね」
「やっぱり二人とも、おしどり夫婦みたいですわね」
へー、この世界にいるんだ、オシドリ。
……俺は疲れていた。
「そ、そそそそ、そうかしら!?じ、ジィン!?ど、どうかしら、ち、違うわよねぇ?」
「下手くそかっ!」
きっと、ガラテヤ様も疲れているのだ。
「ほら、そういうところですわよ~!身分の差なんて気にしない、そういう関係……憧れますわ!」
騎士とおそらく家を継がないであろう子爵令嬢の関係についてそれを言われてしまっても、あまり説得力は無いが……字面だけ見てみれば、確かに一定の需要はあるのかもしれない。
……俺はやっぱり疲れていた。
「アーハイハイ、それでいいわよそれで」
ガラテヤ様はもっと疲れていた。
彼女曰く「お上品っぽい」口調にも、ところどころボロが出ている。
「あっ、ちょっと、お待ちなさって~!もう少しだけ話を」
「「……はぁ?」」
「あっ、そ、そうですわよね!さっきまで、手合わせしていらっしゃったんでしょう?」
「そりゃあ疲れますわよねぇ」
「おっほほほほほほほ……」
この時の俺とガラテヤ様は、とんでもなくキツい目をしていたのだろう。
俺はウェンディル学園にいる時と同じように、ガラテヤ様を女子寮よろしく女子が泊まるメイラークム男爵家西棟まで見送り、それから自室へと戻る。
翌日、俺達は二人で「本気を出し過ぎた」と反省した。
そしてこれ以上に無駄な力を使わないように、残りの二日間は特に魔力を使うこともないよう、休養に専念するのであった。
俺が再び距離をとるよりも先に、次の攻撃。
「【糸巻《いとまき》】」
再び、竜巻がこちらを向く。
「【蜘蛛手《くもで》】!」
俺は「蜘蛛手」で多方向からの攻撃を狙うが、「糸巻」に全てを絡め取られてしまった。
「ふふ。思いの外、出力あるのよ」
俺は再び「駆ける風」を連発して回避する。
「こんなんバンバン撃ってて大丈夫なんですか?そろそろエネルギー切れが近いんじゃあないですか?」
「正直、キツいけど……魔力が切れる前に、貴方から一本取るからノー問題よ」
「言ってくれますね、ガラテヤ様……!」
しかし、肝心の魔力切れが近いのは、おそらく俺の方だ。
俺は元々、魔術に自信がある方ではない。
風を銃の要領で撃つだとか、ガラテヤ様のように風の鎧をスラスターのように使うだとか、そういった芸当ができない訳ではないだろうが、なにぶん魔力をそこまで貯めることができる身体でもなければ、そういった鍛錬をしているわけでもない。
ゲーム的に言ってしまえばMPが少なく、スキルポイントも振っていない状況というべきだろうか、とにかくリソースには自信が無いのである。
故に、基本的にはあくまでも現役時代のようには使えない風牙流の補助に用いるだけであり、ガラテヤ様の「飛風」を効率化したような「駆ける風」でさえ、俺には何気に「重い」のだ。
「……ジィン、『越風霊斬』は使わないの?マーズさんのパパを吹っ飛ばしたやつ」
「『越風霊斬』危険なのでやりませんよ」
もっとも、「越風霊斬」は別である。
万全な状態で使っても一発で魔力切れを起こすのは勿論、元々のパワー不足が祟ってか、しばらく戦闘不能になるのは間違いないだろう。
魔力をある程度使っていれば、尚更である。
「そう、残念……。じゃあ、とっととカタをつけるわよ、ジィン!【殺……!」
「そうですね……!【風……!」
「抜】!」
「車】!」
ガラテヤ様の風を纏った右手と、俺のファルシオンがぶつかり合う。
やはり、ガラテヤ様は天才だ。
しかし、経験の差はやはりある。
俺はファルシオンの角度を変え、回るように放たれる風の刃を一点に集中させて放つことで、ガラテヤ様の拳を引きつける。
「……ッぐ!」
そして、首元を斬りつけるようにファルシオンの寸止め。
「……一本です」
その瞬間、ガラテヤ様はその場に大きく尻もちをついた。
「んん……っはぁー!!!強かった!流石ね、ジィン!」
「いやいや、ガラテヤ様も……まさか、ここまで力をつけているとは思いませんでしたよ。あわや一本でした」
「ふふっ。やるでしょ、私も」
「ええ。俺、結構頑張ったはずなんですけど……あっという間に、そのラインまでついて来ちゃうんですから。ちょっと危機感を覚えます」
「師匠がいいのかしらね」
「いやいや、ガラテヤ様の飲み込みが早すぎるだけですって」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。これからも、定期的にいろいろ教えて頂戴ね」
「ええ、勿論です」
俺とガラテヤ様はグータッチを交わし、屋敷に戻る。
すると、そこには何やら女子学生が数名。
「あーっ!いないと思ったら、やっぱり!」
「愛しのジィン君とデートですか、このこのぉ」
「羨ましいですわ~!騎士様と、熱いグータッチ……抱擁は!抱擁はまだですの!?」
ガラテヤ様の知り合いだろうか、何か勘違いをしているようである。
「まだって、私達はそういう関係ではないと、再三言っているじゃあないの……」
「うーん……。確かにそうですけど、流石に目の前でそれを言われると少し傷ついちゃいますよ」
「ジィン?何もそんなにヘコまなくても」
「漢のプライドってものがあるんです」
「あら、そう……よく分からないわね」
「やっぱり二人とも、おしどり夫婦みたいですわね」
へー、この世界にいるんだ、オシドリ。
……俺は疲れていた。
「そ、そそそそ、そうかしら!?じ、ジィン!?ど、どうかしら、ち、違うわよねぇ?」
「下手くそかっ!」
きっと、ガラテヤ様も疲れているのだ。
「ほら、そういうところですわよ~!身分の差なんて気にしない、そういう関係……憧れますわ!」
騎士とおそらく家を継がないであろう子爵令嬢の関係についてそれを言われてしまっても、あまり説得力は無いが……字面だけ見てみれば、確かに一定の需要はあるのかもしれない。
……俺はやっぱり疲れていた。
「アーハイハイ、それでいいわよそれで」
ガラテヤ様はもっと疲れていた。
彼女曰く「お上品っぽい」口調にも、ところどころボロが出ている。
「あっ、ちょっと、お待ちなさって~!もう少しだけ話を」
「「……はぁ?」」
「あっ、そ、そうですわよね!さっきまで、手合わせしていらっしゃったんでしょう?」
「そりゃあ疲れますわよねぇ」
「おっほほほほほほほ……」
この時の俺とガラテヤ様は、とんでもなくキツい目をしていたのだろう。
俺はウェンディル学園にいる時と同じように、ガラテヤ様を女子寮よろしく女子が泊まるメイラークム男爵家西棟まで見送り、それから自室へと戻る。
翌日、俺達は二人で「本気を出し過ぎた」と反省した。
そしてこれ以上に無駄な力を使わないように、残りの二日間は特に魔力を使うこともないよう、休養に専念するのであった。
10
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる