四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第七章 もう一度

第九十六話 理不尽を前に

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 もう、どうしようも無かった。

 眼前には、父さんの身体に入り込んだロディア。

 その姿は確かに見覚えのある顔つきでありながら、しかしロディアが持つ特有の禍々しさ、まさに悪魔といった特徴と雰囲気を漂わせている。

 到底、人間に勝てる相手ではない。

 それでも、俺は怒りと無力さと、その他の言いようも無い感情に突き動かされ、刀を振るった。

「うぐゥ!」

 一瞬にして、ロディアの腹部に十字の傷が生まれる。

 しかしロディアは怯みさえすれど、一切の止まる素振りを見せない。
 さらに、傷は瞬く間に回復してしまい、跡さえ残っていなかった。

 ダメージは入っているのだろうが、その底が全くもって見えないのである。

 例えるならば、防御力は並だが、体力ヒットポイントが無限に近い敵と、絶望的な場面で相対していると言うべきだろうか。

 攻撃を受けて痛がってはいるものの、全ての攻撃が「ただ痛いだけ」以上の意味を為していないようにしか見えないのである。

「ハァ、ハァ……そんなに苦しんでるフリしちゃって、効いてないんだろ……?どうせ。なぁ、ロディア」

「正解~。いやあ、強くてゴメンね。ま、痛く無いって訳じゃ無いんだけど」

「ズルいにも程がある」

「ねぇ、ジィン。良い考えがあるのだけど」

「どうしました?ガラテヤ様」

 ファーリちゃんに前線を代わってもらい、ガラテヤ様の囁きに耳を傾ける。

「ごにょごにょごにょごにょ」

「あー!その手があったか!」

 それは、このどうしようもない状況を打開する一策。

 前線のファーリちゃんを呼び、ガラテヤ様に時間を稼いてもらいながら、作戦内容をファーリちゃんにも伝えた。

「二人とも!準備はできた!?」

「ええ!」

「うん。おいらも、スタンバイおーけー」

「おやおや、また何かする気なのかい?何したって、君達に今の僕を殺すことなんて出来ないに決まってるのに」

「ああ、その通りだ。オマケに、その身体は俺の父さんのモノだからな。どこかで返してもらわなくっちゃあいけない。……だから」

「ひとまず逃げるわよ、二人とも!」

「えっ」

 ガラテヤ様は全身に風を纏い、ロディアの方を向いたまま全速力で後退を始める。

 同時に、俺も脚に風を纏わせて背後へ。

 ファーリちゃんは、雷を纏った上で、その電磁波を操作することで、リニアモーターカーの容量で洞窟の入り口まで飛び去って行った。

 道中で倒れていたマーズさんと、それを守っていたバグラディは、すでにファーリちゃんが回収していたようだ。

 二人が待っていたはずの場所には、マーズさんのものであろう血溜まりと、それからファーリちゃんが合図に残したとみられる傷が壁に残っている。

 比較的名前の知れた悪魔といえど、あの図体、それも乗っ取ったばかりで慣れていない父さんの身体で、俺達に追いつくことはできないのだろう。

 ガラテヤ様の脱出を確認し、結果的に殿しんがりを務めることとなった俺は、最後に洞窟の入り口を「砕渦さいか」で崩壊させる。

 そして、洞窟の目の前で待っていたファーリちゃん、マーズさん、バグラディと合流。

 モタモタしていると、ロディアが追いかけて来るかもしれないという危険性を視野に入れ、俺達は急いで下山することとなった。

 損害は大きい。

 マーズさんはこの戦いで、命に別状は無いものの重傷を負ってしまった。

 そして、父さんの身体が乗っ取られていることが判明した以上、俺の精神衛生もあまり良く無いことになっていると、その自覚がある。

 オマケに、これからどうすれば良いかの目処が全く立たないのだ。

 準備を整えてロディアを討伐しに行くにも、あのロディアが、あの洞窟にずっと留まっているとは思えない。

 そして、仮にまたロディアが見つかったとて、あの悪魔を倒すことができる存在が、果たしてこの世界にどれだけいるのかも分からない。

 これらの情報を得ることができただけでも収穫だと思いたいが……。
 それは、同時に俺達が圧倒的不利な状況に立たされていることを、自覚するものとなってしまっていた。
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