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第八章 終末のようなものについて
第百十三話 検討の余地
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ゴブリン達を一撃で蹴散らしたケーリッジ先生は、構えを解いてこちらを向く。
「ホッホッホ。流石でございますなあ、ケーリッジ先生」
「ざっとこんなもんです、ムーア先生」
「すごいな……」
「あれだけのパワーを出しておきながら、鍾乳洞をほとんど傷つけない技術……流石に名のある冒険者ね」
「アレは矢が着弾した瞬間に、雷を狭い範囲で爆発させるんじゃあなくて、壁にダメージを与えないギリギリの威力で拡散させるようにしたの。二人が使う特殊な風でもできるかは分からないけれど、機会があれば教えてあげても良いわよ?」
「ぜひお願いしますわ、ケーリッジ先生」
「皆。安全が確認できた。しばらく大丈夫」
俺達が話している間に、クリアリングを済ませていたファーリちゃんが前から合図を送る。
「感謝する、ファーリちゃん。本当は、騎士である私が先を行くべきなのだろうが……」
「大丈夫。偵察は得意だから」
俺達は開けた間で荷物を整理し、だんだんと道が険しくなってきていることを考慮して、鉤縄を準備することにした。
「仲がよろしいこったなァ。ロックスティラの娘に、おチビ」
袋から鉤縄を出しながら、バグラディがファーリちゃんとマーズさんに絡み始める。
「そう映っていたのなら……はは、嬉しいものだな」
「うっ……。チッ。そ、そうかよ。良かったじゃねェの」
しかし、マーズさんに相手をしてもらったらしてもらったで、しどろもどろになってしまっていた。
……何なんだ、コイツは。
「バグラディ、ヤキモチ?」
「違わァい!」
「素直じゃない」
「ウゥゥーーーンンンンン!」
言葉にならないといったところだろうか。
彼には彼なりの感情があるのだろう……こちらの知ったことではないが。
否、分かり易過ぎて逆に知ったことではない。
「ねぇ、ジィン」
「何ですか、ガラテヤ様」
「バグラディって……多分だけれど」
「皆まで言わないでおいてあげて下さい」
「……そういうことよね?」
「そういうことです」
バグラディには、「まあ頑張ってください」と。
こちらとしては、ただそれだけであった。
そうこうしている内に荷物の整理が終わり、全員が鉤縄を手に持った状態での探索が再開された。
だんだんと人が立ち入った形跡が無くなっていき、俺達はいよいよ誰も生きて帰って来ることが許されなかった領域へと踏み入っていることを自覚させられる。
そんな状況で心配されるケーリッジ先生の動きだが、彼女は右腕と右脚だけで使えるように紐を追加した鉤縄を持ち、さながら人形を扱うように、険しい道を飛び回っていた。
今でも十分に動けている気はするが、それでもかつての動きには焦がれるものなのだろうか。
「ケーリッジ。アンタ、中々やるんだな」
「褒めても何も出ないわよ?」
「別に何か強請ろうってんじゃあねェよ。ただ、現役時代の噂を聞いていた身としちゃァ、本物を目にして驚いてるってだけさ。あくまでも、革命団時代の敵として、だがなァ」
「それは光栄ね。何なら正式に編入してくる?遠距離での戦い方を覚えたくなったら、私も直々に稽古をつけてあげられるし」
「結構だ。俺は一応囚人なんだしなァ」
「ガラテヤさん。キース監獄への口利きはできるかしら?」
おおっと、雲行きが怪しくなってきたぞ。
「え、ええ……。可能ではあるけれど……バグラディを釈放しろって言うのです?」
「何か成果を上げたら、で良いわ。この子、中々才能ありそうだし。ちゃんと必要なことを学園で学んで、その後も冒険者として尽くすことも条件に加えたら、悪くない選択肢だと思うけど。一応私もそれなりに有名だった訳だし、もし使えるのなら、私の名前も使って発表すれば」
「うーん……。母様と……メイラークム男爵の承諾があれば……?」
「オイ、オレはまだ編入したいなんて一言も」
「そう!じゃあ、一通り色々と落ち着いたら、検討をお願いしようかしら!」
「え、ええ……考えておこうかしら」
あのガラテヤ様がタジタジである。
一応は味方になっているとはいえ、それなりの事件を起こした囚人の釈放に一切の躊躇が無い。
ケーリッジ先生、恐ろしい人だ。
さて、何だかんだで鍾乳洞の奥深くまで潜ってきた俺達は、遂に探索の山場となるであろう箇所へと辿り着いた。
潜り込んでから数時間、人が通った跡らしきものは、少なくはなっているものの全く無いという訳ではない。
しかし前方を見ると、今まで生きて帰って来ることができなかった人々の死因は、大方予想がつくものである。
「……何これ」
「こんな形のもの……見覚えがありませんなあ」
鎖に繋がれた、おそらくこの世界では見ないであろう武器。
その先には的らしき金属板があり、的の奥には、おそらく特殊な金属でできているであろう反射板が設置してある。
少し表面が柔らかそうになっているところを見る限り、矢でも撃とうものなら、そのままの勢いで自分の胸元へ跳ね返ってくること請け合いだろう。
鎖はそう長くないようであり、ちょうど成人男性の手が届く位置よりも少し余裕があるくらいの可動範囲でのみ動かすことが許されているようだ。
それは俺とガラテヤ様だけは見たことがあるであろう武器。
紛れもない、拳銃そのものであった。
「ホッホッホ。流石でございますなあ、ケーリッジ先生」
「ざっとこんなもんです、ムーア先生」
「すごいな……」
「あれだけのパワーを出しておきながら、鍾乳洞をほとんど傷つけない技術……流石に名のある冒険者ね」
「アレは矢が着弾した瞬間に、雷を狭い範囲で爆発させるんじゃあなくて、壁にダメージを与えないギリギリの威力で拡散させるようにしたの。二人が使う特殊な風でもできるかは分からないけれど、機会があれば教えてあげても良いわよ?」
「ぜひお願いしますわ、ケーリッジ先生」
「皆。安全が確認できた。しばらく大丈夫」
俺達が話している間に、クリアリングを済ませていたファーリちゃんが前から合図を送る。
「感謝する、ファーリちゃん。本当は、騎士である私が先を行くべきなのだろうが……」
「大丈夫。偵察は得意だから」
俺達は開けた間で荷物を整理し、だんだんと道が険しくなってきていることを考慮して、鉤縄を準備することにした。
「仲がよろしいこったなァ。ロックスティラの娘に、おチビ」
袋から鉤縄を出しながら、バグラディがファーリちゃんとマーズさんに絡み始める。
「そう映っていたのなら……はは、嬉しいものだな」
「うっ……。チッ。そ、そうかよ。良かったじゃねェの」
しかし、マーズさんに相手をしてもらったらしてもらったで、しどろもどろになってしまっていた。
……何なんだ、コイツは。
「バグラディ、ヤキモチ?」
「違わァい!」
「素直じゃない」
「ウゥゥーーーンンンンン!」
言葉にならないといったところだろうか。
彼には彼なりの感情があるのだろう……こちらの知ったことではないが。
否、分かり易過ぎて逆に知ったことではない。
「ねぇ、ジィン」
「何ですか、ガラテヤ様」
「バグラディって……多分だけれど」
「皆まで言わないでおいてあげて下さい」
「……そういうことよね?」
「そういうことです」
バグラディには、「まあ頑張ってください」と。
こちらとしては、ただそれだけであった。
そうこうしている内に荷物の整理が終わり、全員が鉤縄を手に持った状態での探索が再開された。
だんだんと人が立ち入った形跡が無くなっていき、俺達はいよいよ誰も生きて帰って来ることが許されなかった領域へと踏み入っていることを自覚させられる。
そんな状況で心配されるケーリッジ先生の動きだが、彼女は右腕と右脚だけで使えるように紐を追加した鉤縄を持ち、さながら人形を扱うように、険しい道を飛び回っていた。
今でも十分に動けている気はするが、それでもかつての動きには焦がれるものなのだろうか。
「ケーリッジ。アンタ、中々やるんだな」
「褒めても何も出ないわよ?」
「別に何か強請ろうってんじゃあねェよ。ただ、現役時代の噂を聞いていた身としちゃァ、本物を目にして驚いてるってだけさ。あくまでも、革命団時代の敵として、だがなァ」
「それは光栄ね。何なら正式に編入してくる?遠距離での戦い方を覚えたくなったら、私も直々に稽古をつけてあげられるし」
「結構だ。俺は一応囚人なんだしなァ」
「ガラテヤさん。キース監獄への口利きはできるかしら?」
おおっと、雲行きが怪しくなってきたぞ。
「え、ええ……。可能ではあるけれど……バグラディを釈放しろって言うのです?」
「何か成果を上げたら、で良いわ。この子、中々才能ありそうだし。ちゃんと必要なことを学園で学んで、その後も冒険者として尽くすことも条件に加えたら、悪くない選択肢だと思うけど。一応私もそれなりに有名だった訳だし、もし使えるのなら、私の名前も使って発表すれば」
「うーん……。母様と……メイラークム男爵の承諾があれば……?」
「オイ、オレはまだ編入したいなんて一言も」
「そう!じゃあ、一通り色々と落ち着いたら、検討をお願いしようかしら!」
「え、ええ……考えておこうかしら」
あのガラテヤ様がタジタジである。
一応は味方になっているとはいえ、それなりの事件を起こした囚人の釈放に一切の躊躇が無い。
ケーリッジ先生、恐ろしい人だ。
さて、何だかんだで鍾乳洞の奥深くまで潜ってきた俺達は、遂に探索の山場となるであろう箇所へと辿り着いた。
潜り込んでから数時間、人が通った跡らしきものは、少なくはなっているものの全く無いという訳ではない。
しかし前方を見ると、今まで生きて帰って来ることができなかった人々の死因は、大方予想がつくものである。
「……何これ」
「こんな形のもの……見覚えがありませんなあ」
鎖に繋がれた、おそらくこの世界では見ないであろう武器。
その先には的らしき金属板があり、的の奥には、おそらく特殊な金属でできているであろう反射板が設置してある。
少し表面が柔らかそうになっているところを見る限り、矢でも撃とうものなら、そのままの勢いで自分の胸元へ跳ね返ってくること請け合いだろう。
鎖はそう長くないようであり、ちょうど成人男性の手が届く位置よりも少し余裕があるくらいの可動範囲でのみ動かすことが許されているようだ。
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紛れもない、拳銃そのものであった。
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