四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第九章 在るべき姿の世界

第百二十六話 雪景色

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 馬車を放棄してから一週間後。

 徒歩で北へと向かった俺達はついに、真っ白な景色の中に埋もれるチミテリア山へと辿り着いた。

「ふぅ。やっとひと段落、といったところね」

「そうですね。いやあ、ハードな道のりでした……」

「いやはや、現役を退いてもトレーニングを続けたことを、これほどありがたいも思う日も珍しいですな」

「……ムーア先生、おじいちゃんなのに元気」

「ホッホッホ。腰だけはついてこない時もありますが、戦士たるもの、健康が一番ですぞ!よく食べて、よく遊んで、よく寝る、ただそれだけで、強い身体は手に入ります。強くなりたくば、基礎こそ、忘れてはなりませんぞ」

「わかった。がんばる」

 一人だけピンピンしているムーア先生をよそに俺も含めたパーティメンバーは、既にクタクタになってしまっていた。

「こんなに過酷な道、現役の頃ですら来れてなかったのに……パワードスーツ無しで徒歩はキツいわよー!」

 左腕と左脚の機能が鈍っているケーリッジ先生は、メイラークム先生に肩を貸してもらっている。
 しかし他のメンバーにも増して足場の悪さに苦しめられており、身体が思うように動かないことに、肉体面以上に精神面でのダメージが大きいようであった。

「まあまあ、ケーリッジ先生。アロザラ町で解いた謎のこともありますけど、貴方が使うパワードスーツの安全性を確かめるために、ここまで来てくれているんですから。頑張りましょ?」

「そうだけど……ごめんね、メイラークム先生。ずっと肩貸してもらっちゃって」

「構わないわよ。あのケーリッジ先生が今、隣で私の肩を借りてると思うだけで興ふ……満足だもの」

「メイラークム先生?」

 また、メイラークム先生の様子が時々おかしくなっているのは、いつものことである。

 さて、俺達は魔法薬を使いながら、その反動分を取り返すための休憩も挟みつつ、やっとのことで山の麓まで辿り着いたのだが……。

「こ、これは流石に……身体に堪えるな……」

「果てって呼ばれてンのはァ……伊達じゃあねェってなァ……ゼェ……ハァ……」

「寒いって、こんなに体力奪われるのネ……。一日歩き続けるよりも、まだウチで丸三日、武器作ってた方が楽に感じるワ……」

 魔法薬が身体に合わなかった三人は、俺達よりもさらに辛そうであった。

 休憩を挟んではいるものの、疲労が少しずつ蓄積しているようであり、寝て起きた時には満身創痍といった日も少なくなかった。

 ここで一度、風に当たらない小さめの洞穴にでも入り、火を焚いて暖をとりたいところである。

 俺達は麓から少しだけ山を登り、洞穴へと入っていった。

 それから数十分後。

 俺達は焚き火の周りへ集まり、洞窟の中に仮の拠点を作った。

 これからチミテリア山を探索するにあたって、拠点無しでは不安が付き纒う。
 故に何名かはここへ残り、時と場合に応じたメンバーで、何回かに分けて山を調査することになったのである。

 そして、この洞穴はそこまで広くないらしく、入り口から歩いて数分で、奥まで着いてしまう程だった。
 しかし魔物もおらず、また水源もみられたため、拠点としては悪くない場所だろう。

 少々不安な要素もあるが、ここよりマシな洞穴が他にあるとも限らない。
 バグラディは拠点の位置を示すため、持ってきた木の棒に布の先を巻きつけて即席の旗を用意し、洞窟の入り口に立てかけたのであった。

 いよいよ、チミテリア山の探索が始まる。
 パワードスーツの秘密と、北の果てに残された謎の真相を求めて。

 しかしこの時の俺達は、知らなかった。

 ただ、何も知らなかったのだ。
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