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第九章 在るべき姿の世界
第百四十八話 そして救世主達は
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一週間後。
先生達は、放心状態の俺達を乗せた馬車を急いで走らせ、アロザラ町へ。
交代で馬車の操縦をしていたのか、ノンストップで車体は揺れていた。
「マーズ様は、誠に立派でございました。ロックスティラ第七隊長には、辛い思いをさせてしまうでしょうが……このまま言わずにいることは、不可能でございます。私の方から説明すれば、何とか……彼も、向き合ってくれるでしょう」
「それで、こっちは悪魔に取り憑かれていたジノア・セラムの肉体。キース監獄が襲われた時に連れられたものが、そのまま利用されたみたい」
特に騎士として名高いムーア先生と、かつて冒険者として名を馳せたケーリッジ先生は、町の防衛隊長に、「果て」で起きたことのあらましを説明する。
「じょ、情報量が多いでございます、お二方」
「それと、ジィン君のことだけど……『信奉者たち』からは、死から蘇った救世主だと思われているのだったかしら?そのお父さんが、悪魔の依代だったことは……公にはしない方が良いかも」
そこにメイラークム先生が、国とは切っても切り離せない倫理を形成した教団周りの話を追撃のように切り出す。
「あ、あわわわわわ……」
隊長は情報量に頭が追いついていないようだったが……この調子でブッ飛んだ話題がしばらくは出続けるのだ。
トンデモ話にも、じきに慣れるだろう。
一方のメイラークム先生は、チミテリア山の雪と、冷却を促進する薬を用いて氷漬けにしておいたマーズさんの遺体を手入れしていた。
定期的に薬は塗り直さなければならないらしく、大変そうだったが……俺に、それを手伝う気力は残っていなかった。
「なァ、メイラークムせんせェ。オレにも、手伝わせてくれよ」
一番に手を上げたのは、バグラディ・ガレア。
しかし、マーズさんの死に顔を見るや否や、彼はまた泣き出してしまった。
「……もう少し、時が過ぎてからにしなさい。あなたが悲しみに耐えられなくなってまで、遺体を整えろだなんて……マーズちゃんは、きっと言わないハズよ」
「あ、あァ……!す、すまねェ、せんせェ」
誰一人悲しみから立ち直る間もなく、アロザラ町を出発する。
ロディアの襲撃から逃れた教団の者達は、俺達を救世主だ何だと騒ぎ立てていた。
贈り物らしきものも、馬車の荷台から溢れるほど届けられたが……今は、それを見る元気も残っていない。
得たものは、ジノア・セラムの遺体と、人間達がロディアに貪り食われない権利。
失ったものは、マーズさんとアドラさん、そして数々の物資と、ガラテヤ様からもらった剣。
果てして、仲間を失ってまで、この世界を悪魔から守るメリットはあったのだろうか。
もしもロディアが、俺やガラテヤ様ではなく、俺達とは何の関わりもない人間を襲っていたなら、俺はチミテリア山へ向かっただろうか。
向かおうとする仲間達を、引き留めはしなかっただろうか。
「命って、つくづく平等じゃないな」
「ジィン?」
今の俺達は、皆の言う通り救世主なのかもしれない。
しかし、少なくとも俺は、そう思ってはいない。
今の俺は、ただ仲間を守れなかった、弱い男だ。
心配してくれたのか、ガラテヤ様が側へやってくる。
「……ガラテヤ様は、死なないで」
「ええ、大丈夫よ。大丈夫。……ほら、おいで」
「ガラテヤ様……!うぅ」
そしてガラテヤ様は両手を前に広げ、俺はそこへ飛び込むように倒れ込んだ。
「よしよし。辛かったね」
その口調に、ふと、かつての姉がよぎる。
「姉ちゃん……!姉ちゃん……」
ガラテヤ様も、心が千切れてしまうほどに辛いハズだ。
なのに、こうして俺を抱きしめてくれる腕の中は、こんなにも温かい。
夜が明け、荷台に降ろされた布の隙間から朝日が差し込む。
俺は眠ってしまったガラテヤ様に自身が被っていた布団をかけ、そのまま朝焼けに、旅の終わりと、新たなる日々の始まりを見出すのであった。
先生達は、放心状態の俺達を乗せた馬車を急いで走らせ、アロザラ町へ。
交代で馬車の操縦をしていたのか、ノンストップで車体は揺れていた。
「マーズ様は、誠に立派でございました。ロックスティラ第七隊長には、辛い思いをさせてしまうでしょうが……このまま言わずにいることは、不可能でございます。私の方から説明すれば、何とか……彼も、向き合ってくれるでしょう」
「それで、こっちは悪魔に取り憑かれていたジノア・セラムの肉体。キース監獄が襲われた時に連れられたものが、そのまま利用されたみたい」
特に騎士として名高いムーア先生と、かつて冒険者として名を馳せたケーリッジ先生は、町の防衛隊長に、「果て」で起きたことのあらましを説明する。
「じょ、情報量が多いでございます、お二方」
「それと、ジィン君のことだけど……『信奉者たち』からは、死から蘇った救世主だと思われているのだったかしら?そのお父さんが、悪魔の依代だったことは……公にはしない方が良いかも」
そこにメイラークム先生が、国とは切っても切り離せない倫理を形成した教団周りの話を追撃のように切り出す。
「あ、あわわわわわ……」
隊長は情報量に頭が追いついていないようだったが……この調子でブッ飛んだ話題がしばらくは出続けるのだ。
トンデモ話にも、じきに慣れるだろう。
一方のメイラークム先生は、チミテリア山の雪と、冷却を促進する薬を用いて氷漬けにしておいたマーズさんの遺体を手入れしていた。
定期的に薬は塗り直さなければならないらしく、大変そうだったが……俺に、それを手伝う気力は残っていなかった。
「なァ、メイラークムせんせェ。オレにも、手伝わせてくれよ」
一番に手を上げたのは、バグラディ・ガレア。
しかし、マーズさんの死に顔を見るや否や、彼はまた泣き出してしまった。
「……もう少し、時が過ぎてからにしなさい。あなたが悲しみに耐えられなくなってまで、遺体を整えろだなんて……マーズちゃんは、きっと言わないハズよ」
「あ、あァ……!す、すまねェ、せんせェ」
誰一人悲しみから立ち直る間もなく、アロザラ町を出発する。
ロディアの襲撃から逃れた教団の者達は、俺達を救世主だ何だと騒ぎ立てていた。
贈り物らしきものも、馬車の荷台から溢れるほど届けられたが……今は、それを見る元気も残っていない。
得たものは、ジノア・セラムの遺体と、人間達がロディアに貪り食われない権利。
失ったものは、マーズさんとアドラさん、そして数々の物資と、ガラテヤ様からもらった剣。
果てして、仲間を失ってまで、この世界を悪魔から守るメリットはあったのだろうか。
もしもロディアが、俺やガラテヤ様ではなく、俺達とは何の関わりもない人間を襲っていたなら、俺はチミテリア山へ向かっただろうか。
向かおうとする仲間達を、引き留めはしなかっただろうか。
「命って、つくづく平等じゃないな」
「ジィン?」
今の俺達は、皆の言う通り救世主なのかもしれない。
しかし、少なくとも俺は、そう思ってはいない。
今の俺は、ただ仲間を守れなかった、弱い男だ。
心配してくれたのか、ガラテヤ様が側へやってくる。
「……ガラテヤ様は、死なないで」
「ええ、大丈夫よ。大丈夫。……ほら、おいで」
「ガラテヤ様……!うぅ」
そしてガラテヤ様は両手を前に広げ、俺はそこへ飛び込むように倒れ込んだ。
「よしよし。辛かったね」
その口調に、ふと、かつての姉がよぎる。
「姉ちゃん……!姉ちゃん……」
ガラテヤ様も、心が千切れてしまうほどに辛いハズだ。
なのに、こうして俺を抱きしめてくれる腕の中は、こんなにも温かい。
夜が明け、荷台に降ろされた布の隙間から朝日が差し込む。
俺は眠ってしまったガラテヤ様に自身が被っていた布団をかけ、そのまま朝焼けに、旅の終わりと、新たなる日々の始まりを見出すのであった。
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