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休憩を挟んだのが良かったのか、ユーコはすっかり落ち着きを取り戻していた。
先ほどのように三人並んでソファに腰かけた状態でユーコはブラブラと足を上下に揺らしている。
「幽霊って、私も含めてだけど感情的になりやすいのかしら。身体が……脳が無いと感情の制御が難しいとか? まぁ実際はどうだか知らないけど」
小首を傾げて自己分析をした後、ユーコは弟切の家で起こった出来事の続きを語りだした。
「――弟切の犠牲になった子たちに囲まれて、私はさっきみたいに暴走したの。みんなの気持ちが、そのまま私の中に流れ込んできて、とてもじゃないけど抑えられなかったのよ」
弟切に対する『恨み』で頭の中は真っ黒に塗りつぶされていた。
その状態でユーコは少女たちに先導されるまま、弟切のいる地下室へ向かったのだった。
「部屋に飛び込んで弟切の姿を見た瞬間、もう気持ちが抑えられなかった」
目の前には屈みこんだ弟切の無防備な背中――しかもそこには弟切が用意した道具がそろっていた。
その中から無意識で包丁を選び出し、ユーコは躊躇うことなく目の前の背中にそれを突き刺した。
「初めて人を刺したのに罪悪感は一切感じなかったわ。まぁ、相手が相手だから……って理由もあるけど」
ユーコの説明を聞いて十束は直ぐに警察署の仮眠室で見た夢の一端を思い出した。
握った包丁が目の前の背中にずぶりとめり込む生々しい感触までが右手によみがえってくるようだ。
「……そして弟切を殺して、首を切り取った後に交番に持って行ったわけか?」
十束の問いに、ユーコはふるふると首を横に振った。
「それが弟切をぶっ刺した直後、予想だにしないアクシデントが起こってね。ほら、誘拐されて地下室に連れていかれた女の子がいたじゃない? その子が弟切に噛みついたのよ」
そんなことは何でもないと言わんばかりにユーコが言い放った一言に十束は唖然とした。
「……は? 被害者の女の子が?」
つまり、その子はユーコが地下室へたどり着いた時、幸いにも生きていたということか……。
「じゃあ、その子は助かったんだな? 無事なら、今どこにいるんだ?」
矢継ぎ早に尋ねながら、十束はユーコの肩を掴み、ぐいっと顔を近づけた。
ユーコはキョトンとした顔で二三度瞬きをした後、手を上げて十束の後ろを指さした。
「無事も何も、刑事さんの隣にいるけど」
「えぇ……?」
驚いて振り返った十束に、ヨミが、はいと控えめに手をあげて応えた。
「刑事さん、気づいてなかったのね……」
やれやれ、といった調子で肩をすくめながら、ユーコが十束を流し目で見た。
「一昨日の事件を思い出してみて。あの時、これまでの事件とは違って現場に遺体が残されていたから当然、梅蕙の死体は検死にまわされたはずでしょう?」
ずいっとユーコが隣の十束ににじり寄った。
「そのとおりだが……」
「そこで噛み跡とか、ミイラ化とかの証拠や異常が当然、確認されるはずよね。……つまり犯人が死体を持ち去った理由が証拠や異常性を隠ぺいするためで、それ以前の事件の弟切の死体にも同様の痕跡があると推測できるわよねえ?」
さらに、ユーコは腰を浮かせて十束の上に屈みこむようにして興奮した様子でまくし立てた。
「んん……確かに」
「さらに今日になってから確定した情報、私とヨミの関係……連続殺人事件が二人の共犯ということであれば、死体に『噛み痕をつけた』のが私じゃないとすれば?」
さらり、とユーコの長い髪が十束の頬にかかった。ユーコのツンととがった形のよい唇がすぐ目の前にまで迫っている。
「わ、わかった! 分かったから落ち着けユーコ!」
十束は両手を上げ、推理小説の探偵役のように早口でまくし立てるユーコを押しとどめるようにストップをかけた。
黒い靄こそ出ていないが、ある意味すごい迫力だ。
くすくす……と十束の後ろでヨミが笑い声が響いた。
「ユーコちゃん、考察とか解説がメチャクチャ好きだもんねぇ……」
苦笑しながらそう言うヨミに、十束は、以前ヨミも同じような目にあったんだなと確信した。
「……うぅ……」
小声で呻きながら、ユーコはじりじりと後ろに下がった。長い睫毛の瞳は伏せられ、顔は真っ赤になっている。
「……また、やっちゃった……。もう、マジでごめん。しばらく反省……いや猛省しまする。ヨミ、後は頼んだわ……」
ユーコの姿が徐々に薄くなりかき消えるように空気に溶けていく。
「はーい、了解でーす」
消えていくユーコに両手を振ってから、ヨミは十束の方に向き直り、ぺこりと軽く頭を下げた。
「ユーコちゃんに代わって、ここからは私が話します。十束さん、どうぞ最後までお付き合いくださいね」
にこ、と笑顔を浮かべてヨミは十束を見つめている。
――いや、ヨミちゃんも情報を端折りすぎるとこ、あるよね?
「……了解」
心の中でつっこみながらも、十束は手短に返事をした。
冗舌なユーコと簡潔すぎるヨミ……、二人を足して二で割れば丁度良くなるんじゃないだろうか……なんて馬鹿なことをつい考えてしまう。
先ほどのように三人並んでソファに腰かけた状態でユーコはブラブラと足を上下に揺らしている。
「幽霊って、私も含めてだけど感情的になりやすいのかしら。身体が……脳が無いと感情の制御が難しいとか? まぁ実際はどうだか知らないけど」
小首を傾げて自己分析をした後、ユーコは弟切の家で起こった出来事の続きを語りだした。
「――弟切の犠牲になった子たちに囲まれて、私はさっきみたいに暴走したの。みんなの気持ちが、そのまま私の中に流れ込んできて、とてもじゃないけど抑えられなかったのよ」
弟切に対する『恨み』で頭の中は真っ黒に塗りつぶされていた。
その状態でユーコは少女たちに先導されるまま、弟切のいる地下室へ向かったのだった。
「部屋に飛び込んで弟切の姿を見た瞬間、もう気持ちが抑えられなかった」
目の前には屈みこんだ弟切の無防備な背中――しかもそこには弟切が用意した道具がそろっていた。
その中から無意識で包丁を選び出し、ユーコは躊躇うことなく目の前の背中にそれを突き刺した。
「初めて人を刺したのに罪悪感は一切感じなかったわ。まぁ、相手が相手だから……って理由もあるけど」
ユーコの説明を聞いて十束は直ぐに警察署の仮眠室で見た夢の一端を思い出した。
握った包丁が目の前の背中にずぶりとめり込む生々しい感触までが右手によみがえってくるようだ。
「……そして弟切を殺して、首を切り取った後に交番に持って行ったわけか?」
十束の問いに、ユーコはふるふると首を横に振った。
「それが弟切をぶっ刺した直後、予想だにしないアクシデントが起こってね。ほら、誘拐されて地下室に連れていかれた女の子がいたじゃない? その子が弟切に噛みついたのよ」
そんなことは何でもないと言わんばかりにユーコが言い放った一言に十束は唖然とした。
「……は? 被害者の女の子が?」
つまり、その子はユーコが地下室へたどり着いた時、幸いにも生きていたということか……。
「じゃあ、その子は助かったんだな? 無事なら、今どこにいるんだ?」
矢継ぎ早に尋ねながら、十束はユーコの肩を掴み、ぐいっと顔を近づけた。
ユーコはキョトンとした顔で二三度瞬きをした後、手を上げて十束の後ろを指さした。
「無事も何も、刑事さんの隣にいるけど」
「えぇ……?」
驚いて振り返った十束に、ヨミが、はいと控えめに手をあげて応えた。
「刑事さん、気づいてなかったのね……」
やれやれ、といった調子で肩をすくめながら、ユーコが十束を流し目で見た。
「一昨日の事件を思い出してみて。あの時、これまでの事件とは違って現場に遺体が残されていたから当然、梅蕙の死体は検死にまわされたはずでしょう?」
ずいっとユーコが隣の十束ににじり寄った。
「そのとおりだが……」
「そこで噛み跡とか、ミイラ化とかの証拠や異常が当然、確認されるはずよね。……つまり犯人が死体を持ち去った理由が証拠や異常性を隠ぺいするためで、それ以前の事件の弟切の死体にも同様の痕跡があると推測できるわよねえ?」
さらに、ユーコは腰を浮かせて十束の上に屈みこむようにして興奮した様子でまくし立てた。
「んん……確かに」
「さらに今日になってから確定した情報、私とヨミの関係……連続殺人事件が二人の共犯ということであれば、死体に『噛み痕をつけた』のが私じゃないとすれば?」
さらり、とユーコの長い髪が十束の頬にかかった。ユーコのツンととがった形のよい唇がすぐ目の前にまで迫っている。
「わ、わかった! 分かったから落ち着けユーコ!」
十束は両手を上げ、推理小説の探偵役のように早口でまくし立てるユーコを押しとどめるようにストップをかけた。
黒い靄こそ出ていないが、ある意味すごい迫力だ。
くすくす……と十束の後ろでヨミが笑い声が響いた。
「ユーコちゃん、考察とか解説がメチャクチャ好きだもんねぇ……」
苦笑しながらそう言うヨミに、十束は、以前ヨミも同じような目にあったんだなと確信した。
「……うぅ……」
小声で呻きながら、ユーコはじりじりと後ろに下がった。長い睫毛の瞳は伏せられ、顔は真っ赤になっている。
「……また、やっちゃった……。もう、マジでごめん。しばらく反省……いや猛省しまする。ヨミ、後は頼んだわ……」
ユーコの姿が徐々に薄くなりかき消えるように空気に溶けていく。
「はーい、了解でーす」
消えていくユーコに両手を振ってから、ヨミは十束の方に向き直り、ぺこりと軽く頭を下げた。
「ユーコちゃんに代わって、ここからは私が話します。十束さん、どうぞ最後までお付き合いくださいね」
にこ、と笑顔を浮かべてヨミは十束を見つめている。
――いや、ヨミちゃんも情報を端折りすぎるとこ、あるよね?
「……了解」
心の中でつっこみながらも、十束は手短に返事をした。
冗舌なユーコと簡潔すぎるヨミ……、二人を足して二で割れば丁度良くなるんじゃないだろうか……なんて馬鹿なことをつい考えてしまう。
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