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第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
第26話 姐さんのこと その二
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「それでアル、キリちゃんは平気かな? もちろん彼女のことは、わたしたちがこの身に代えても守るつもりだけど」
小さな女の子に負担を掛けるのは、白音としても心苦しかった。
しかし斉木の使った洗脳魔法清き一票を確実に消し去るには、キリの持つ魔法解除がどうしても必要だった。
キリは、今はアルトルドの大きな膝の上ですやすやと寝息を立てている。
「もちろんです! 隊長がいて下さるので何の心配もしていません。存分にお役立て下さい!!」
アルトルドが大きな声を出したので、キリがその膝の上で身じろぎをして、
「んー」
と声を出す。
「いや、えと、あんまり無理はさせないでね。まだ小さいんだから。こっちもキリちゃんの体調には気を付けてるから、よろしくね」
アルトルドがまた大きな声で返事をしそうだと思ったので、白音は先に唇に人差し指を立てて黙らせた。
「でもさ、そらちゃんが頭の中覗いてくれたら、魔法なんて簡単に解けるんじゃないの?」
洗脳魔法に決してかかることのない莉美が、そらに尋ねた。
「私のは頭の中を引っかき回して、思考があの洗脳魔法に引っ張られないようにしてるだけ。解いてはないの。ただ、もう斉木は地下牢に閉じ込めて無力化してるし、術は発動してないみたいだから大丈夫だとは思う」
そらの言葉と同時に、白音たちの脳内に陣取っていたそらのアイコンが、ウインクをしてハートマークを飛ばした。
全員の心を悶絶させるだけの処理能力と魅力がそらにはある。
「念のためよ、莉美。頭の中にそういう洗脳魔法が潜伏してると困るから、完全に取り除いておいて欲しいのよ。あとで突然働き始めたら嫌でしょ?」
白音のその言葉を聞いて、莉美がはっと頭を押さえる。
「なんか入ってるの?!」
そんな莉美の頭を佳奈が、ちょっと確かめるようにぽんぽんと叩く。
「なーんにも入ってないよ。うん。入ってない。お前だけは何があっても大丈夫だよ」
「むぅ……。佳奈ちゃんには言われたくない」
「ハハハ」
しばらく談笑しているとキリが目を覚ましたので、ここにいる者たちで魔法解除を試してもらおうという話になった。
魔法による精神操作の懸念を払拭しつつ、明日の予行演習を兼ねるつもりだ。
アルトルドによれば、キリが魔法を解除するためには、相手に触れる必要があるとのことだった。
白音はそのことが事前に分かって良かったと思った。
明日は二心を抱く者がいるかもしれないので、キリとの接触の際には細心の注意を払わなければいけないだろう。
キリが順に白音たちに触れていくが、特に誰も変化はなく、問題も起こらなかった。
しかしいつきの番になり、彼女がキリの前に座ると、突然口の中からリプリンが飛び出した。
「うぎょろげぇぇぇ…………っす」
智頭やアルトルドなどはそれが初見だったので、随分驚いたようだった。
キリも泣き出しこそしなかったが、完全に固まって思考停止してしまっている。
「おお、それそれ!! さっき見た奴。新しい魔法?」
佳奈が一番に興味を示した。
白音の翼を綺麗に絡め取って見せた技が、かなり気になっていたらしい。
「いや、えと、違うっす……。僕の魔法じゃないっすよ……」
いつきは皆が見ている前で変な声を出さされて、少し恥ずかしそうにしている。
「彼女はリプリンちゃんっす。しばらく静かだったから、多分寝てたんだと思うっすが……」
いまいち人の形を取らずに、ぐずぐずと粘液質の塊のままで揺れるリプリンを見ていると、確かに寝起きでぼーっとしているように見えなくもない。
「リプ、リン、チャン?」
佳奈が変なリズムを付けて聞き返した。
ふよふよと風もないのに揺蕩っていたスライムが、やがてゆっくりと女の子の形を取り始めると、さすがに佳奈も動揺した。
「お、おお? 何? 人?!」
「おはよー、わたしリプリン!!」
ようやく寝起きの頭が働き始めたらしい。
いつものリプリンの姿になる。
「洗脳って何? 怖い。わたしも取って!!」
寝ぼけていても、なんとなく話の流れは把握しているらしい。
「あ、莉美パパ!!」
しかしリプリンは莉美を見つけると、まっしぐらにその胸に飛び込んでいった。
というか、お互いの豊かな胸をぶつけ合う。
「おお娘よ!! 大きゅうなったのぅ」
莉美はリプリンをあっさりと受け容れてしまった。
むぎゅっとふたりで抱き合う。
「いや、えっと……。ごめん、待って。ツッコミが追いつかない。キリちゃん大丈夫? ごめんね。悪いスライムじゃないの。ちょっと触り心地が斬新な子だけど仲良くしてあげて?」
白音が慌ててキリに取り成しながら、ぶにぶにとリプリンを突っついてみせる。
「んー…………、キリちゃん! よろしくね。あなたも触ってみる?」
そう言いながらリプリンは体の表面にぞわぞわとさざ波を立てている。
キリの方に近づこうとしないのは、まだ少し警戒されているからだろう。
すっかり距離感が計れるスライムになった。
「それとリプリン、あなたには洗脳魔法、かかってないと思うわよ?」
白音は追いつかなかったツッコミを、律儀にひとつずつ解決していくことにした。
「そーなの?」
「斉木もあなたのことそこにいるって知らなかったでしょうし、対象になってないわ。それにあなた、ディスペルしたらただの水、とかにならない?」
「なんないもん!! そんなのみんなだって一緒だもん」
リプリンがちょっと怒った。
『ただの水』呼ばわりが心外だったのだろう。
「白音ちゃん、ディスペルで生物としての形を保てなくなるなら、人も血と肉の塊になると思うの」
そらが種族の垣根に囚われない中立な意見を述べた。
彼女は先程白音の頭の中を覗いているから、リプリンのことももう理解しているはずだ。
「そらちゃん、怖いこと言わないで……」
でもまあそうか、と白音も思う。
それに、人間も『ただの血と肉の塊』呼ばわりをされたら嫌だろう。
「確かにかかってる魔法が解けるだけよね。念のためやってもらう?」
「はーい」
しかし喜んで手を上げるリプリンのコスチュームは、デザインこそ以前と同じだが、色がいつきと同じ鮮やかなオレンジ色に染まっている。
「それで、どうしてその色なの?」
「んー……。白音ちゃんのピンク色の時と同じなの?」
「いや、こっちに聞かれても……。いつきちゃんの中に入ってたからその魔力色が移ったってことね?」
「多分そー」
色移りしやすいデリケートな衣類みたいだ。
「それで佳奈、この子はいつきちゃんの魔法じゃないわ。スライムの子なのよ」
白音がそのスライムであるリプリンとの馴れ初めを、かいつまんで説明する。
「わたしが初めて魔法少女に変身した時、スライムがたくさんいたでしょ。あれってリプリンを標的にして追ってきてたみたい。それでリプリンはわたしの口から体の中に入って、ずっと隠れてたんですって」
その時その場に居合わせた佳奈と莉美にすれば、それは衝撃的な事実だった。
しかし……、
「白音ちゃんの3キロ増量の元!!」
リプリンがそう自己紹介すると、ふたりはなんとなく納得できてぷっと吹き出した。
「もう…………。それで名前はリプリンね。ちゃんはちゃんよ。名前じゃないわ」
「白音ちゃんに付けてもらったの!!」
リプリンが嬉しそうにそう付け加えると、莉美が少し考えるような顔をした。
「何よ、莉美」
「ううん。白音ちゃんの付けた名前、かわいいなと思って」
莉美はもう一度リプリンをしっかりと抱き寄せた。
きっと自分で名前を付けたかったのだろう。
莉美は割となんにでも名前を付けたがる。
自分の娘を名乗る女の子になら、なおさらだろう。
「パパー!」
「はいよー」
「いや……あんたたち…………」
白音がどうツッコめば良いものやらと言葉を探して口ごもると、莉美とリプリンがまるでシンクロするように揃って白音の方を見た。
「んー?」
「んー?」
ふたりで、綺麗なユニゾンを披露してくれる。
小さな女の子に負担を掛けるのは、白音としても心苦しかった。
しかし斉木の使った洗脳魔法清き一票を確実に消し去るには、キリの持つ魔法解除がどうしても必要だった。
キリは、今はアルトルドの大きな膝の上ですやすやと寝息を立てている。
「もちろんです! 隊長がいて下さるので何の心配もしていません。存分にお役立て下さい!!」
アルトルドが大きな声を出したので、キリがその膝の上で身じろぎをして、
「んー」
と声を出す。
「いや、えと、あんまり無理はさせないでね。まだ小さいんだから。こっちもキリちゃんの体調には気を付けてるから、よろしくね」
アルトルドがまた大きな声で返事をしそうだと思ったので、白音は先に唇に人差し指を立てて黙らせた。
「でもさ、そらちゃんが頭の中覗いてくれたら、魔法なんて簡単に解けるんじゃないの?」
洗脳魔法に決してかかることのない莉美が、そらに尋ねた。
「私のは頭の中を引っかき回して、思考があの洗脳魔法に引っ張られないようにしてるだけ。解いてはないの。ただ、もう斉木は地下牢に閉じ込めて無力化してるし、術は発動してないみたいだから大丈夫だとは思う」
そらの言葉と同時に、白音たちの脳内に陣取っていたそらのアイコンが、ウインクをしてハートマークを飛ばした。
全員の心を悶絶させるだけの処理能力と魅力がそらにはある。
「念のためよ、莉美。頭の中にそういう洗脳魔法が潜伏してると困るから、完全に取り除いておいて欲しいのよ。あとで突然働き始めたら嫌でしょ?」
白音のその言葉を聞いて、莉美がはっと頭を押さえる。
「なんか入ってるの?!」
そんな莉美の頭を佳奈が、ちょっと確かめるようにぽんぽんと叩く。
「なーんにも入ってないよ。うん。入ってない。お前だけは何があっても大丈夫だよ」
「むぅ……。佳奈ちゃんには言われたくない」
「ハハハ」
しばらく談笑しているとキリが目を覚ましたので、ここにいる者たちで魔法解除を試してもらおうという話になった。
魔法による精神操作の懸念を払拭しつつ、明日の予行演習を兼ねるつもりだ。
アルトルドによれば、キリが魔法を解除するためには、相手に触れる必要があるとのことだった。
白音はそのことが事前に分かって良かったと思った。
明日は二心を抱く者がいるかもしれないので、キリとの接触の際には細心の注意を払わなければいけないだろう。
キリが順に白音たちに触れていくが、特に誰も変化はなく、問題も起こらなかった。
しかしいつきの番になり、彼女がキリの前に座ると、突然口の中からリプリンが飛び出した。
「うぎょろげぇぇぇ…………っす」
智頭やアルトルドなどはそれが初見だったので、随分驚いたようだった。
キリも泣き出しこそしなかったが、完全に固まって思考停止してしまっている。
「おお、それそれ!! さっき見た奴。新しい魔法?」
佳奈が一番に興味を示した。
白音の翼を綺麗に絡め取って見せた技が、かなり気になっていたらしい。
「いや、えと、違うっす……。僕の魔法じゃないっすよ……」
いつきは皆が見ている前で変な声を出さされて、少し恥ずかしそうにしている。
「彼女はリプリンちゃんっす。しばらく静かだったから、多分寝てたんだと思うっすが……」
いまいち人の形を取らずに、ぐずぐずと粘液質の塊のままで揺れるリプリンを見ていると、確かに寝起きでぼーっとしているように見えなくもない。
「リプ、リン、チャン?」
佳奈が変なリズムを付けて聞き返した。
ふよふよと風もないのに揺蕩っていたスライムが、やがてゆっくりと女の子の形を取り始めると、さすがに佳奈も動揺した。
「お、おお? 何? 人?!」
「おはよー、わたしリプリン!!」
ようやく寝起きの頭が働き始めたらしい。
いつものリプリンの姿になる。
「洗脳って何? 怖い。わたしも取って!!」
寝ぼけていても、なんとなく話の流れは把握しているらしい。
「あ、莉美パパ!!」
しかしリプリンは莉美を見つけると、まっしぐらにその胸に飛び込んでいった。
というか、お互いの豊かな胸をぶつけ合う。
「おお娘よ!! 大きゅうなったのぅ」
莉美はリプリンをあっさりと受け容れてしまった。
むぎゅっとふたりで抱き合う。
「いや、えっと……。ごめん、待って。ツッコミが追いつかない。キリちゃん大丈夫? ごめんね。悪いスライムじゃないの。ちょっと触り心地が斬新な子だけど仲良くしてあげて?」
白音が慌ててキリに取り成しながら、ぶにぶにとリプリンを突っついてみせる。
「んー…………、キリちゃん! よろしくね。あなたも触ってみる?」
そう言いながらリプリンは体の表面にぞわぞわとさざ波を立てている。
キリの方に近づこうとしないのは、まだ少し警戒されているからだろう。
すっかり距離感が計れるスライムになった。
「それとリプリン、あなたには洗脳魔法、かかってないと思うわよ?」
白音は追いつかなかったツッコミを、律儀にひとつずつ解決していくことにした。
「そーなの?」
「斉木もあなたのことそこにいるって知らなかったでしょうし、対象になってないわ。それにあなた、ディスペルしたらただの水、とかにならない?」
「なんないもん!! そんなのみんなだって一緒だもん」
リプリンがちょっと怒った。
『ただの水』呼ばわりが心外だったのだろう。
「白音ちゃん、ディスペルで生物としての形を保てなくなるなら、人も血と肉の塊になると思うの」
そらが種族の垣根に囚われない中立な意見を述べた。
彼女は先程白音の頭の中を覗いているから、リプリンのことももう理解しているはずだ。
「そらちゃん、怖いこと言わないで……」
でもまあそうか、と白音も思う。
それに、人間も『ただの血と肉の塊』呼ばわりをされたら嫌だろう。
「確かにかかってる魔法が解けるだけよね。念のためやってもらう?」
「はーい」
しかし喜んで手を上げるリプリンのコスチュームは、デザインこそ以前と同じだが、色がいつきと同じ鮮やかなオレンジ色に染まっている。
「それで、どうしてその色なの?」
「んー……。白音ちゃんのピンク色の時と同じなの?」
「いや、こっちに聞かれても……。いつきちゃんの中に入ってたからその魔力色が移ったってことね?」
「多分そー」
色移りしやすいデリケートな衣類みたいだ。
「それで佳奈、この子はいつきちゃんの魔法じゃないわ。スライムの子なのよ」
白音がそのスライムであるリプリンとの馴れ初めを、かいつまんで説明する。
「わたしが初めて魔法少女に変身した時、スライムがたくさんいたでしょ。あれってリプリンを標的にして追ってきてたみたい。それでリプリンはわたしの口から体の中に入って、ずっと隠れてたんですって」
その時その場に居合わせた佳奈と莉美にすれば、それは衝撃的な事実だった。
しかし……、
「白音ちゃんの3キロ増量の元!!」
リプリンがそう自己紹介すると、ふたりはなんとなく納得できてぷっと吹き出した。
「もう…………。それで名前はリプリンね。ちゃんはちゃんよ。名前じゃないわ」
「白音ちゃんに付けてもらったの!!」
リプリンが嬉しそうにそう付け加えると、莉美が少し考えるような顔をした。
「何よ、莉美」
「ううん。白音ちゃんの付けた名前、かわいいなと思って」
莉美はもう一度リプリンをしっかりと抱き寄せた。
きっと自分で名前を付けたかったのだろう。
莉美は割となんにでも名前を付けたがる。
自分の娘を名乗る女の子になら、なおさらだろう。
「パパー!」
「はいよー」
「いや……あんたたち…………」
白音がどうツッコめば良いものやらと言葉を探して口ごもると、莉美とリプリンがまるでシンクロするように揃って白音の方を見た。
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