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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第45話 銀翼の魔法少女 その三
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ちゅん。
突然風切り音がした。
その途端マジックキャンセラーの胸に大きな穴が空き、大きく吹っ飛ぶ。
そして直後に銃声が轟く。
[OK。クリア]
橘香の声だった。
ふーっと息を吐く音も聞こえる
しかし魔法で狙撃できるなら、初めから白音たちも苦労はしていないはずだ。
[魔法は通らないんじゃあ…………?]
[この銃はね、本物と寸分違わずにできてるの。だから弾丸さえあれば……ね?]
(ね? ね、かあ………。うん忘れよう)
と白音は思った。
マジックキャンセラーが排除されたことによって、魔法無効化が一気に解除された。
これでそらならすべてを把握できるようになっただろう。
マジックキャンセラーが失われれば、親通たちに莉美の魔法障壁を破る手立ては無くなる。
そして白音たちにはまだ、親通の手の内がすべて見えてはいない。
ある種の膠着状態となる。
だがこの状態が長引くのは、白音たちの方に不利に働くことになる。
ほんの少し与えられたこの時間を最大限に活用して、効果的な手立てを考えねばならないだろう。
でなければ親通は異世界へと逃げてしまう。
小屋の中から佳奈が脱出してきた。
今度は自分が開けた壁の穴から転がるようにして出てくる。
佳奈の体が血まみれで酷いことになっているのを見て取って、白音が駆け寄る。
「佳奈っ!!」
「だめだ。中はやっぱり何も見えない。それに次から次へと巫女が湧いてくる」
姿勢を低くして佳奈を掩体壕の方へと一旦待避させる。
「平気なの?!」
「大丈夫。大半がさっき、はじけ飛んだ奴の返り血だから。急にバンて…………、ちょっとびっくりした。それよりお前の方こそ平気だったのかよ?」
白音はほっとする。
いやしかし、よく考えれば少しは傷があるってことじゃないの、と思う。
佳奈はリンクスの姿を探して少し辺りを見回し、そして白音の胸の傷を見る。
「ホントに平気か? 溺れたろ?」
リンクスは負傷者を守るようにしているが、上半身服が裂けて、全身はまだ濡れているのが分かる。
「さすがはお前の王子様だよ」
「な…………。は?」
「違うのか?」
「う…………」
明らかにリンクスにも聞こえるように言っている。
「それよかさ、その傷、乳首無くなってなきゃいいな」
「佳奈っ!!」
「ひひひ」
「うーーーーー!!!」
多分何かの仕返しをされている気がする。
何だろう。
まあいつものことだからどれかはよく分からない。
今度何かあったらまたやり返しておこう、などと白音が考えていたら、突然空気をびりびりと震わせる音が聞こえてきた。明らかにこちらに近づいてきている。
佳奈とふたりで、さっと背中合わせの体勢を取る。
「なになに?! 今度は何だっての?」
佳奈が音の主を探して背伸びをしている。
巫女たちに後れを取ることはないという自信の表れなのだろう。
むしろ自分が標的になるように、目立つことを厭わない。
[未確認飛行物体接近、なの]
心の中に届いたそらの言葉に、あまり緊張感が感じられなかった。
面白がっている気がする。
やがて白音にも低空飛行で近づいてくる物体が確認できた。
炎を後方に噴いているのが見える。音はそれだろう。
飛んでいるのは佐々木咲沙だった。
咲沙のしのび装束の背中部分が拡がって、風をはらんで滑空しているらしい。
「ムササビの術!!」
またチーム白音がハモった。
ムササビとは言ったが、フレームのようなものに支えられて、しっかりとしたグライダーのような形状になっている。
魔法はやはり、術者のイマジネーションが大事なのだろう。
現代版ムササビの術と言ったところか。
その咲沙が橘香を腕に抱えている。
そしてさらに、橘香が高谷を捕まえている。
いくら魔法とは言え、かなり無理がありそうな積載量だったが、そこを高谷が両手で後方に炎を噴射し、ジェット推進で揚力を得ているようだった。
「飛べ、高谷!!」
「イエスマム!!」
高谷が橘香から放り出されて飛び降りた。
そして橘香も、多段ロケットのようにムササビから切り離されて順に落下する。
ずさーーーっと派手に砂塵を舞い上げながら、しかし三人とも危なげなく綺麗に着地を決める。
そらが地上から誘導していたのだろう。
ピンポイントで魔力障壁の内側へ落着している。
さすが戦闘力で選ばれた精鋭たちと言ったところか。
「これが一番早いと判断したのでな、佐々木、高谷、よくやった!!」
白音は胸の痛みに耐えながら、さらに笑いもこらえる羽目になった。
橘香は最善手を創意工夫を凝らして打ってきたのだが、真剣さも突き詰めると滑稽さを帯びてくるというものだ。
「身に余るお言葉です。最高の経験でしたっ!!」
高谷がだいぶにやけながら敬礼をしている。
橘香に抱いてもらっていたのが嬉しかったのだろう。
「黒大佐さん?」
「いやよく見て、失礼でしょ。鬼軍曹さんだよ」
上空から飛来した橘香に対して、そういう声がかかった。
負傷者と共に待避していた後衛たちの中に、ミリタリーコスチュームの少女がふたりいる。
橘香がやってくると、夢中でスマホを彼女に向けている。
「鬼軍曹様っ!!」
声がかかるとどうしても我慢できないのか、軽く橘香がポーズを取った。
少女たちが黄色い歓声を上げる。
橘香はコスプレイヤーとして活動していた時、妹の凛桜との区別が誰にも付かなかったため、目印としてそれぞれに特徴のあるピアスを付けていた。凜桜はサクラの花を、橘香はタチバナの花を、それぞれ自分のシンボルのように使っていた。
ふたりの区別を付けたということは、その事実を知っている子たちなのだ。
[ねえねえ、白音ちゃん]
莉美がわざわざマインドリンクで話しかけてきた。内緒話をしている感覚なのだろう。
[ん?]
[この子たちずっとここで興奮しながらスマホで撮影してたんだけど、普通の人だと思うんだ…………]
[うん、普通の人。魔法少女じゃないの]
そらが遠隔鑑定で確認する。
[いや、なんで……]
白音はちょっとクラクラと目眩がしてきた。
漁協が運営する連絡船が故障しているということにして、一般の観光客は昨日からこの島には立ち入っていない。
漁協の関係者にも立ち入り禁止の旨は通達してあるはずだ。
しかし見たところ、ふたりはテント泊できそうな量の荷物を背負っている。
白音たちには知る由もなかったが、この島は明治、大正時代の軍施設の廃墟がかなり有名な地である。
コスプレをした人たちが、写真や動画の撮影を楽しむ地としてよく知られているのだ。
コスプレイヤーをしていた橘香や水尾紗那なら、よく知っている話ではある。
島への人の出入りは厳しくチェックされていたが、一昨日から泊まり込まれていたら気づかないかも知れない。
[ここの消毒担当は誰だっ?!]
[はいぃぃっ!! コスチュームから軍曹の部下の方だと判断しました。その……]
この小島を担当した魔法少女によると、確かにいたのは見たのだが、軍曹の部下が事前潜入してテント泊していると思ったらしい。
紛らわしいことに、背負ったリュックもブルームから支給されたものと似ている。
声をかけるのがちょっと躊躇われて――ぶっちゃけ邪魔して怒られたら怖いので――放置されていたらしい。
軍曹の威圧感がマイナスに働いた。
[ひとまず負傷者と一緒に保護せよ! 映像のことは後で処理するっ!!」
マインドリンクでの会話だったが、誰がこの島の担当だったのかひと目で分かるくらい落ち込んでいる魔法少女がふたりいる。
[敵が電波封鎖してるから生配信はされてないと思う。それと仮説がもうひとつ。親通もこの島の安全は確認したはず。なのにその子たちが見つからなかったのは、相手の索敵能力が魔力感知に頼ってた可能性が高いの]
わざわざそらが付け足してそう言ったのは、もしかしてあのしょげまくっている魔法少女たちを慰めようとしているのかもしれない。
試しに白音は、ニコッと笑ってそらを見つめてみた。
やはり思ったとおり、そらはちょっと照れて目を逸らした。
不器用でかわいい。
突然風切り音がした。
その途端マジックキャンセラーの胸に大きな穴が空き、大きく吹っ飛ぶ。
そして直後に銃声が轟く。
[OK。クリア]
橘香の声だった。
ふーっと息を吐く音も聞こえる
しかし魔法で狙撃できるなら、初めから白音たちも苦労はしていないはずだ。
[魔法は通らないんじゃあ…………?]
[この銃はね、本物と寸分違わずにできてるの。だから弾丸さえあれば……ね?]
(ね? ね、かあ………。うん忘れよう)
と白音は思った。
マジックキャンセラーが排除されたことによって、魔法無効化が一気に解除された。
これでそらならすべてを把握できるようになっただろう。
マジックキャンセラーが失われれば、親通たちに莉美の魔法障壁を破る手立ては無くなる。
そして白音たちにはまだ、親通の手の内がすべて見えてはいない。
ある種の膠着状態となる。
だがこの状態が長引くのは、白音たちの方に不利に働くことになる。
ほんの少し与えられたこの時間を最大限に活用して、効果的な手立てを考えねばならないだろう。
でなければ親通は異世界へと逃げてしまう。
小屋の中から佳奈が脱出してきた。
今度は自分が開けた壁の穴から転がるようにして出てくる。
佳奈の体が血まみれで酷いことになっているのを見て取って、白音が駆け寄る。
「佳奈っ!!」
「だめだ。中はやっぱり何も見えない。それに次から次へと巫女が湧いてくる」
姿勢を低くして佳奈を掩体壕の方へと一旦待避させる。
「平気なの?!」
「大丈夫。大半がさっき、はじけ飛んだ奴の返り血だから。急にバンて…………、ちょっとびっくりした。それよりお前の方こそ平気だったのかよ?」
白音はほっとする。
いやしかし、よく考えれば少しは傷があるってことじゃないの、と思う。
佳奈はリンクスの姿を探して少し辺りを見回し、そして白音の胸の傷を見る。
「ホントに平気か? 溺れたろ?」
リンクスは負傷者を守るようにしているが、上半身服が裂けて、全身はまだ濡れているのが分かる。
「さすがはお前の王子様だよ」
「な…………。は?」
「違うのか?」
「う…………」
明らかにリンクスにも聞こえるように言っている。
「それよかさ、その傷、乳首無くなってなきゃいいな」
「佳奈っ!!」
「ひひひ」
「うーーーーー!!!」
多分何かの仕返しをされている気がする。
何だろう。
まあいつものことだからどれかはよく分からない。
今度何かあったらまたやり返しておこう、などと白音が考えていたら、突然空気をびりびりと震わせる音が聞こえてきた。明らかにこちらに近づいてきている。
佳奈とふたりで、さっと背中合わせの体勢を取る。
「なになに?! 今度は何だっての?」
佳奈が音の主を探して背伸びをしている。
巫女たちに後れを取ることはないという自信の表れなのだろう。
むしろ自分が標的になるように、目立つことを厭わない。
[未確認飛行物体接近、なの]
心の中に届いたそらの言葉に、あまり緊張感が感じられなかった。
面白がっている気がする。
やがて白音にも低空飛行で近づいてくる物体が確認できた。
炎を後方に噴いているのが見える。音はそれだろう。
飛んでいるのは佐々木咲沙だった。
咲沙のしのび装束の背中部分が拡がって、風をはらんで滑空しているらしい。
「ムササビの術!!」
またチーム白音がハモった。
ムササビとは言ったが、フレームのようなものに支えられて、しっかりとしたグライダーのような形状になっている。
魔法はやはり、術者のイマジネーションが大事なのだろう。
現代版ムササビの術と言ったところか。
その咲沙が橘香を腕に抱えている。
そしてさらに、橘香が高谷を捕まえている。
いくら魔法とは言え、かなり無理がありそうな積載量だったが、そこを高谷が両手で後方に炎を噴射し、ジェット推進で揚力を得ているようだった。
「飛べ、高谷!!」
「イエスマム!!」
高谷が橘香から放り出されて飛び降りた。
そして橘香も、多段ロケットのようにムササビから切り離されて順に落下する。
ずさーーーっと派手に砂塵を舞い上げながら、しかし三人とも危なげなく綺麗に着地を決める。
そらが地上から誘導していたのだろう。
ピンポイントで魔力障壁の内側へ落着している。
さすが戦闘力で選ばれた精鋭たちと言ったところか。
「これが一番早いと判断したのでな、佐々木、高谷、よくやった!!」
白音は胸の痛みに耐えながら、さらに笑いもこらえる羽目になった。
橘香は最善手を創意工夫を凝らして打ってきたのだが、真剣さも突き詰めると滑稽さを帯びてくるというものだ。
「身に余るお言葉です。最高の経験でしたっ!!」
高谷がだいぶにやけながら敬礼をしている。
橘香に抱いてもらっていたのが嬉しかったのだろう。
「黒大佐さん?」
「いやよく見て、失礼でしょ。鬼軍曹さんだよ」
上空から飛来した橘香に対して、そういう声がかかった。
負傷者と共に待避していた後衛たちの中に、ミリタリーコスチュームの少女がふたりいる。
橘香がやってくると、夢中でスマホを彼女に向けている。
「鬼軍曹様っ!!」
声がかかるとどうしても我慢できないのか、軽く橘香がポーズを取った。
少女たちが黄色い歓声を上げる。
橘香はコスプレイヤーとして活動していた時、妹の凛桜との区別が誰にも付かなかったため、目印としてそれぞれに特徴のあるピアスを付けていた。凜桜はサクラの花を、橘香はタチバナの花を、それぞれ自分のシンボルのように使っていた。
ふたりの区別を付けたということは、その事実を知っている子たちなのだ。
[ねえねえ、白音ちゃん]
莉美がわざわざマインドリンクで話しかけてきた。内緒話をしている感覚なのだろう。
[ん?]
[この子たちずっとここで興奮しながらスマホで撮影してたんだけど、普通の人だと思うんだ…………]
[うん、普通の人。魔法少女じゃないの]
そらが遠隔鑑定で確認する。
[いや、なんで……]
白音はちょっとクラクラと目眩がしてきた。
漁協が運営する連絡船が故障しているということにして、一般の観光客は昨日からこの島には立ち入っていない。
漁協の関係者にも立ち入り禁止の旨は通達してあるはずだ。
しかし見たところ、ふたりはテント泊できそうな量の荷物を背負っている。
白音たちには知る由もなかったが、この島は明治、大正時代の軍施設の廃墟がかなり有名な地である。
コスプレをした人たちが、写真や動画の撮影を楽しむ地としてよく知られているのだ。
コスプレイヤーをしていた橘香や水尾紗那なら、よく知っている話ではある。
島への人の出入りは厳しくチェックされていたが、一昨日から泊まり込まれていたら気づかないかも知れない。
[ここの消毒担当は誰だっ?!]
[はいぃぃっ!! コスチュームから軍曹の部下の方だと判断しました。その……]
この小島を担当した魔法少女によると、確かにいたのは見たのだが、軍曹の部下が事前潜入してテント泊していると思ったらしい。
紛らわしいことに、背負ったリュックもブルームから支給されたものと似ている。
声をかけるのがちょっと躊躇われて――ぶっちゃけ邪魔して怒られたら怖いので――放置されていたらしい。
軍曹の威圧感がマイナスに働いた。
[ひとまず負傷者と一緒に保護せよ! 映像のことは後で処理するっ!!」
マインドリンクでの会話だったが、誰がこの島の担当だったのかひと目で分かるくらい落ち込んでいる魔法少女がふたりいる。
[敵が電波封鎖してるから生配信はされてないと思う。それと仮説がもうひとつ。親通もこの島の安全は確認したはず。なのにその子たちが見つからなかったのは、相手の索敵能力が魔力感知に頼ってた可能性が高いの]
わざわざそらが付け足してそう言ったのは、もしかしてあのしょげまくっている魔法少女たちを慰めようとしているのかもしれない。
試しに白音は、ニコッと笑ってそらを見つめてみた。
やはり思ったとおり、そらはちょっと照れて目を逸らした。
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