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森の小さな商いと、拾われた命
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朝靄が晴れ、森に柔らかな光が差し込む頃。悠馬は畑の端にあるハーブ畝の手入れをしていた。
「カモミール、ミント、セージ……よし、収穫時だな」
結婚式から一ヶ月。悠馬とリリーナの森の暮らしは、以前にも増して充実していた。
毎日の作業の合間を縫って、ふたりは“売り物”づくりに励んでいた。
乾燥ハーブを使ったブレンドティー、瓶詰めのピクルスや塩漬け肉、木の実ジャムに加え、リリーナお手製の薬草軟膏や簡易な縫い袋など──。
「こうやって少しずつでも、自分たちの手で価値を生み出せるって、なんかワクワクするな」
「ええ。でも、これ……ちゃんと売れるかしら?」
「大丈夫。リリーナの作ったジャムなんて、俺なら金貨一枚払ってでも買いたいぞ」
「……ふふ、嬉しいけど、それはちょっと言いすぎよ」
リリーナがはにかむように笑った。
その日、昼過ぎになると、森の奥から聞き慣れた音が聞こえてきた。
「ギシギシ……お、来た来た!」
木の車輪の軋む音──
行商人ゼムが、再び森を訪れたのだ。
「やあやあ、おぬしら! 約束どおり、ひと月で来てみれば、なんとまあ……立派な市が開けそうじゃの!」
「ゼムさん、こんにちは! 今日は見てほしいものがたくさんあるんです」
「ほっほっほ、そりゃ楽しみじゃ。まずはお茶でももらおうかの?」
悠馬とリリーナは、焚き火を囲みながらゼムに試作品をふるまった。
カモミールとミントのブレンドティーに、ベリーと蜂蜜のジャムを塗った焼きパン。ピクルスと塩漬け肉の小皿。
「……ほぉ、こりゃうまい。うまいぞ」
ゼムが目を見開きながら言った。
「素材の味を引き出しておる。保存性も高く、軽く持ち運びもできる。これなら村でも人気が出そうじゃ」
「ほんとに……? やった!」
「これらをワシの荷に加えれば……うむ、売れる。売れるぞ。数を揃えれば、銀貨単位の商売にもなりうる。何より、味に“気持ち”がある」
「気持ち?」
「料理というのはな、誰かのことを思って作られたものほど、人の心に届くもんじゃよ。……そなたらの暮らしそのものが、品の価値になっておる」
ゼムは満足げにうなずき、悠馬たちの作った商品を銀貨3枚と交換してくれた。さらに、針と布地、保存瓶なども提供してくれた。
「うわっ……本当にお金になった……!」
悠馬は手にした銀貨をまじまじと見つめた。
リリーナも嬉しそうに「これで、冬の布団が買えるわ」と微笑む。
商いがひと段落した後、ゼムはふと腰袋を探ると、包みを取り出して言った。
「実はな、今日もう一つ……見せたいものがあるんじゃ」
布を開くと、そこには、小さな毛玉のような生き物が眠っていた。
灰色の毛並みに大きな耳、小さな鼻がひくひくと動いている。
「……子ウサギ?」
「いや、ただのウサギではない。これは“モフウサギ”という種での。森の魔力を帯びた、少し特別な子じゃ」
「モフウサギ……」
悠馬はそっと手を伸ばした。毛はふわふわで、まるで絹のようだった。
「生まれたばかりのようでな。山道で捨てられておった。母ウサギの姿もなく、放っておけば死んでおったじゃろう」
「じゃあ……ゼムさんが拾ったんですか?」
「そうじゃ。じゃが、ワシには育てる余裕がない。……この子を、おぬしらのところで育ててみんか?」
リリーナが目を丸くする。
「私たちが?」
「うむ。そなたらなら、ちゃんと命を大事にしてくれると信じておるよ」
ふたりは見つめ合い、すぐに頷いた。
「もちろん。引き受けさせてください!」
「名前……どうしようか?」
「この毛並み、まるで“雪”みたい。……ユノ、ってどうかしら? “雪の子”って意味で」
「いいな、それ。ユノ、今日からよろしくな!」
小さな命が、森の家族に加わった瞬間だった。
ゼムが帰った後、ふたりはユノの寝床を急いで準備した。
干し草を敷いた木の箱に、柔らかい布を詰め、温かい水袋を傍に置いた。
リリーナがミルク代わりにヤギ乳を薄めて与えると、ユノはちゅうちゅうと吸い付き始めた。
「……ああ、ちゃんと飲んでる……」
「かわいいなぁ……。この子、すぐにピコやシエルと仲良くなりそうだな」
「きっとね。私たちも、また家族が増えたわ」
夜、火を囲みながら、悠馬はそっとリリーナの手を取った。
「ありがとう、リリーナ」
「どうして?」
「毎日、大変だけど、こうして支えてくれて。……俺、この森に来られて、本当に良かったって思えるの、リリーナがいてくれるからだよ」
「……私も。悠馬がいるから、安心して暮らしていけるの。ありがとう」
小さな家、小さな火。小さな動物たちと、小さな未来。
けれど、ふたりの胸には、たしかなあたたかさが宿っていた。
それは、“森で生きる”という選択が、間違っていなかった証だった。
「カモミール、ミント、セージ……よし、収穫時だな」
結婚式から一ヶ月。悠馬とリリーナの森の暮らしは、以前にも増して充実していた。
毎日の作業の合間を縫って、ふたりは“売り物”づくりに励んでいた。
乾燥ハーブを使ったブレンドティー、瓶詰めのピクルスや塩漬け肉、木の実ジャムに加え、リリーナお手製の薬草軟膏や簡易な縫い袋など──。
「こうやって少しずつでも、自分たちの手で価値を生み出せるって、なんかワクワクするな」
「ええ。でも、これ……ちゃんと売れるかしら?」
「大丈夫。リリーナの作ったジャムなんて、俺なら金貨一枚払ってでも買いたいぞ」
「……ふふ、嬉しいけど、それはちょっと言いすぎよ」
リリーナがはにかむように笑った。
その日、昼過ぎになると、森の奥から聞き慣れた音が聞こえてきた。
「ギシギシ……お、来た来た!」
木の車輪の軋む音──
行商人ゼムが、再び森を訪れたのだ。
「やあやあ、おぬしら! 約束どおり、ひと月で来てみれば、なんとまあ……立派な市が開けそうじゃの!」
「ゼムさん、こんにちは! 今日は見てほしいものがたくさんあるんです」
「ほっほっほ、そりゃ楽しみじゃ。まずはお茶でももらおうかの?」
悠馬とリリーナは、焚き火を囲みながらゼムに試作品をふるまった。
カモミールとミントのブレンドティーに、ベリーと蜂蜜のジャムを塗った焼きパン。ピクルスと塩漬け肉の小皿。
「……ほぉ、こりゃうまい。うまいぞ」
ゼムが目を見開きながら言った。
「素材の味を引き出しておる。保存性も高く、軽く持ち運びもできる。これなら村でも人気が出そうじゃ」
「ほんとに……? やった!」
「これらをワシの荷に加えれば……うむ、売れる。売れるぞ。数を揃えれば、銀貨単位の商売にもなりうる。何より、味に“気持ち”がある」
「気持ち?」
「料理というのはな、誰かのことを思って作られたものほど、人の心に届くもんじゃよ。……そなたらの暮らしそのものが、品の価値になっておる」
ゼムは満足げにうなずき、悠馬たちの作った商品を銀貨3枚と交換してくれた。さらに、針と布地、保存瓶なども提供してくれた。
「うわっ……本当にお金になった……!」
悠馬は手にした銀貨をまじまじと見つめた。
リリーナも嬉しそうに「これで、冬の布団が買えるわ」と微笑む。
商いがひと段落した後、ゼムはふと腰袋を探ると、包みを取り出して言った。
「実はな、今日もう一つ……見せたいものがあるんじゃ」
布を開くと、そこには、小さな毛玉のような生き物が眠っていた。
灰色の毛並みに大きな耳、小さな鼻がひくひくと動いている。
「……子ウサギ?」
「いや、ただのウサギではない。これは“モフウサギ”という種での。森の魔力を帯びた、少し特別な子じゃ」
「モフウサギ……」
悠馬はそっと手を伸ばした。毛はふわふわで、まるで絹のようだった。
「生まれたばかりのようでな。山道で捨てられておった。母ウサギの姿もなく、放っておけば死んでおったじゃろう」
「じゃあ……ゼムさんが拾ったんですか?」
「そうじゃ。じゃが、ワシには育てる余裕がない。……この子を、おぬしらのところで育ててみんか?」
リリーナが目を丸くする。
「私たちが?」
「うむ。そなたらなら、ちゃんと命を大事にしてくれると信じておるよ」
ふたりは見つめ合い、すぐに頷いた。
「もちろん。引き受けさせてください!」
「名前……どうしようか?」
「この毛並み、まるで“雪”みたい。……ユノ、ってどうかしら? “雪の子”って意味で」
「いいな、それ。ユノ、今日からよろしくな!」
小さな命が、森の家族に加わった瞬間だった。
ゼムが帰った後、ふたりはユノの寝床を急いで準備した。
干し草を敷いた木の箱に、柔らかい布を詰め、温かい水袋を傍に置いた。
リリーナがミルク代わりにヤギ乳を薄めて与えると、ユノはちゅうちゅうと吸い付き始めた。
「……ああ、ちゃんと飲んでる……」
「かわいいなぁ……。この子、すぐにピコやシエルと仲良くなりそうだな」
「きっとね。私たちも、また家族が増えたわ」
夜、火を囲みながら、悠馬はそっとリリーナの手を取った。
「ありがとう、リリーナ」
「どうして?」
「毎日、大変だけど、こうして支えてくれて。……俺、この森に来られて、本当に良かったって思えるの、リリーナがいてくれるからだよ」
「……私も。悠馬がいるから、安心して暮らしていけるの。ありがとう」
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