異世界農家のスローライフ

asahi

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小さな命と、新たな出会い

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春の陽射しが優しく森を包み込み、小さな命たちが息づく季節がやってきた。

 悠馬とリリーナの暮らす森の開拓地も、日に日ににぎやかさを増していた。
 畑には新しい苗が植えられ、動物たちの声があちこちから聞こえる。

「きゅっ! きゅーっ!」

「おいおいユノ、そんなに飛び跳ねたら木の枝にぶつかるって!」

 家族に加わってから数日が経ったモフウサギの「ユノ」は、すっかり元気を取り戻し、今では家中をぴょんぴょんと駆け回っていた。

 そのふわふわとした毛並みと、ころころ変わる表情は、リリーナも悠馬も目尻が下がりっぱなしになるほどの可愛らしさだ。

「この子、本当に森の魔力を帯びてるのかしら。夜になると毛が、ほんのり光ってるのよ」

「うん。ちょっとびっくりしたけど、幻想的だよな。おかげで夜の小屋がほんのり明るくて助かってるけど」

 シエルとポコにもすぐに懐き、今ではすっかり“ちびっこ三兄弟”のような関係になっていた。

ポコ(ワイルドコッコ)はユノの動きにあわせて羽をパタパタと広げ、シエル(霧狼)はユノを舐めて毛づくろいしてやっている。

 まさに、スローライフな森の家族の縮図。


 そんなある日。

 悠馬は、森の奥にある水辺に野草の採集に出かけていた。

 春になると、ここには若いタンポポやセリ、ワラビ、そして香り高い春ハーブが豊富に芽吹く。

「リリーナ、ここでスープの香りづけに使うハーブ見つけたって言ってたな……このへんか?」

 と、ふと風が揺れ、草むらの奥から「ぴぃ……ぴぃぃ……」というか細い鳴き声が聞こえた。

「ん……?」

 耳を澄ませ、草をかき分けてみると──

 そこには、羽根をすぼめた小さな鳥の雛が、弱々しくうずくまっていた。

 茶色の羽根に、まだ産毛が残る。目は開いているが、飛ぶ力はなさそうだった。

「……落鳥か? 巣から落ちたのかな」

 辺りを見渡してみても、巣らしきものは見つからない。
 親鳥の気配もなく、鳴き声もない。

 悠馬はそっと手を差し伸べ、慎重に雛を抱え上げた。

「よし。ひとまず、うちに連れて帰ろう」


「えっ、鳥の赤ちゃん?」

「うん。水辺の草むらで見つけてさ、親もいなかったんだ」

「まだヒナみたいね。温めてあげないと……ユノの寝床を少し分けて、暖かくしてあげましょう」

 すでに育児経験を積みつつあるふたりは、すぐに雛のための環境を整えた。

 焚き火で温めた小石を布に包んで寝床に入れ、ヤギ乳をさらに薄めて小さな木のスプーンで飲ませる。

「ぴっ……ぴ……」

「うんうん、いい子いい子」

「名前、どうする?」

「そうだな……小さいから“チュン”ってどう? 呼びやすいし」

「ふふ、いいわね。“チュンちゃん”」

 こうしてまた、新たな命が家族に加わった。

 翌日。いつものように作業をしていると、森の道の方から見慣れた荷車の音が聞こえた。

「おや……またゼムさん?」

 確か、月に一度来ると話していたはず。予定より早い訪問だった。

「おぬしら、またまた良い顔をしとるのう!」

「ゼムさん、こんにちは!」

「実はな、今日はちょっとした“依頼”があってな。おぬしらに頼めぬかと思って、早めに来たんじゃよ」

「依頼……ですか?」


 ゼムが取り出したのは、小さな封筒と、地図のような紙切れ。

「隣村の薬師が、エルフの作る特製の“森の軟膏”を探しておってな。傷やかゆみに効くやつじゃ。もしできるなら、10個ほど作ってほしいと言っておる」

「特製軟膏……私、前に試作品を作ったことがあるけど」

「リリーナ、あれめちゃくちゃ効いたやつじゃん! シエルの足の傷、すぐ良くなったし!」

「ふむ、その出来栄えなら、きっと評判になるぞ。報酬は銀貨2枚分。それと、向こうからお礼のハーブも届くそうじゃ」

 リリーナはうなずいた。

「やってみます。材料もまだ残ってるし、試してみたい配合もあるんです」

「ほっほっ、頼もしいのう。ワシが帰るときに受け取ればよい。楽しみにしておるぞ」

 その夜。

 悠馬はチュンの寝床を見守りながら、ふとリリーナに話しかけた。

「なんかさ、俺たちの暮らし……少しずつ広がってるよな」

「ええ。最初は何もなかったのに、今は動物たちもいて、商いも始まって……誰かに頼られることも増えて」

「そういうのって、悪くないなって思う」

「うん。きっとこれからも、家族も仲間も、もっと増えていくわ」

 焚き火の灯りに照らされながら、ふたりは肩を寄せ合った。

 その傍らでは、モフウサギのユノが丸くなり、ピコとシエルが寄り添い、そしてチュンがぴぃと鳴いた。

 小さな家に、小さな命が集う──それは、何にも代えがたい“幸せのかたち”だった。
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