異世界農家のスローライフ

asahi

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母になる準備と、森の小さな命たち

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朝の光が森を優しく包み込むように差し込み、鳥たちのさえずりが一日の始まりを告げていた。木々のざわめき、動物たちの足音、そして何よりリリーナの微笑みが、悠馬にとって何よりも幸せな「日常」だった。

リリーナの妊娠が分かってからというもの、悠馬はいつも以上に忙しくなった。とはいえ、苦ではない。むしろ喜びの中で、未来への準備が始まっているのだ。

「今日は、産まれてくる子のための揺りかごを作ってみようかな」

悠馬は早朝から木材を抱え、作業小屋へ向かっていた。シエルがその後ろをついてきて、静かに見守るように並ぶ。

「どうした、シエル。心配してくれてるのか?」

シエルは小さくうなずき、しっぽをふる。悠馬はその柔らかな毛を撫でると、木材にノコギリをあてがった。

リリーナはといえば、畑でユキ(ヤギ)と一緒にハーブを摘んでいた。妊娠初期の体調は安定していて、無理をしない程度に日々の作業をこなしている。

「ユキ、ミントはこれくらいでいいかしら?」

ユキが「メェ」と一声返し、リリーナはくすくすと笑った。

畑の隣ではモカがノア(子鹿)を優しく舐めており、ピコとポコはその様子を見守っている。最近ではポコがノアの世話を焼くようになっており、彼なりの「お兄ちゃん」ぶりを発揮していた。

「ポコ、あまりノアをつついちゃだめよ?」

リリーナの注意に、ポコは「コッ」と鳴きながら少し照れたように後ろに下がる。

ユノ(モフウサギ)は日向で丸くなり、チュン(小鳥)はピコの背に乗って空を見上げていた。平和であたたかな、森の暮らし――。

昼を迎える頃、悠馬はようやく揺りかごの骨組みを完成させていた。ルーファスが木材運びを手伝ってくれたおかげで、思ったよりも作業が早く進んだのだ。

「助かったよ、ルーファス。おまえがいてくれると百人力だな」

「ガウッ」

ルーファスは誇らしげに胸を張ると、悠馬の肩を鼻でつついた。

そこへリリーナがハーブティーを持ってやってきた。彼女は悠馬の隣に腰を下ろし、ふわりと髪をかき上げながら彼の作った揺りかごに目をやる。

「素敵……。まるでおとぎ話のようね」

「おとぎ話か……。俺にとっては現実だけどな」

悠馬は照れ臭そうに笑い、リリーナの手を取った。

「生まれてくる子に、最高の場所を作ってやりたい。それだけなんだ」

リリーナはその手を優しく握り返し、目を細めた。

「ふふ、私もがんばるわ。お母さんになるって、実感がわいてきたの」

ふたりの間に、静かな時間が流れる。シエルが気配を察して少し離れた場所で見守っているのも、また微笑ましい。

その日の午後、ゼムが森にやってきた。いつものように荷馬車を引き、楽しげに鼻歌を歌っている。

「ほっほっほ、今日も賑やかじゃのう。おぬしら、また新しい命を迎える準備中かの?」

「ゼムさん!今日も来てくれてありがとうございます」

悠馬が手を振ると、ゼムは腰に手を当てて笑った。

「なんじゃなんじゃ、その揺りかごは。ほぅ、出来がええのう。わしの若い頃にも、こげなもの作ったことがあったかのぅ……いや、ないのう。わっはっは!」

「おいおい……」

リリーナは笑いをこらえながら、収穫しておいたミントやラベンダー、そしてユキの乳で作ったチーズなどをゼムに渡す。

「今日はチーズが多めよ。リリーナが頑張ってくれたからな」

「ほぉ、それはありがたい。こっちは街でも評判がよくての、売るとすぐに買われるぞい」

ゼムは丁寧に品物を受け取り、代金として数枚の銀貨と、珍しい布地を差し出した。

「これは礼じゃ。この布で赤ん坊の服でも作るとええ」

「ありがとうございます、ゼムさん……!」

リリーナは目を潤ませ、布を胸に抱きしめた。

その夜、夕食を終えたあと、悠馬とリリーナは焚き火のそばで静かに座っていた。動物たちも焚き火の周囲で丸くなり、それぞれが温もりを楽しんでいる。

「悠馬……」

「ん?」

「私は、この森に来て、本当によかったと思ってるの」

「俺もだよ。リリーナと会えて、シエルたちに出会えて、今では家族も増えて……これ以上、何を望む?」

リリーナはその言葉に応えるように、悠馬の肩に頭を寄せた。

そして、彼女のお腹を優しく撫でながら、ぽつりとつぶやいた。

「この子が生まれたら……名前、どうしようか?」

「うーん、それは……悩みどころだな」

ふたりは微笑み合いながら、夜空を見上げた。星がきらきらと輝き、まるで祝福するかのように降り注いでいた。

遠くで、ノアの元気な鳴き声と、それをたしなめるモカの声が聞こえた。今日も、命が笑っている。
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