異世界農家のスローライフ

asahi

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命の兆しと、訪れる春

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春の息吹が森全体を包み込み、花々が一斉に芽吹き始めていた。小川のせせらぎは心地よく、風は甘い香りを運んでくる。動物たちの毛並みもふわりと艶やかになり、命の季節が訪れたのを感じさせていた。

森の奥深くに暮らす悠馬とリリーナの家も、その春の訪れに合わせるように、優しく温かな空気に包まれていた。

リリーナのお腹は、日ごとにふっくらと大きくなっていた。動きがゆったりになった彼女を、悠馬と動物たちはいつも以上に気遣っている。

「リリーナ、今日の薪はもう俺がやるよ。動かなくていいから」

「ありがとう、悠馬。でも、私、動いてないと不安になっちゃうのよ」

「はは……わかるけどさ。お腹の子のためにも、ちょっとは甘えてくれ」

悠馬が薪を束ねながら言うと、リリーナは少し頬を染めてうなずいた。

「ふふ、じゃあお言葉に甘えて。……でも、お茶は私が入れるわね」

リリーナはユキからもらった新鮮なミルクに、摘んだばかりのハーブを加えて温める。ほんのり甘く、落ち着く香りが家中に広がっていった。

その香りに誘われたのか、ユノ(モフウサギ)がひょっこりと台所に顔を出す。

「ユノ、飲みたいの?」

「モフ♪」

ちょこんと座り込んだユノのために、リリーナは小さな器にもミルクティーを注いでやった。ユノは満足そうに器に口をつけ、ふわふわの毛を揺らしながらお茶を楽しんでいる。

「まったく、動物たちにも癒やされっぱなしね……」

窓辺では、チュン(小鳥)がピコの頭の上で羽を広げていた。ポコは最近、ノア(子鹿)と仲が良く、一緒に森を走り回ることが多くなった。

「コッコーッ!」

「ヒンッ!」

ふたりの鳴き声が、外から賑やかに響いてくる。

昼過ぎ、ゼムが再びやってきた。軽快な鼻歌とともに現れると、動物たちは一斉に反応し、駆け寄っていく。

「ほっほっほ、今日も元気そうじゃのう。おぬしら、すっかり森の顔役じゃな」

「ゼムさん、いらっしゃい! 今日も来てくれてありがとうございます」

「今日はちと特別な品を持ってきたんじゃ。こいつを見てみい」

ゼムが馬車から取り出したのは、小さな木製のオルゴールだった。上には花や鳥の模様が彫られており、くるくると回すと柔らかな音が鳴る。

「これはな、赤子の寝かしつけに使える“森の音”というオルゴールじゃ。わしの知り合いの木工職人が作った一品でな、珍しいんじゃぞ」

「えっ……それって……!」

「もちろん、リリーナちゃんのためじゃよ。ほっほっほ」

リリーナは驚いた表情を浮かべ、そして両手でオルゴールを大切に抱きしめた。

「ありがとうございます……ゼムさん。本当に……嬉しい……!」

涙をにじませるリリーナを見て、悠馬は彼女の肩にそっと手を置いた。

「ありがとう、ゼムさん。こいつは俺たちの宝物になるよ」

「ふむ、それならよかった。おっと、わしもこれでもうひと商いせんとな」

その後、ゼムは森で採れたハーブや木の実、ユキのミルクなどを仕入れ、代わりに街から持ってきた小麦粉や乾燥果物、赤ちゃん用のふかふかした毛布を渡してくれた。

「この毛布はわしの孫も使っていたものと同じやつじゃ。柔らかくてええぞ」

「うわぁ、ほんとにふわふわ……」

「ノアが寝ても気持ちよさそうだな」

モカが毛布に顔をすり寄せ、ノアも「ヒンヒン」と興味津々に匂いをかいでいた。

その夜、夕食の後に家族全員が焚き火の周りに集まった。

悠馬は焚き火をくべながら、リリーナと一緒に穏やかな時間を過ごしていた。周囲にはシエル、ピコ、ポコ、ルーファス、ユキ、モカ、ノア、ユノ、チュン、ルナ、ミリィ……みんながゆったりと並んでいる。

「こうして見ると、本当に大家族になったな……」

悠馬の呟きに、リリーナが笑いながらうなずく。

「私ね、最近夢を見るの。……赤ちゃんが、ピコの背に乗って笑ってるの」

「それ、絶対に起こりそうだな。ポコとノアが横で遊んでてさ」

「シエルは子守役ね」

「ルーファスはおんぶ係かな?」

ふたりは顔を見合わせ、声をあげて笑った。

「……だけど」

ふと、リリーナが悠馬の手を握る。その手には、わずかに震えがあった。

「出産、やっぱりちょっと怖い。痛いのかな、とか……無事に産めるのかな、とか……」

悠馬はリリーナの手を包み込むように握り、まっすぐに彼女を見た。

「大丈夫だよ、リリーナ。俺がついてる。みんながついてる。心配なんて、吹き飛ばしてやるさ」

「……うん」

リリーナは目を潤ませながら、そっと悠馬にもたれかかった。

その時、シエルが近くで立ち上がり、静かにリリーナの足元に座る。その温もりと安心感に、リリーナは再び微笑んだ。

「ありがとう、みんな……。もう、怖くないわ」

空には満天の星。家族たちのぬくもり。森に育まれた命たち。

その中心に、ひとつの新しい命が、ゆっくりと育まれていた。
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