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私が……王太子……のはずだったのに??
しおりを挟むおかしい!
おかしい!!
おかしい!!!
一体何が起こっている?
一体何が起こっているのだ!?
久しぶりに……王城へ帰ろうとしたら……物凄い人だかりだ……
華やかな色とりどりの出店、小綺麗に着飾った行き交う人々……
2階の住居からは、花びらが撒かれている。
確かに五日後は、私の立太子式だが……
それだけで……今からこんなに人が集まるものか?
何かがおかしい……何かが起こっている……
集まっている人々が、口々に言っている。
「今日は立太子式でめでたい」
と……
最愛との愛の育みに夢中で……日にちを間違えた……それはないはず……
周りを見れば、私の最愛も、側近も顔色を悪くしている……
何かが……何かが確実に起こっている……
嫌でも心がせかされる……冷や汗が背中を伝い……
運動をしたわけでもないのに……息が上がる……
人だかりを掻き分け、なんとか王城へと戻れた。
父上と話すために廊下を進むが、すれ違う者すべてから厳しい視線が向けられる。
私が一体何をしたというのだ……
「なんだ……貴様か……」
父上のいる部屋に入った際、投げかけられたのは……心底興味のなさそうな、父上の一言だった。
私のことをチラリと一度だけ見て……すぐに視線を外した。
「えっ……あっ……」
そのあまりにも冷たい声に、言い返す言葉がうまく出てこない……
「これから立太子式だ。くれぐれも邪魔をしてくれるなよ」
「なっ!!」
父上の〝立太子式〟という言葉に心臓が跳ね上がる。
震える口元に力を入れ、なんとか言葉を紡ぎ出す……
「りっ……立太子式は五日後では?」
「何を言っている? 王太子になる第2王子の要望で、婚約者の誕生日……今日になったわ」
一瞬、父上が何を言ったのかがわからなかった……
王太子が第2王子……??
「お、王太子は私なのでは!!」
「いつの話をしている。二週間も前に第2王子に変わったわ!」
……二週間前?
……第2王子?
父上の言葉は、確かに耳に届いているが、脳が、頭が、その言葉をうまく処理できない……なかなか意味を結べない……
二週間。
え、たったそれだけの時間で……王太子の座が私から……弟へ変わるのか……
喉がひくりと鳴った。
心臓の鼓動だけが、やけに大きく耳に響く。
「何故急に!! こ……婚約者が! 公爵が! それを認めるわけがありません!!」
その言葉に、父上はようやくちゃんと私を見た。
いや……正確には、見ているようで見ていない……
私という人間が……居ようが居まいがどうでもいいような……視線……
その視線に宿っていたのは、怒りでも失望でもない。
ただ、処理済みの案件を蒸し返されたような、露骨な煩わしさが滲み出ていた。
「貴様は何を言っている? 貴様には婚約者などいない」
「は……はい? い、いや……いますよ! 公爵家の、あの女が!!」
「あの女?……貴様がどう思っていようが構わんが、令嬢はもういない」
「も……もういない……?」
いない?
どういうことだ?
最愛と一緒にいるたびに、いつでもどこでも現れていたではないか……
毎度毎度、口うるさく小言を言いに来ていたではないか……
だから、城を抜け出し……城下で最愛と会っていたというのに……
なのに……あの女が……もういない……?
「公爵令嬢は、女神様の要請を受け、異世界の聖女として召喚されて行ったわ。貴様が、どこぞの阿婆擦れのもとに通っている間にな」
頭の奥が、白くなる。
あの女が……聖女として選ばれた?
毎日のように王城から抜け出し……数日、帰らない日もあった……
婚約者を大事にしろ……公務を大切にしろ……と言う周囲の忠告を無視した……
嫌でも、最後はあの女と結婚すると……放置した……
どうせあの女がやると……公務も放り出していた……
自分が第1王子だと……王太子になるのだと……自分の立場を疑いもしなかった……
その間に?
「そ……そんな……じゃあ……私は……」
「阿婆擦れのもとでも、どこにでも行けばいい」
父上の声色は、どこまでも興味がなさそうで……
「王太子のスペアは、第3王子が務めるからな」
――スペア。
その一言で、十分理解できた……
私は……王家において……余剰ですらない存在なのだと。
「それから、公爵令嬢が聖女召喚で送られる前に、貴様とは婚約解消している。公爵令嬢がこちらに心を残さないように、そして公爵への礼儀としてな」
「……」
「公爵家への賠償金は、貴様が払え」
それは、命令ですらなかった……
ただの事務連絡だった……
もう用はないとばかりに、父上が手を振る……
私はどうすればいいのかわからず佇んでいると……父上の護衛に両腕を持たれ、部屋から追い出された……
私が……王太子……のはずだったのに……
これから……私はどうなるのだろう……
どうすれば……良かったのだろう……
あの女を大切にしていれば……女神の要請を断ったのだろうか……
私は……王太子になれていたのだろうか……
頭を巡る自問に……誰も……答えてはくれない……
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