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003 剣輪
しおりを挟む地面より腰ぐらいの高さにて浮かぶ、勇者のつるぎミヤビ。
平らに寝かせた剣身の上に立ち乗り。
そのまま宙を疾走するわたし。「ひゃほー」
夏場の沢下りや冬場のソリ遊びとはちがう新感覚。まるで羽になったようにて、これはかなり楽しい。
ちょっと慣れが必要だけれども、やたらと上下に揺れるウマに比べれば、どうってことない。
細かい調整はミヤビがやってくれるので、とっても楽ちん快適。
小娘を乗せて飛び回る勇者のつるぎ。
畑の周囲をぐるぐるしてから、森へと入り木々の合間をぬうように飛ぶ。
「ぐははは、わたしはついに自由のツバサを得た。地の呪縛より解き放たれたのだ! これからは疾風の女王さまとお呼び」
と、調子に乗っていたら、ぴろりんと伸びている細い枝葉にて顔面をピシャリ! あうっ!
そんな目に合いつつ、風になってブイブイいわせていたら、カノンが「自分も乗りたい」と言い出す。
かわいい妹にねだられて、否という姉などいない。
だから姉妹にて「ひゃほー」していたら、今度は母アヤメが「ずるい」とすねた。
しようがないから母姉妹にて「ひゃほー」する。
さすがは勇者のつるぎ。
女三人ぐらい乗せてもへっちゃら。ビューンとブイブイ。
父が物陰から寂しそうにこちらを見ていたが、それには気づかないフリをする。
だってミヤビが「殿方をのせるのはちょっとハレンチですわ」って言うんだもの。たしかにその通りにて、だからしようがないよね。
しばらく母姉妹にてブイブイ遊んでいたら、その姿を神父さまに見咎められる。
そして、しこたま怒られた。
神父さま的には「聖なる剣をオモチャにするとは何ごとか」ということらしい。
うぅ、ミヤビが乗れって言ったのに……。問答無用とはなんたる理不尽。
やれやれ、今度からは森の奥で、こっそりバレないように楽しむとしよう。
なんてことがあってから数日後。
ポポの里にて、新たな娯楽が誕生した。
細長い板に車輪をつけただけのシロモノに乗るという遊びなのだが、わたしとミヤビの空飛ぶ勇姿に刺激を受けたのが発端。
しかし夢中になって凝り出すと、子どもは止められない、止まらない。
知恵と創意工夫が施され、改造につぐ改造。ついでに乗る技術まで競うように。
子どもたちから相談を受けた鍛冶師のボトムさんが、興味を引かれてガチに手伝ったこともあり、それに伴い遊具の品質が飛躍的に向上。
材質と足回りにもこだわり、ついにはちょっとした逸品に仕上がる。
石畳などの地面が固い場所に限られるが、それでもシャーッと勢いよく滑る姿はなかなかのモノ。
「剣輪(けんりん)」と名づけられたこの遊具。
やがて紆余曲折を経て、国内どころか大陸全土へと普及し、ついには海の向こうにまで伝わるほどに、爆発的人気を博することになるのだが、それはまた別のお話。
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