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015 影矛
しおりを挟む背後に勇者のつるぎミヤビを従え、わたしが里中を歩いていたら「よう」と声をかけてきたのは、ホラン。
現在、教会にてお世話になっているという黒髪の青年。ポポの里には宿屋がないからね。
そんな彼だが、なにかとわたしの周辺をちょろちょろしている。何かと口実をつけては頻繁に話しかけてくるもので、てっきり気があるのかと思った。
けれどもわたしには剣の母としての使命がある。
これを果たさぬことには、運命の赤い糸を神々が全力で断ち切るらしいので、どれほど熱烈に好意を寄せられようとも、二人が結ばれることはない。あと十以上の歳の差もちょっと……。
だから早々に「ごめんなさい。あなたとはつき合えません」
お断りしたらホランがキョトン。「いったい何の話をしている?」
どうやらこちらの早とちりであったらしい。
だがそこで、わたしはハタと恐ろしいことに気がついてしまった。
二から一を引けば、一が残る。
仲良し姉妹から、姉をのぞけば残るのは……。
「もしや狙いは妹のカノンか? なんてこったい! ウワサには聞いていたが、まさか本当に実在するだなんて! 幼児に欲情をたぎらせ股間を膨らませるとは、このド変態野郎っ!」
わたしは勇者のつるぎを手にとった。
大切な者を守るためとあらば、わたしはためらわない。
殺ってやるぜぇい。
「人聞きの悪いことを言うな! そもそもオレはガキンチョには興味がねえっ!」
ホランが吠えた。
「なん……だと、ハッ! ならばうちのお母さん狙いか! 都会の雰囲気をちらつかせ、田舎の爆乳人妻を惑わし、昼下がりの情事を目論むなんて、とんだ鬼畜外道め。家庭崩壊なんぞ言語道断! やらせはせん、やらせはせんぞ!」
わたしはギャンギャンまくしたてた。
「ハレンチここに極まれり、ですわ。野獣死すべし」
手の中にて勇者のつるぎミヤビが身震いしつつ、ガルルと唸り加勢。
一触即発にて険悪剣呑。現場には今にも血の雨が降りそう。
が、これをすんでのところで止めたのは神父さま。
「ばっかもーん!」
ドカンとバリバリ。
特大のカミナリが落ち、わたしたちを直撃。
◇
教会の固く冷たい板張りの床。
そんな場所に正座をさせられる、わたしとホラン。
神父さまから「里の風紀を乱すとはなにごとか」と、しこたま怒られた。
なお勇者のつるぎミヤビは白銀のスコップに姿をかえて、わたしの懐に逃げ込むことで、まんまと難を逃れる。ズルい!
長いお説教が終わったところで、神父さまから告げられたのは、ホランの正体について。
じつはこの黒髪の青年、皇(スメラギ)から命を受けて、「剣の母」の役割を担うことになった娘の身辺調査と警護を任せられた影矛。
皇とは神聖ユモ国で一番えらい人。いわゆる王さま。
そんなえらい人の直属の部下にて、裏でウゴウゴするのが影と呼ばれる者たち。
なお影には皇を守る影盾と、密命を帯びて動く影矛がいるそうな。
ひとしきり事情を説明し終えてから、ホランがコホンと咳払い。少しバツが悪そうに手を差し出す。
「予定ではこっそり任務を続けるつもりだったんだが、なにやら誤解が生じちまったし。これ以上関係がこじれたら警護どころではないと判断した。あー、まぁ、そういうことだから、今後ともよろしく」
本来、影矛が正体を明かすことはない。
あえてその規律を曲げたところに誠意を感じ、わたしもにっこり笑顔にて「そういうことならば」と手を握り返した。
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