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016 リンゴ狩り
しおりを挟むカゴを背負い、勇者のつるぎミヤビに乗ってふよふよ森の奥へ。
今日は楽しいリンゴ狩り。
真っ赤な果実に想いをはせれば、おのずと心ウキウキ、口元もほころぶというもの。
そんなわたしを羨ましげに見ているのは、並んで歩くホラン。
「嬢ちゃんは楽そうでいいな。オレも乗せ……」
「イヤですわ」
ピシャリと乗剣拒否をしたミヤビ。「まぁ、どうしてもというのならば、この前のようにロープで引きずって差し上げますわ」
影矛の任務を果たすべくポポの里へと足を踏み入れた直後、門番のロウさんに不覚をとったホラン。その時のことを思い出したのか、あわてて「そいつは遠慮しておく」と首をふる。
「しっかしあの爺さん、いったい何者なんだ? オレはこれでも影矛の中じゃあ、上から数えた方が早いぐらいの剣士だ。八武仙と立ち会ったって、それなりに戦えるってのに。それが何もさせてもらえないなんて」
ホランが口にした八武仙というのは、皇(スメラギ)に認められた最高峰の武人に送られる称号のこと。時代時代にて八が五だったり、十三だったりと数が変動する。
「ロウさんのこと? えーとたしか」
何者かと問われて、わたしは自分の知っている範囲にて教えてあげる。
若かりし頃のロウさん。
国内外の各地を巡っては、武者修行に明け暮れる。
理由は惚れていた幼なじみに「私、強くてたくましい男の人が好きなの」と言われたから。
真に受けて最強を目指した初心で一途な青年。
しかし彼が修羅道を邁進している裏で、幼なじみはちゃっかり金持ちの後妻に収まっていた!
これにロウさん大号泣。
失恋の痛手をふり払うかのようにして、ますます修行に没頭。
気づけば武芸百般なんでもござれ。マジで最強になっちゃったかも?
というところで、たまたま立ち寄ったのがポポの里。
だがこの地で男は思い知る。
世の中、上には上がいるということを。
「なんだと! ここにはアレよりもスゴイ遣い手がいるのかっ」
目ん玉をひんむき、ツバをペペペと飛ばして驚くホラン。
とっさにミヤビが回避してくれなかったら、顔が男汁でびちゃびちゃになるところだったよ。
わたしは苦笑いにて「ちがうちがう」と、彼の早とちりを正す。
「旅の若造が田舎娘にコロッと騙されて、ほだされて、真実の愛に目覚めたと錯覚。夫婦になってそのまま居ついたってだけのこと。辺境じゃあ、わりとよくある話だよ。どこも人手不足は深刻だからねえ。そんなところにイキのいい若い男がのこのこ出向いてきたら、そりゃあ狩られるよ。だからホランさんも気をつけなよ。きっと里のお姉さま方がすでに狙っているはず。ちやほやされて『あれ? もしかしてモテ期到来』とか油断していたら、あっという間に喰われるよ。そしてほぼ確実に一生尻に敷かれることになる」
「上には上がいるって、そういう意味かよ!」
ホランのツッコミが森にこだました。
一見するとのどかで牧歌的な風景。
素直で純朴そうな里の人々。
しかしそれは仮の姿。
中央から遠く離れた過酷な僻地。国からはたいした援助もなく頼れるのは己のみ。ほぼほぼ流刑のような状態の中、土地を切り拓き、生活環境を整え、代々守り育ててきた者たちが、人畜無害の弱卒なんぞであるものか。
都会でぬくぬくと我が世の春を謳歌している連中を尻目に、弱肉強食の世界を生き抜いてきたのは伊達じゃない!
「辺境の里は巨大なクモの巣のようなもの。いつでも無知な来訪者が罠にかかるのを、手ぐすね引いて待っている。せいぜい気をつけなはれや」
ビシッとわたしが話しをまとめたところで、ようやくお目当てのリンゴの木が見えてきた。
◇
棍棒を手に、わたしは打席に立つ。
リンゴの木が枝をしならせ、大きくふりかぶって投げた。
放たれたのは拳大のクルミのような固い実。唸りをあげて真っ直ぐに飛んでくる。
一実目は見逃し。二実目は空ぶり。三実目は当てることに成功するも、チカラ負けして後方へとはじかれた。
そして勝負の四実目。
見事に棍棒の芯でとらえることに成功。カキーン。
ガックシとうなだれるリンゴの木の頭上を、高々と飛んでいくわたしの打った実。
そんなわたしたちの姿に「なぁ、嬢ちゃん。今日はたしかリンゴ狩りがどうとか言ってなかったか」とホランが首をひねった。
だからわたしは懇切丁寧に教えてやった。
「そうだよ。アレはリンゴの木の銀禍獣ゴウウワン。こうやって勝負して、勝ったら甘い赤リンゴをくれるの」
赤リンゴの木の銀禍獣ゴウウワン。
豪快な直実投げと真っ向勝負を信条としている。勝負に勝てば蜜がたっぷりの甘い赤リンゴをくれる。風邪ぐらいならば一発で治るほどに栄養満点。
なおもらえる果実の数は、当たりによって変わる。大当たりだとカゴいっぱい。いい当たりで八個。ぼてぼてだと三個が相場。
説明を聞いたホラン。「なんだか面白そうだな。どれオレもひとつやってみるか」
その気になって、隣の打席に立つ。
「あっ、でもそこは……」という、わたしの声が届く前に始まってしまう勝負。
で、すぐに聞こえてきたのは「ドム」という重く鈍い衝突音。
横っ腹に固い実の直撃を喰らい悶絶。倒れて泡を吹いている白目のホラン。
その姿に、わたしは「あちゃあ」と天をあおぎ、ミヤビは「プププ」と剣身をふるわせた。
ホランが立った打席は、ゴウサワンのところ。
青リンゴの木の銀禍獣ゴウサワン。
縦横斜めと自在な軌道を描く変化実投げが得意にて、内角攻めがエグイ。勝負に勝てば青リンゴをくれる。甘酸っぱい青春の味がするらしく、懐古主義者たち垂涎の果実。裏ではかなりの高値で取引がされているとかいないとか。
なお攻略難易度はゴウウワンの比ではない。
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