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058 星拾いの塔
しおりを挟むナカノミヤの奥にある池の小島にて、えらい人たちとの秘密のお茶会。
いろいろと知りたくなかったことを学んで、ついでに支配者の本質を垣間見る。
お父さんお母さん、そして妹よ。
チヨコお姉ちゃんはまた少しだけ大人になりました。
選定の儀やら帝国の陰謀とかの対処はすべて国側がやってくれるそうなので、わたしは与えられた席にてぼんやり囮役をしているだけでいいと念押しされて、ようやく解放される。
「ふぃー、やれやれ。これでやっと帰れる」
と、油断したのも束の間。
帰りの小舟にいっしょに乗り込んできたのは、星読みのイシャルさま。
小舟は小さい舟であるがゆえにとっても狭い。
ぎっちらぎっちら櫓(ろ)を漕ぐ船頭さんが船尾を占めるので、乗客は必然的に前の方に座ることになるのだが空間が限られる。大人二人でかつかつ。
横には並べない。だから前後の縦に並んで座る。
それはいい。
それはいいのだが、なぜにイシャルさまは向かい合わせに恋人座り?
年齢不詳の銀髪の麗人。賢人との誉れ高く、その発言力は皇(スメラギ)さまと国をも動かすと言われている。
透き通るような白い肌、通った鼻筋、切れ長の瞳は薄い青。洞窟の奥にある万年氷のような白いのに青い、ちょっとふしぎなあの色に似ている。あとなにやらいいニオイもする。
そんな殿方から至近距離にてじっと見つめられる。
美形家族に囲まれ、かなりの耐性があるわたしでもこれはキツイ。
なんとも気まずい時間が過ぎてゆく。
と、わたしはあることに気がついてキョロキョロ。「あれれ?」
小舟が行きとはちがう方角へと進んでいたからだ。
するとイシャルさまが言った。
「すまないが、いましばしお付き合いを」と。
◇
うちのお父さんよりもずっと大きく切り出された四角い石。
それが毛筋ほどの隙間もなくピッタリとくっつき、いくつも積み上げられて天へと真っ直ぐにのびている。
星拾いの塔と呼ばれる場所。
丸い筒状の形をしており、聖都でもっとも背の高い建造物。
建国当初から寸分変わらぬ姿にて現存しているんだとか。
ここでは天の理を観測し、星々の動きから地の理を読み解くという。
由緒正しき巨大建造物のわりには、おちょぼ口のようなかわいらしい入り口。
うちの実家の玄関扉とかわらない大きさと簡素さ。
内部は薄暗く、螺旋階段が延々と上までのびている。壁面が棚になっていて、膨大な書物やら巻物、なんに使うのかわからない道具やヘンテコな標本に模型なんかが、乱雑に詰め込まれてある。
どうやらイシャルさまはイケてる殿方だけれども、片付けられない男であるようだ。
塔内部の散らかり具合におっかなびっくりしながら、わたしがそんなことを考えていたら、先を歩くイシャルさまがふり返ってチョイチョイ手招き。
あわててわたしはトテトテ小走り。
呼ばれた先は塔一階の中央部分にて、ぼんやりと床が光っている。
促されるままに彼のそばに立つと、イシャルさまは手にした杖にて床をコンコン。
とたんに床の光が強まって、全身が浮遊感に包まれた。
足下より出現した丸い光の板が、わたしたちを塔の上へと運ぶ。
魔法による昇降移動である。
◇
魔法の存在そのものは世間に広く知られているものの、だからとて巷にあふれているかといえば否。
なにせ魔術師になるには、才芽の他に膨大な知識と学習が必要。
というか、その道はイバラどころかさながら地獄道。出口のない英知の迷宮を彷徨うには、努力と根性と忍耐と病的なまでの執着がいる。むしろ才芽なんてオマケぐらいの扱い。
ひたすら勉強修行研究、勉強修行研究、勉強修行研究を延々とくり返すだけの生活。
確かに魔法には夢がある。可能性もある。得るものも多い。けれども引き換えとして支払われる対価があまりにも大きすぎる。
夢があるのに夢がない。
それが魔術師人生。
金と栄光は掴めるかもしれない。成果によっては功績は燦然と輝き、歴史にだって名を残すことであろう。
けれどもそこに愛はない。
大成した魔術師が死に際に、ふと我に返って涙目となり「あれ? ワシの人生っていったい……」となるとかならないとか。
まぁ、それぐらい過酷にて、真理の求道者とか英知狂いなのが魔術師という生き物。
そんな人たちがこしらえる伝書羽渡のような便利な道具が、超高額になるのもしようがない。そしてそんなシロモノ、庶民に手が届くわけもなく……。
というのが魔法と魔術師と一般の人々をとりまく現状。
ちなみにポポの里に住むハウエイさんのような呪い師は、「そんな虚しい生き方はイヤだ!」と早々に脱線し、ぬくぬく人生を謳歌している者たち。
両者を比べたら、まちがいなく魔術師の方がえらくてすごい。
けれども市井のみんなの役に立っているのは呪い師の方というのが、なんとも皮肉な話であろう。
◇
がっつり設置型の魔法はとっても珍しい。
辺境のすみっこ暮らしだと、たぶん一生目にする機会がない。だからふつうならば腰をぬかして「なんじゃこりゃあ!」となってもおかしくない。
しかし、わたしは日頃から勇者のつるぎに乗ってブイブイいわせているから、この手の感覚には慣れっこ。ゆえにまるで動じない。
平然としたこちらの態度に、ちょっとがっかりしたようなイシャルさま。
もしかしたら珍しい体験をさせて驚かせてあげようとか考えていたのかも。
だとしたらたいへん申し訳ない。
じきに光の丸板が塔の最上階に到着。
そこに待っていたのは少し霞がかった青い空と、ひんやりした空気。
そしてなぜだか小さな家。
縦も横も四角い。賭け事にて生計を立てている博徒の持つ賽子(さいころ)を大きくしたみたい。
やや黄ばんだ白壁の表面には繋ぎ目が一切なく、てっきり土壁の類なのかとおもいきやさにあらず。
なんと! 一個の大きな岩を削り出して仕上げたというから、わたしはびっくり。
だって小さいとはいえ家一軒だよ?
そんな重たい岩の塊を、こんな高い塔の上に運び込んだだけでもスゴイのに、更に削って家にしちゃうとか、もうわけがわかんない。
するとこの反応を見たイシャルさまが「ははは」と笑った。
「よもや家の方に食いつくとはね。さぁ、どうぞお入り」
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