71 / 81
071 絡め手
しおりを挟む淡々と己の身の上話を語り終えたフェンホア。「なぁに、身分差のかなわぬ恋など、この国ではよくある話ですよ」と言葉を結ぶ。
たしかに物語とかお芝居ならばありえそうな話。
けれども実際に当事者がいて存在する話でもある。
もしも自分だったら……。
想像すると、どんな顔をしていいのかわからない。あまりにも切なすぎる。
わたしはちょっと泣きそうになった。
細目にてわたしを見つめていたフェンホア。わずかに目尻を下げて笑みを浮かべる。
「申し訳ない。あなたにそのような表情をさせたかったわけではなかったのです。ただこの国の正体を知っておいてもらいたかっただけなのだが……。おや? そろそろあちらもケリがつきそうですよ」
選定の儀、決勝戦。
コォン対グアンリーの試合。
絶不調にて不自由なカラダなりに、どうにかコォンの槍の猛攻をしのいでいたものの、ついに限界を迎えたグアンリー。愛用の両手剣をはじかれて、バンザイの態勢となったところに胸元へ槍の石突による強烈な一撃をもらう。派手に吹き飛ばされ円形の石舞台から落下。気を失ったままピクリともしなくなる。
「おやおや、剣の母殿の読み通りになりましたか。これはどうやら計画は二番で進めることになりそうですね」
フェンホアのつぶやきを耳にして、わたしが「計画?」と首をかしげるも、彼は「いえ、こちらの話ですので、どうぞお気になさらずに。それよりも、ほら、みながお待ちかねですから、勇者のつるぎを」と促す。
試合終了後。勇者のつるぎミヤビ自らが、優勝者が己の持ち主にふさわしいかどうかを審判し、それをもって選定の儀は閉幕となる。
これは当初より決まっていた予定。
だからわたしは言われるままに懐から白銀のスコップをとりだし、「じゃあ、ミヤビ、あとはお願いね」と送り出した。
「おまかせあれ、チヨコ母さま。バッサリ切り捨てて、すぐに戻ってきますわ」
断る気まんまんのミヤビ。ピカッと白銀の大剣姿となり、ビューンと勝者が待つ場所へと飛んでいった。
◇
石舞台中央。
切っ先を下に向けたかっこうにて、悠然と宙に浮かぶ勇者のつるぎ。
これを前にして片膝をつき、槍を脇に置いてかしずく優勝者コォン。
観衆たちは静まり返って、これからどうなるのかと固唾を飲んで見守っている。
ミヤビがまずは健闘を称える言葉を口にしようとした矢先のこと。
変事は起きた!
舞台の石畳がいくつも跳ね上がって、奥から姿を見せたのは沼色の衣装と白い仮面をかぶった賊たち。かつてヨトの河にて使節団を襲撃してきた者たちである。
その数三十二。
一斉に手より放たれたのは、禍々しい赤色をした鎖分銅。なにやら魔法による呪が込められているらしく、四方八方より飛んできた鎖が吸いつくように迫り、グルグル巻きに絡め取られたミヤビ。
とたんにズシリと身が重くなり、動きを封じられてしまう。
けれども超常のチカラを持つ天剣(アマノツルギ)であるならば、こんなもの!
ミヤビがすぐさま剣身をふるって、拘束を解こうとするも、その動きはすぐに止めることになった。
襲撃があったのと同時に槍を手に立ち上がったコォン。
賊に立ち向かうのではなく、鋭い穂先を向けたのは勇者のつるぎ。
コォンはミヤビに告げた。
「おとなしくしていろ、勇者のつるぎ。さもなくば、おまえの大切な『剣の母』が死ぬことになるぞ」
物理的な鎖だけでなく、心理的な鎖にも絡め取られたミヤビ。「しまった」と悟るも時すでに遅し。
「おのれっ、なんと卑劣な! あぁ、チヨコ母さま……」
◇
会場の異変に気がついて席を立ちかけたわたし。
その首筋にヒヤリとした冷たい感触。
フェンホアが手にした短刀である。
ここにきて、いかに鈍いわたしでも察した。
どうやらずっと彼の手の平で踊らされていたらしい。
ミヤビがわたしの手元から完全に離れる、この瞬間をずっと狙っていたんだ。
「……ところで聞きたいことがあるんだけど」
「なにかね、剣の母チヨコ殿」
「ホランとカルタさんはどうしたの? まさかとは思うけど」
「ふふふ、心配しないでくれ。当て身を喰らわせて眠らせただけだから。あの二人にはまだまだ利用価値があるからね」
「ひょっとして、わたしの動きを封じるため、とか?」
「ご明察。聡明なお嬢さんだ。やはりきみはおもしろい。でもそれだけではないよ。なにせ相手は伝説の天剣だからね。用心に用心を重ねさせてもらった」
フェンホアより教えられたのは、ずっと行方をくらませていた帝国の工作員を率いているであろう、ナゾの男のこと。
いくら聖都中を探しても見つからないわけだよ。
なんと! ナゾの男は工作仲間を率いて、ポポの里へと向かったんだそうな。
目的は、もちろんわたしの動きを封じて言うことを聞かせるため。
「逆らえば里に火を放つ手筈になっている」と告げられた。
やられた……。
わたしの身柄がミヤビの枷となり、ホランとカルタさんがわたしの枷となる。里をも人質にとったのは、その枷をより太く強固とするため。
小娘相手に手抜かりなし。
あまりの用意周到ぶりに、感心するよりもあきれるほど。
そんなわたしにフェンホアが言った。
「剣の母チヨコ殿。きみにはわたしといっしょに海を渡ってもらう」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる