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20 霧のオオカミ
しおりを挟む白い霧が渦をまき、その中より姿を現した霧のオオカミのハクサ。
周囲の影たちに、いくら話しかけてもムダだと言いました。
彼によれば、これらは実体のない思念の残りカスのようなモノだという。影のようにみえて影ですらない。とてつもない強い光に照らされて、大地に焼けついたあと。あるいは浮かんだシミ。何かを話しているように見えるが、それは言葉にはなっておらず、自我もないから会話も成り立たない。
ただ霧の中に浮かんでは、同じことをくりかえすだけ。
益もなく害もない。現世とけっして交わることもなく、存在する意味も意義もなく、ただあり続ける。
これを知っておどろいたルク。ちょっと悲しい気持ちになってしまいました。
ですがソレすらも不要だとハクサは切り捨てます。
その物言いと灰色の外見が相まって、冷たい印象を受ける霧のオオカミのハクサ。
なのにふしぎと怖くはありません。それどころか、どこか懐かしいニオイがして、とても安心ができます。
少し考えた後に、「ひょっとしておじいさんも水色オオカミなの?」とルクはたずねました。
「うむ。その通り。正しくは『もと』ではあるがな」
「もと?」
「ああ、なにせワシが御使いとなって、地の国へと来たのは、ずっとずっと昔のことだからな」
天の国にすむ水色オオカミたち。
瞳の色が変わったら、御使いの勇者として、地の国へとおもむくことになっています。
ルクの茜色の瞳も、もとは青い色をしていました。
どうやらハクサはルクのずんと先輩にあたる方のようです。
先輩といえば、西の森の魔女のところを目指していたときに出会った、翡翠のオオカミのラナもそうなのですが、彼女とはまるで異質なハクサ。
体が霧でできており、実体がないというだけではなくて、なんというか存在そのものの大きさが、根本的に違う。
ラナの毛の色やハクサの体などについては、地の国にて長く生きているとこうなるのかもしれないと、ひとり納得するルク。
じつはそれが大きな勘違いであることを彼が知るのは、もう少しあとになってからのこと。
ルクは霧で道に迷って、身動きがとれないことをハクサに正直に話しました。
すると霧のオオカミは、胸をはって背を反らし、天にむかって長い遠吠えを一つ発する。
やや低めだけど、よく通る声。深い山奥のことゆえに周囲に反響して、いくつもの木霊(こだま)が起こり、まるで輪唱のようになっていく。
その声にかき消されるかのようにして、薄くなっていく白い世界。
完全に晴れるまでに、たいして時間はかかりません。
そしてルクの目の前に現れたのは、古代都市の遺跡でした。
山をぶつ切りにして、上半分をどこかにやってしまったかのような、平な高地の上に、すっぽりとおさまっている広大な遺跡。
中央に大きな道が通っており、両脇には膨大な数の建物の残骸が。
どれも切り揃えられた加工の後が見てとれる石造りにて、なかにはどうやってこんな高台にまで運んできたの? と思えるような巨大な石まで用いられています。
かなり高度な文明が築かれていたのは間違いありません。
まっすぐにのびた道の先にそびえるのは、スコップの形をした大きな山。
ここまで来るのに、ルクがずっと目印にしていたあの山です。どうやらここはあの山の麓にあたる場所みたい。
スコップの山が都市を見守るかのような配置。
住む人がいなくなって久しく、朽ちるにまかせているというのに、荒んだ雰囲気はなく、むしろ自然と見事な調和をはたしている風景。
これを前にして、ルクもおもわず息をのみ「すごい」とつぶやかずにはいられませんでした。
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