水色オオカミのルク

月芝

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23 遠き夢の落日

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 長い、とても長い時間を、じっと過ごしてきた。
 なにせ体が動かない。だからすることといえば思索にふけるか、たまに顔を見せる古い知己と語らうか、寝ることぐらい。
 この頃、同じ夢ばかりをみる。
 見る夢は二つ。
 一つはこの国をつくった造物主と過ごした、せわしくも充実した日々のこと。

 最強の魔法使いの弟子。
 そのくせ自分では魔法が一切使えないという、ヘンテコな男。
 彼の名前はクラフト。
 おもえば彼の師匠もまた、立派に変人の類であった。
 なにせ数多いる優秀な弟子たちの中から後継者を選ばずに、たまたま自分の屋敷に出入りしていたお手伝いさんの息子を、いきなり指名したのだから。
 魔法使いでもない、ただの人間を、である。
 その理由が「弟子どもは、どいつもこいつも自分には遠く及ばん。選ぶだけムダ。中途半端に伝えるぐらいならば、せめて知識だけでも後世へと完全に残すことにした」というもの。
 師匠の言葉の意味はすぐに知れた。
 ただの人間であるクラフト。もちろん魔法のまの字も使えない。
 だけど彼には誰にも負けない特技があった。
 おそろしく記憶力が良いのである。
 最強の魔法使いが蓄えてきた膨大な知識を、丸々引き受けられるほどに。
 老い先短かった師匠も、すべてを伝授し終えて、安心して笑顔であの世へと旅立った。

 さて、とんでもない遺産を受け継ぐことになったクラフト。
 当然のごとく、ただではすむはずもない。
 師匠の弟子であった魔法使いや魔女らの妬み嫉みを一身に集めて、師の亡くなった後、たいへんなことになった。
 おそってムリやりに知識を引き出そうとする者、邪悪な魔法にて意のままにあやつろうとする者、ときには色仕掛けを試みる者まで現れる。
 対して魔法がまったく使えないクラフト。
 師匠が残してくれた魔道具にて急場をしのぐも、このままの状況が続けば、いずれは手づまりとなるのは明白。
 そこで彼は考えに考えた。
 魔法はダメだけど知識はある。これをなんとか応用できないモノかと。

 追いつめられたネズミはネコをかむ。
 ここにきてクラフトの第二の才能が開花。
 それがカラクリである。膨大な知識を下地に、独自の創意工夫をこらして、機械を造り出すことに成功。
 いろんな武器やら防具やら人形やらをこしらえては、ちょっかいを出してくる面々を撃退してしまった。
 これには墓の下の師匠も、してやったりであろう。

 こうして名実ともに後継者となったクラフト。
 大量のカラクリたちを従えて、とある山間の高地へと辿り着く。 
 スコップの先のような形をした山。ここの景色をたいそう気に入って、移り住み、そこに都市をこしらえた。
 呆れたことにその理由は「前から一度、街づくりをやってみたかった」というもの。
 しょうもない理由にて工事は始まったのだが、根が凝り性なので、すっかり作業に没頭して、気がつけばとんでもない代物が完成。
 おそらく、当時、世界で一番の機能美を持った近代都市であったのは、間違いあるまい。

 カラクリのカラクリによるカラクリのための都市。
 突如として山奥に出現した楽園。
 が、いつの間にか、どこぞより人が自然と集まってきて、クラフトは王様にまつりあげられていく。

 これがバロニア王国建国の真相である。
 たしかにクラフトがなしたことは、普通の人間からすれば、神にも等しい奇跡に映ったことであろう。だが実際のところは、ただの変人である。
 それはカラクリ人形の初代から数えて、五世代目にあたる最新型の私こと、ガァルディアが保証しよう。
 造物主の思いつきに振り回される日々。
 でもあの時代がもっとも輝かしく、もっとも楽しかったのは間違いあるまい。



 よく見る二つ目の夢。
 それはこの国が最期を迎えたときのこと。

 バロニアの初代の王となったクラフトは、百歳を目前に控えたある朝、眠るようにして逝った。
 すっかり忘れていたのだが、彼も中身はともかくとして、体は普通の人間であったのだ。

 クラフトが師から受け継いだ知識。
 それらは個人で受けとめるにはあまりにも膨大すぎて、ムズかしい。細かく体系化することによって、多くの人たちに分け与えることで、どうにか後世へと残すことに成功。
 だけど時の流れにおいて、予測不能な出来事は往々にして起きるもの。
 クラフトが亡くなってから、四代目の御世。
 外部より持ち込まれた疫病の流行によって、王国を支える知識層の大部分が一度に亡くなってしまった。
 これによって世代間の空白が起こり、かなりの量の知識や技術が失われる。
 その中にはバロニア王国を支えていた、カラクリに関するモノも多分に含まれていた。

 壊れたカラクリが直せない。
 新たな機械を産み出せない。
 次々と動かなくってゆく人形たち。
 最後まで残ったのは私だけ……。

 王国を守護する役割を与えられた私ことガァルディアは、普段は神殿の奥にてじっとしているだけ。またクラフトよると、この体は特別製らしく、他のカラクリたちとは比類なき強度を持っているのだとか。
 特別製の神殿に、特別製のカラクリ、与えられた役割も特別。

「願わくば、キミが活躍するような場面にはなってほしくないなぁ」

 ことあるごとに、そうつぶやいていた造物主クラフト。
 彼の言葉の意味を理解していた私は、その言い分が、もっともなことだと思っていた。

 大切なモノを少しずつ失い、緩やかに傾いていくバロニア王国。
 それでも他所からすれば、ここはずっと発展した豊かな夢の国。
 楽園の最後の幕を引いたのは、一人の若い女。
 赤い髪をした女性。名前をネネといい、幼い頃より、よく神殿の大聖堂に母親や友だちといっしょにお参りにやって来ていた。
 しばらく顔を見せていなかったと思ったら、夜更けに数人の覆面姿の男たちとともに、神殿へと現れた彼女。

「ごめんなさい、ガァルディアさま。でも、わたしはこんな山奥で、たいくつな場所で、一生を終わりたくないの」

 彼女の指示の下、覆面の男たちが運びだしたのは、バロニア王国の守護神を起動させるのに必要なモノ。
 これがなければ、私は指一本動かせない。
 王国を守る役割を与えられているがゆえに、王国の民には一切、危害を加えないようにと、設計されていたのがアダとなった。

 翌日、夜明け前に都市は戦火に包まれる。
 猛威を振るう侵略者たち。
 長い平穏に浸りきっていた王国の民に抗う術はない。
 こうして王国の守護神である私は、守るべき民の裏切りによって、動くことなく、ただ滅びゆく王国のさまを、黙って見ていることしかできなかった。



 ……おや? 古い友人が私を呼ぶ声がする。どうやら、またウトウトとしていたようだ。
 それにしても、なんど見てもイヤな夢だ。何千何万と見ているというのに、どうにも慣れることがない。
 やれやれ……、夢を見るカラクリとは。
 まったく造物主も、私にいらぬ機能をつけてくれたものだ。


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