水色オオカミのルク

月芝

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26 キルコス

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 地底湖までガァルディアの心臓を探しにきたルクとハクサ。

「あいかわらずプンプンとにおうのぉ」

 魔女王の呪毒の放つひどいニオイ。ハクサが顔をしかめると、ルクも「くさい」と言って、いっしょになって顔をしかめました。

「それで、この水の中に心臓があるんだね?」
「うむ。湖の真ん中より、やや岸寄りのところの斜面に埋もれておるのは、わかっておる。とはいえ前に確認してから百年ほどもたっておるから。どれ、ちょっと見てこようか」

 言うなりハクサの体の輪郭がぼやけて、霧状になりました。
 湖の上を滑るように白いモヤが流れていく。
 すぐに心臓が落ちているらしい場所にまで辿り着くと、すぅーと水に溶けるかのようにして彼の姿がかき消えてしまいました。

「霧になれるから、どんなすき間にも入れるし、空も飛べる。水にも溶けちゃうし、モノがつかめないのは不便だけど、やっぱりハクサはすごいや」

 ルクが感心していると、湖面にさざ波が起こりました。
 てっきり水中にて、ハクサが動いているせいかと思っていたのですが、波はドンドンと高くなり、激しくなっていきます。
 ついにはルクがいる岸辺にまで、ザブンと波が押し寄せるほど。
 波にのみ込まれそうになって、あわてて岸から離れるルク。
 なにやら様子がおかしい。
 疑問に思った矢先に、湖の中央部分がむくりと盛り上がり、巨大な水柱が立った。
 柱の中から姿をみせたのは、黒い怪魚。
 大きな口に白いギョロ目。体はヌメっとしており、ウロコはない。下腹あたりに赤い斑点模様がある。
 そいつが飛び出して、空中にて弧をえがき、再び水中へとサブンと落ちた。
 とたんにこれまでとは比べものにならないほどの高い波が起こり、のみ込まれてしまったルク。
 ぐるぐると水の流れにほんろうされて、気がついたときには、もう湖底の中。

 水色オオカミには水を操る力があります。だから水の中でもへっちゃら。
 だけど丘の上とはかってがちがうので、どうしても動きがモタモタ。とても駆けるようにはいきません。
 そんなルクへと大口を開けてせまる黒い怪魚。
 ものスゴイ勢いでぐんぐんと泳いでくる。
 どうやら丸呑みするつもりみたい。

「無事か! ルク。落ち着いて自分の周囲の水の流れを操るのだ!」

 オオカミの姿にて現れたハクサ。
 あわてるあまり手足をバタバタしていたルクは、その指示にしたがって、どうにか魚の突進をかわしました。
 怪魚は勢いのままに水底へと姿を消す。
 とりあえずピンチを脱したので、やや落ち着きを取り戻したルク。

「あの大きな魚はいったい何なの?」
「うむ。見た目はキルコスのようじゃな。だが、あんなにバカでかいのは、ワシも見たことがない」

 キルコスとは水中の藻や水草などを食べる魚。
 キレイな水のある川や湖に生息しており、最大でウシほどの大きさにもなるというが、性格は臆病にて、他者の気配にも敏感であるがゆえに、めったに人前には姿を現さないという。もちろんあのように、いきなり襲いかかってくることなんてことは聞いたこともない。ましてや神像ガァルディアよりも大きいだなんて、と話すハクサ。
 この地底湖にも前々から住んではいたというけれども、魔女王の呪毒の玉によって汚染されてからは、ついぞ姿を見かけなかったらしい。

「不運にもどこぞより流れついたか……。それにしてもあの体の大きなことよ。しかも狂暴化しておるようじゃ。これではおちおちガァルディアの心臓を引き上げることが出来んぞ」
「えーと、お願いしてもダメかなぁ」
「さっきの様子からして、聞く耳をもたんじゃろう。さて、どうしたものか。やはり戦うしかないかのぉ。ところでルクよ。おヌシはどれくらい戦えるんじゃ?」

 落ちている品を拾ってくるだけの簡単なお仕事から、一転して巨大魚と戦うハメになってしまったルク。
 ハクサからたずねられたのですが、小首をかしげます。
 なにせ彼は産まれてこのかた、戦いというモノを経験したことがありませんので。

「戦うって、何をどうすればいいの? ボク、よくわかんないや」

 これには霧のオオカミのハクサも、目が点になりました。
 仮にも御使いの勇者に選ばれて、天の国より地の国へとやってきた水色オオカミ。それが戦う術も知らないとは、どういうこと?
 ですがゆっくりと話を聞いているヒマはありません。
 再び水底より、巨大キルコスが悠然と姿を現したのですから。


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