水色オオカミのルク

月芝

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33 古城の主

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 大きなツバサを持った金色のワシ。
 だけど体がトリのそれとはまるでちがう。
 雄々しいライオンのもの。
 天空の覇者グリフォン。
 漆黒の瞳より放たれる鋭い眼光。
 ひとにらみされただけで、体がすくんで動けなくなってしまう水色オオカミのルク。

「誰だ、オレのいない間にかってに城に入り込んだのは? ボルバ国の連中がしょうこりもなく、またちょっかいでもかけてきたのか」

 天井にある大穴から悠然と舞い降りてくるグリフォン。
 おどろくばかりのルクの頭上を通って、黄色いドレス姿の女性のかたわらに静かに着地する。

「おかえりなさいませ。ルシエルさま」
「ただいま、ティア。ところで、そこの水色オオカミはなんだ?」

 なんだ? と言われて、ビクリとなってしまうルク。
 留守中にかってに家に入り込まれたことに腹を立てているのか、不機嫌な様子のグリフォン。
 するとそんな彼らの間を、ティアと呼ばれた女性がとりもってくれました。

「この子はここに迷い込んだだけです。それなのにツンケンとして。かわいそうに、すっかりおびえているではありませんか」
「あっ、いや、べつにオレは怒っているわけではないのだが」

 先ほどまでの尊大さはどこへやら。
 ティアにやんわりとたしなめられて、急にしどろもどろになるグリフォン。
 空が落ちてくるかと思われるほどの威圧も、さらりと消えてしまいました。

「えー、コホン。いや、その、わるかったな。おどすつもりではなかったのだ。水色オオカミの子よ。てっきり連中の手の者かと思ってな。オレはグリフォンのルシエル。この城の主だ。それでこっちがボルバの……」
「わたしはティアです。『もと』ボルバ王国の姫で、いまはルシエルさまの『妻』です。よろしくね」

 まるでグリフォンの発言をさえぎるかのように、言葉をかぶせてきたお姫さま。
 みょうに『もと』と『妻』という部分を強調してきます。
 とはいえ、あいさつをされたのですから、こちらも返すのが礼儀。

「ボクは水色オオカミのルク。よろしくね」



 ティア姫に招かれて、古城の二階の奥へとルクが足を踏み入れると、表のボロさがウソのように、人が生活するには十分な空間がそこにはありました。この一画だけキチンとしています。
 応接間らしきところで香り高いお茶をふるまわれたのですが、その場にグリフォンの姿はありません。かわりに小麦色の肌をした長身の青年が、我が物顔にてソファーにふんぞり返り、湯気の立つカップを手にしています。
 瞳の色は漆黒。イヤな黒さではなくて、宝石のような艶がある。雰囲気がちょっと西の森の魔女エライザに似ているかも。
 そんなことを考えながら、しげしげと青年の顔を眺めていたら。

「なんだ。オレの顔になにかついているのか」

 このぶっきらぼうな物言い。鋭い目つきに黒い瞳。ひょっとして……。

「もしかして、ルシエルさんなの?」

 なんと! この青年は人に変身したグリフォンでした。
 言葉や態度に少々野趣が溢れているものの、粗野というほどでもなく、目鼻立ちは整っており、黙っていればどこぞの王子さまや貴公子でも通りそうな格好。
 グリフォンとはあまりにも違う姿に、目を白黒とさせているルク。
 そんな水色オオカミの子を見て、くすりとティアが笑みをこぼしました。

「ここにいるということは、天の国の御使いか……」
「うん。ちょっと前に地の国へと降りて来たんだ」

 お茶の合間に、ルクがこれまでの旅のことなどを、かいつまんで説明していると、
 ティアがこんなことを口にします。

「天の国とは空の上にあるのでしょう? ルシエルさまは行ったことがあるのですか?」

 雄々しいツバサと風を自在にあやつれるチカラにて、大空を自由に飛びまわれるグリフォン。
 こと空中でならば、あのドラゴンにもひけをとらない天空の覇者。
 ですがティア姫の言葉にルシエルは首を横にふります。

「行こうとしたことはある。だが行けなかった」

 ずっと昔のこと。まだまだ血気盛んな子どもの時分に、天の国のウワサを聞きつけ、勇んで目指したことがあるという。
 だが行けども行けどもまるで見えてこない。
 厚い雲を突き抜け、ついには星の海へと手が届きそうなところまで、飛んだというのに。

「これはあとで知ったことだが、天の国には許可なき者は、何人たりとも立ち入れぬらしい」

 天の国の空と、地の国の空は、同じようで同じではない。
 だからこそあそこは特別な場所であり、そこからやって来る御使いもまた特別な存在であるのだろうと、ルシエルは言いました。
 もっとも当のふしぎの塊みたいな水色オオカミの子は、いまいちピンとこないのか、コテンと小首をかしげるばかり。
 その仕草をみて、「かわいいです」とおもむろにルクの首筋に抱き着くお姫さま。
 サラサラとした青い毛並みに顔をうずめて、モフモフした感触をおおいに楽しむ。
 そんな姫の様子にグリフォンの青年「オレだって負けてない」と、ちょっとムクれました。


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