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39 進軍
しおりを挟む荒地へとゆっくり向かっていたのは、サイラス王子率いるロガリア皇国軍の精鋭三万および、勇者一行、ボルバ王国より派遣された騎士団千二百の軍勢。
数が数なのと、慣れぬ異国の地ゆえに、どうしても進軍速度は落ちます。
見事な毛並みの黒い軍馬にまたがっているサイラス王子の下へと、近寄ったのは彼の側近の軍人。
「サイラスさま、連中のこと、どう思いましたか?」
馬の頭を並べて歩きながら、側近が話題にしたのはおとついの夜のこと。
王城にて、姫奪還のために出向いてくれたロガリア皇国軍をもてなすためのパーティーが盛大に開かれました。
その席にてティア姫がさらわれたときの状況や、グリフォンについての情報などを部下たちに、それとなく集めさせていたのですが、伝わってくる話がどうにもチグハグ。市井にも手の者を放ちましたが目ぼしい話がほとんどなく、あまりにも整合性に欠いており、信憑性にとぼしい。
これを受けて、どうにもキナ臭いとの意見を口にした側近の軍人。今回の一件には裏があるとの見解。
サイラス王子もこれにうなづきます。
すると側にいた白地に青い線の入ったローブ姿の女性も「ええ、怪しいです」と同意し、会話に加わりました。
彼女は教会より派遣された神官にて、勇者一行のうちの一人、エリエール。
聖剣に選ばれた光の勇者は平民出身、戦士は粗野な冒険者あがりだし、弓士は野山育ち。魔法使いに関しては根っからの変人の類にて、どいつもこいつも礼儀作法がまるでなっちゃいない。ゆえに高貴な人たちのとやりとりは、すべて彼女のお仕事。おかげでいろいろと気苦労が絶えません。
「ボルバ王国といえば、あの偉大なティルさまの治めていたところ。だから私は来訪するのをとっても楽しみにしていたのです。なのに、なのに……。なんですかあのサブリナとかいうケバい後妻は? それに見た目ばっかりで、中身が空っぽの空きビン娘。やたらと勇者にベタベタまとわりついて、周囲に愛想をふりまいて。うっとうしいったらありゃしません」
神官らしいおだやかな表情にて、けっこうな毒を吐くエリエール。
どうやら彼女はティア姫の実の母親であるティル王妃をとっても尊敬しているみたい。
そのせいか、なかなかキビしい人物評。
これには王子と側近も苦笑いするしかありません。
「たしかにティルさまの評判は、周辺諸国に広く伝わっているしな。王妃たるもの彼女を手本とすべしと云われるほどだ。その娘であるティアさまも凛として聡明な方であった。幼い頃にお会いしたっきりだが、お母上に似て、さぞやご立派になられていることであろう」とサイラス王子。
ついつい口からこぼれるのは想い人のこと。
そんな彼をじーっと見つめるエリエールと側近の軍人。
バツが悪くなった王子が、少し頬を染めて顔をそらす姿に、おもわず二人はにやりと笑みを浮かべました。
しばらくサイラス王子を冷かし、サブリナ王妃の悪口を存分に吐いてすっきりしたのか、エリエールは自分の仲間たちのところに戻りました。
勇者一行はあてがわれた馬車にての行軍。
「よう、おつかれ。それで手筈はなんて?」
たずねたのは勇者シュウ。
巨漢の戦士ガントンはイビキをかいて寝ており、弓士ピピンの姿はありません。おそらく馬車の屋根の上にでもいるのでしょう。彼はあまり狭いところに長時間、閉じ込められるのが好きではありませんので。
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だいたいいつも通り。なのでとくに気にしないエリエール。
「なにせ相手はグリフォンです。まともに戦えば被害がすごいことになります。王子としては、いくら自分のお嫁さんを助け出すためとはいえ、あまり部下にムリをさせたくないそうで。それにこの話にはなにやら裏がありそうですし。そこで軍勢がグリフォンを引きつけているうちに、私たちが古城に潜入し、囚われのティア姫を奪還します」
「それはべつにかまわないんだが、裏ってなに?」
「シュウはおかしいと思いませんでしたか? あのグリフォンが暴れてお姫さまをさらったにしては、ずいぶんと都も城もキレイでしたよね」
「あのグリフォンってのが、どれくらいなのかは知らないけど、姉ちゃんがさらわれたにしては、かわいい妹がやたらと明るくて愛想がよかったよな」
すっかりファラ姫の見た目にダマされて、にやけている勇者に、冷ややかな視線を向ける神官。
ジト目にてシュウを眺めつつ、話しを続けます。
「いいですか? グリフォンといえばドラゴンと双璧をなすほどの猛者。こと空中戦ならば最強です。そんなのが本気で暴れていたら、あんな都、とっくに滅んでいますよ」
「えっ! グリフォンってそんなに強いの? それなのに少数で立ち向かうって、ボルバの騎士団の連中、すげえな」
トンチンカンなことを口走る勇者シュウに、とってもイラついたエリエール。
むんずと彼の顔面をわし掴み、これをギリギリと締めあげる。
幼い頃より厳しい修練を重ねてきた神官は、柔らかな物腰やほっそりとした見た目に反して、とっても強いのです。そうでなくては各地に散っての布教活動なんて、とてもとても。
「あイダダダ。ちょ、ちょっとヤメて。オレの頭、割れちゃう。本当に割れちゃうから」
「い・い・で・す・か? 勇者さま。偉大なティルさまがご存命中の頃ならばいざ知らず。いまの連中はまるで腑抜けです。あんな軟弱な連中にグリフォンがどうにか出来るものですか! このぶんだと、さらわれたとかいう話もウソっぱちかもしれません。おおかた性悪の継母からのイビリに耐えかねたお姫さまが、家出でもしたんじゃないかと私はにらんでいます。もしくは……」
「?」
「王位継承絡みにて、殺されかけて逃げ出したとか」
「!」
女の直感おそるべし。
当たらずとも遠からず、真相へと近づくことになる神官エリエール。
じきに荒地へと到達した軍勢は、引き続きグリフォンがいるという古城を目指す。
グリフォンや水色オオカミが、彼らが向かってきていることに、とっくに気がついているとも知らないで。
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