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40 氷の城
しおりを挟む「はぁー。バカだバカだとは思っていましたが、ここまで愚かだったとは……」
まるで地の底より吐き出したかのような深いタメ息。やれやれと頭をふって、なげかずにはいられないティア姫。
ルシエルより古城に軍勢が迫っていることを報された彼女。国元でいったい何があったのやら。詳しい事情まではわかりません。
が、なにをトチ狂ったのか、皇国の軍を巻き込んでの大騒動。
とんでもないことをしでかした身内に心底あきれていたのです。
「なんでしたら私が出向いて、話を聞いてきましょうか?」
ティアはそう言いましたが、これにはルシエルが反対しました。
「今頃になって軍勢を差し向けてくるあっちの真意がわからん。それが判明するまでは、ティアはうかつに姿をさらさないほうがいいだろう。それに相手は頭に血がのぼって、いきりたっているだろうしな」
「たしかにそうですね。話し合うにしても、少し落ち着いてからのほうがよさそうです」
「うむ。オレが連中の頭を冷やしてくる。なぁに、手加減はしてやるさ。そんなわけで、ルクよ」
「なぁに?」
「おまえには留守の間のことを頼みたい」
「ティアを守ればいいの?」
「あぁ。そうだな……、氷で出入口でもふさいでしまえば、しばらくはだいじょうぶだろう」
「だったら、いっそのこと、お城のまわりをグルリと壁でかこんじゃおう」
「お城の周りをって、ボロ城だがけっこう大きいぞ」
「うーん、たぶんイケると思うよー。ちょっとやってみるね」
試してみるというルクが城の外へと出たので、一緒にくっついていくルシエルとティア。
正門前にて、ムズかしい顔をして、しばらくウンウンとうなっていた水色オオカミ。
大きく息を吸い込むと、「ワォーン」とひと声あげた。
すると周囲の気温が一瞬だけグンと下がり、耳がキーンとなって思わずティアが自分の両耳をおさえる。
急に高い場所に行ったときのような感覚に近い。
グリフォンのルシエルが空を見上げると、そこにはゆっくりとこちらへ降りてくる雲のかたまりが!
モコモコとした白いモノが空から滝のように落ちてきた。流れが古城の周囲をとりかこみ渦となる。
雲の渦の中心となったお城。
そこで「えいっ!」とルクが気合の入ったかけ声をあげた。
とたん渦が流れをとめて、急速にギュッと寄り集まったと思ったら、カチンコチンと固まって氷の壁ができあがり。
とんでもない高さと厚さをもった氷の壁が現れて、ルシエルとティアもポカンと見上げるばかり。
翡翠のオオカミのラナに氷の扱い方を教わってから、ここのところ使う機会が多かったせいか、自分でも思っていた以上に、チカラがすごいことになっていたようです。
でもさすがに一度に大きなチカラを使いすぎたようで、つかれたルクは、べたーと四肢を投げ出して地面にのびています。
「ありえん。なんという巨大な壁だ。まるで北の極界にある氷河ではないか……。しかもルクよ。おまえ、空から水を呼んだのか?」
「うん。だってここって周りにあんまり水がなかったから。心の中で『みんなあつまってー』ってお願いしたら、なんかいっぱい来てくれたみたい」
「すごいです! 水色オオカミって、こんなことも出来るのですね」
「いや、それは違うぞ、ティア。水を自在にあやつったり、氷を出したりは出来るが、こんなのはオレも知らんぞ」
「あら? そうなのですか。じゃあ、ルクがえらいのですね」
おどろいているのですが、わりと素直に受け入れているティア。肝がすわっているのか、物に動じない性格のお姫さま。えらいえらいとルクの頭を撫でた後、出現した氷の壁に近寄っては、興味深げにペタペタと触ってみたりしています。
そんな彼女の姿を見ていると、マジメに考えている自分がバカらしくなってしまったルシエル。「まぁ、いいか」と受け流すことにしました。
「ルシエルさま、ルシエルさま。この壁、ふしぎなんですよ。ちっとも冷たくないんです」
「おいおい、なにをバカな……って、なんだコレは! ほんとうに冷たくないぞ」
どういうことだと、ペタペタと氷の壁を触りまくるルシエル。これだけの氷の塊だというのに、ちっとも冷たくありません。それだけでなく、これほどの氷に囲まれているというのに、内部の気温があまり下がっていません。
ただの氷じゃない。あきらかにおかしい。
どうにもルクは彼の知っている水色オオカミとは、ちがうようです。
ですが、おかげで守りは万全。
いろいろと気になるところですが、とりあえず安心したルシエルは大空へと飛び立つと、氷の城の上空を一回りした後に、軍勢が集っている場所へと向かいました。
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