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43 言い伝え
しおりを挟む問答無用と勇者の剣が、ルクにおそいかかります。
鍛錬と実戦を重ねた武人。その動きは常人のものとは別もの。これを前にして、一気に距離が縮められました。
なにせ武器を手にした人間と対峙するのも初めてのことですので、なすすべのないルク。
どうぞ首を落とせといわんばかりに、無防備のまま自分の頭部を、剣の前にさらすばかり。
ですがソレはすんでのところで阻止されました。
聖剣の一撃を止めたのは神官のエリエール。手にしていた細いけれどもとっても丈夫な杖にて、ガキンと防ぐ。
「なっ! なにをするエリエール。まさか敵に魔法でもかけられて、あやつられてしまったのか?」
「私は正気です。それよりもあなたこそ、いますぐに剣をおさめなさい」
「敵を前にして何を言ってやがる。おのれ、やはりそこの青いヤツに何かされたんだな。待ってろ、すぐにソイツを叩き斬って、おまえを元に戻してやる」
神官の言葉を聞いていっそうイキリ立つ勇者。興奮しているのか、まるで聞く耳を持ちません。
するとエリエールのこめかみがピクピク、うっすらと青筋が。
「だ・か・ら、私は正気だって、言ってるだろうがぁーっ!」
両腕にてしっかりと握られた杖による、渾身の横薙ぎの一閃が、聖剣ごと勇者の体を盛大にはじき飛ばす。
ポーンと氷の壁まで吹き飛ばされた勇者。ガツンともろに背中を打ちつけたからたまらない。おまけに後頭部も打ったらしく、頭を押さえて「ウーウー」うなりながら、うずくまっています。
キッとエリエールににらまれて、さっと武器をおさめる戦士と弓士。魔法使いにいたっては、とっくに両手をあげて降参の意志表示をしていました。
「いててて、なにしやがる」と立ち上がった勇者シュウ。
そんな彼らにエリエールは言い放ちます。
「ええい! 一同、頭が高い。こちらにおわす御方をどなたと心得る。恐れ多くも天の御使いさまなるぞ。刃を向けるとは何ごとか! とっとひれ伏せ、そして全力で無礼をわびやがれ、このバカモノどもがー!」
巨大な氷の壁を前にしていたら、ふいに現れた青いオオカミ。そして突如としてぶち切れる神官。その剣幕のすごいことといったら。あまりの迫力にて歴戦の勇士たちも真っ青になってふるえあがってしまいます。
わけがわからずポカーンとしている四人の男たち。
ルクもポカーンとなってしまいました。
『水とともにあり、水をあやつり、水を統べる者。天の国より来たりし水色オオカミ。かの者、御使いの勇者なり。地の国に大いなる奇跡と恵みをもたらし、大地をうるおす』
創世の女神を信仰する教会に伝わる教義の中の一節。
とっても分厚い教義の本。そのすみっこのほうにチラリと書かれてあるモノ。ふつうならば見落としそうな内容なのですが、とってもマジメな神官であるエリエールは、教義のすみからすみまで、一言一句読み込んいるそうです。
おかげでルクが自己紹介したときに、気づけたとのこと。
「へー、神官さんはかしこいんだねぇ」
水色オオカミの子どもに尊敬のまなざしを向けられて、「それほどでもぉ」とモジモジ照れるエリエール。そこには先ほどまでの猛々しさはまるでありません。
そして勇者一行の中でルクに強い興味を示した人物がもう一人。
それは魔法使いのドック。
魔力を持ち、人に似て人ならざる種族、それが魔法使い。人よりもはるかに長命にて知識に貪欲。そんな彼は間近にてルクをじろじろと眺めては、手帳に何ごとかを熱心に書き込んでいます。ちょっとのぞいてみたのですが、あまりにぐにゃぐにゃしたムズかしい文字にて、ルクにはなんて書いてあるのか、さっぱりわかりませんでした。
とりあえず誤解が解けたところで、お互いの事情を説明し合う二組。
そこでいろいろと判明する新事実。
グリフォンが姫をさらったなんて、まっかなウソ。
陰謀に巻き込まれて、国の生贄にされたかわいそうな姫を、グリフォンが手厚く保護している。
それどころか二人はとっても仲良し。
そのアツアツぶりをルクの口より聞かされた勇者一行。
男どもはそろって王子の失恋に「あちゃあー」と天を仰ぎました。
「完全に出遅れたな、サイラスのやつ。さすがにこれでちょっかいを出したら、ヤボが過ぎるってもんだろう」
ティア姫が「自分はグリフォンの妻」と公言していることをルクより聞いて、横恋慕の不倫は、さすがに人としてダメだろうと勇者シュウ。
「きっと『ひとかどの人物になってから迎えに行こう』とか、健気なことを考えていたんだろうな。その気持ち、よーくわかるぜ。オレにもそんな頃があったもんよ。そう、あれはオレが十四のとき、故郷の村を出て……」
昔語りを急に始めたのは戦士ガントン。くどくど長いので詳細は割愛しますが、想いを寄せていた幼馴染が、冒険者として名をあげて意気揚々と村に戻ったら、とっくに二児の母になっており、お腹には三人目がいたそうです。
「せめて、前々からそれとなく婚姻話を打診しておくべきでしたね。すでに後の祭りですが」
淡々と王子をとりまく状況を分析する魔法使いのドック。逆転の目はないとバッサリ。人は他人の恋愛話にはつとめて冷静に対処できるもの。なにせ他人ごとですから。
「……狩りの中で、一番ムズかしい獲物がオンナ。あいつらは予想外の動きをしては、狩人をほんろうする」
珍しく会話に加わる百発百中の弓士ピピン。無口な彼にしてはよくしゃべる。きっと異性関係にて、過去に何かあったのでしょう。
額をつき合わせては、ボソボソと話し合いをしていた四人の男たち。
結論としては「帰ったら王子のヤケ酒にとことんつき合う」ということでまとまりました。
そんな男どもを尻目に、女性のエリエールさんは一人、手にした杖をブンブンふりまわして、ひたすらに激怒していました。
「あんのウソつきのくされ外道ども! 偉大なティルさまのご息女になにしてやがる! なぐる、ぜったいにぶんなぐってやる、そして泣かす!」
いろんな表情や態度を見せる勇者五人組。なんとも感情表現豊かな面々。
その姿を眺めていた水色オオカミの子どもが、ぽつりとつぶやいた。
「うーん。ボク、人間ってよくわかんないや」
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