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46 魔女王のたくらみ
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鳴き声をあげたのは水色オオカミの子ども。
どこぞより飛んできた紅いナイフに気づいたとき。考えるよりも先に体が動いていました。
ティア姫の背へと突き立たんとする凶刃に、我が身を盾としたルク。
そのかいあって姫さまは無事です。ですがナイフはルクの左肩へと深々と刺さっています。
痛みとともにイヤなものが体の中にドロリと流れ込んでくる。
四肢よりどんどんとチカラが抜けて、もう立っていられません。
ルクは目を閉じて、ぐったりと倒れてしまいました。
「あぁ、あんてこと。ルクっ、ルクっ、しっかりして」
ティア姫の声にうっすらとまぶたを持ち上げたルク。
「うぅーん、なんだかチカラが入らないや。あとすごく気持ちわるいー」
すかさず姫と水色オオカミを囲んで、守りを固める勇者一行。
「くそっ! どこから仕掛けやがったんだ」
聖剣片手に周囲を警戒する勇者。しかしどこにも彼ら以外の姿はありません。他のメンバーたちも探しますが、どうしても見つけられません。
ですがこの場に、明らかに害意を持った者が潜んでいるのは間違いありません。
聖剣の刀身に映すことで見破れるようですが、すでに向こうにもバレているらしく、巧く身を隠されているようで、姿が捉えられません。
気配や姿もなく迫る暗殺者の出現に、あせる勇者たち。
するといつしか中庭の地面に、うっすらと水が張られているではありませんか。
これは水色オオカミが出したものです。
それを見た弓士のピピン。すぐにルクの意図に気がつきました。
弓を構えて、五感を研ぎ澄ませて、じっと待つ。
ピチョンと、かすかに水が跳ねる音がして、小さな波紋がいくつか起こる。
「……そこ」
引き絞った弓から放たれた矢が、何もないところへと飛んでいくと、矢じりが空中に刺さって、ピタリと止まりました。
とたんに景色に無数のヒビが走り、まるでガラスが割れるかのようにして、砕けてしまいます。
向こうから姿を現したのは、赤い髪をした若い女。
「ちっ、バレちまったか。やたらと鼻が利く水色オオカミのガキだとは思っていたけど、こんな小賢しいマネまでするとはね。おかげで貴重な魔道具が、ひとつダメになってしまったじゃないか」
手にしていた短い杖を投げ捨てる女。杖の先についていた玉には亀裂が入っています。どうやらピピンの一撃を受けて壊れてしまったみたい。
「その顔……、見覚えがあります。たしかサブリナ王妃つきの女官っ! よもや彼女の命令で私たちをつけてきたのでしょうか? それで姫の命を狙って」
神官のエリエールが問いつめると、ケタケタと女は笑いだしました。
「誰があんなバカ王妃の命令で動くもんか。せっかくあの女を焚きつけて、ここまでお膳立てをしてやったというのに。それをお前たちが土壇場で手を引くなんて言い出すから」
「あなたは何を言っているの?」
「あんたらがとっとと姫さんを連れ出してくれれば、こっちはそれでよかったんだ。それなのに聖剣で祝福ですって? ジョーダンじゃないよ。そんなことをされちゃあ、こっちの計画がダメになっちまうじゃないか」
「計画とは誰の計画なの。それにあなたはいったい……」
「アタいの名前はミラ。我が主は偉大なる白銀の魔女王レクトラムさま。こうなったら冥途の土産さ。ぜーんぶ教えてあげる。愛しい姫を失ったグリフォンのやつが、ヘロヘロになったところを、魔女王さまの御力にて虜にしちまう算段だったんだよ」
すべては天空の覇者を手に入れんと欲する魔女王のたくらみ。
それを知っておどろきを隠せないエリエール。
ミラは真相を知ったこの場にいる者すべてを、亡き者にするつもりのようです。
ですが勇者の仲間たちも、ただ黙って二人のやりとりを眺めていたわけではありません。
エリエールがミラの注意を引きつけているうちに、ティア姫とルクをその場より遠ざけ、自分たちの戦闘準備もすでに終えていました。
しかし……。
「おやおや、さすがは勇者たちだねぇ。油断もスキもありゃしない。だけどあんたらも運がわるい。よりにもよって足下は水浸しで、周囲は氷の壁ときたもんだ。あーあ、かわいそうに。ほんとうにお気の毒さま」
口元を歪めて、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた赤髪のミラ。双眸が妖しい紫の光を宿している。
空へとかざした指先からビリビリと小さなイナヅマが出ています。
カミナリは水をよく伝わる。
そのことを知っていたエリエールが、みなに危険を叫ぶのと同時に、ミラを中心にして大量のいかずちが発生しました。
「あははは、よーく覚えておくんだねぇ。この紫眼のミラさまの得意なのはカミナリの魔法なのさ。せいぜいあの世で語るがいいさ」
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