水色オオカミのルク

月芝

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47 ミラの正体

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 古城の中庭より放たれたいかづちが、天をつらぬき、地をおおう。
 無数のヘビのように四方八方へと散っては、足下の水たまりや氷の壁の上を……、走らない?
 カミナリは水の上をよく伝わります。
 なのに伝わるどころか、ほんのちょっと進んだだけで、水に吸い込まれるかのようにして、消えてしまうではありませんか!
 どうやらルクのチカラで出した水や氷には、いろいろとヒミツがあるみたい。

「な、なんで? どうなってるんだい。くそっ! こうなったもう一度」

 いっそうのチカラを込めて、いかずちの魔法を放った紫眼のミラ。
 なのにカミナリが水や氷に触れたとたんに、フッとなくなってしまう。
 まとめて全員を倒すはずだったのに、わけがわからずに混乱する赤髪の女。
 そこに接近していた戦士ガントンが振り下ろした大剣の一撃。うなりながら迫るそれをよけたミラ。いったん距離をとろうとしたところへ飛来したのは弓士ピピンの矢。これもとっさにかがんでさけた。と思ったら足首に激痛が走ってキレイな顔を歪める。
 一の矢に続けて二の矢も放たれていたようで、地面すれすれを這うように飛んできたソレが、ミラの左の足首をかすり、切り裂いたのでした。
 痛みをこらえて立ち上がったところ、ふいに、ズブリと体が沈んだような感覚におそわれます。
 ハッとして見てみると、自分の足下がドロドロにかわっており、右の足首あたりまで埋もれてしまっている。
 魔法使いドックの放った土の魔法です。足をとられて、これでは身動きがとれません。
 そこに「トドメだ!」とふり抜かれたのは勇者の聖剣。
 体をひねって逃れようとしたミラ。背中に一太刀を受けて、「ぎゃあ」と叫び声をあげ、衝撃にて吹き飛んだ。
 ドサリと倒れたミラ。肩から腰にかけてバックリと背中が裂けています。
 そのままピクリとも動きません。

 ミラの方は男たちにまかせて、神官のエリエールはすぐにティア姫とルクのところに駆け寄ります。
 ぐったりとしたままのルク。
 エリエールが「やりましたよ」と告げると、チカラなく「やったね」と消え入りそうな声で答えました。
 苦しんでいる水色オオカミの子ども。
 とりあえず刺さっているナイフを抜いて手当をと考えたティア姫。
 でもエリエールが「いけません。ソレにふれてはダメ」と止めました。
 神官である彼女は、ナイフから漂ってくる邪悪な気配を感じとっていたのです。

「これはただのナイフじゃない。呪いが込められています。それもかなり強力な。うかつに触れたら危険です」
「でも、どうしたら……」
「とりあえず私が『いやしのチカラ』を使ってみます」

 そう言ったエリエール。首から下げているネックレスの先についた白い珠をにぎしめて、女神に捧げる祝詞をブツブツとつぶやき始めました。
 すると珠が白い輝きを放ちはじめます。
 これこそが、いやしのチカラ。
 人間であるエリエールに魔法は使えません。ですが教会にて修練を積んだ者たちは、女神の祝福が施されたという特別な魔道具を扱えるようになるのです。
 勇者一行の旅へと同行することが決まり、エリエールには教会よりいくつかの秘蔵の魔道具が貸し与えられました。
 これもそのうちの一つ「女神の慈愛」という名前の魔道具。
 効能はケガや体調の回復。

 水色オオカミの体が白い光に包まれて、ルクの呼吸が落ち着いてきました。ですが、しばらくするとまた呼吸が浅く早くなってしまう。

「そんな、女神の慈愛が効かないだなんて……、呪いが強すぎるの? それとも水色オオカミには効きにくいのかしら」

 弱ってしまうエリエール。
 ただ見ていることしかできないティアは、泣きながらルクの体にすがって、彼の名前を呼ぶばかり。

 一方その頃。
 切り伏せたミラのところへと用心しつつ近寄る勇者と仲間たち。
 姿を隠す魔道具に、先ほどのカミナリの魔法。
 魔女王の配下だと名乗った女、絶対にただ者じゃありません。

「白銀の魔女王か……、ドックは知っているのか?」
「あぁ、魔法使いの間では伝説級の御方だよ。もっとも悪名のほうで、だがね」

 シュウの質問に吐き捨てるようにそう答えたドック。珍しく感情をむき出しにしている彼の様子に、男たちはよっぽど嫌っているようだと察する。

 じりじりとミラのもとへと近寄る面々。
 もう少しというところになって、一斉に飛び退ったのは、歴戦の勇士のカンがそうさせたものか。
 ですがおかげでみんな無事ですみました。
 突如として激しく放電するミラの体。
 ゆらりと立ち上がる。

「やってくれたね、勇者さま。嫁入り前の女の体をキズつけたんだ。きっちり責任をとってもらうよ!」

 膨れ上がった怒気が、ビリビリと周囲の空気をもふるわせました。
 赤髪の女の体がまばゆい雷光に包まれ、いかずちの柱が立つ。
 あまりのまぶしさに見ていられず、腕をかざして目をとじる一同。
 閃光が満ちる古城の中庭。
 やがて光がおさまったとき、そこにはとぐろを巻いて、長い舌をチロチロと見せている、紫色の目をした一匹の赤い大蛇の姿がありました。


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