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49 黒いまだらオオカミ
しおりを挟む不穏な気配を感じて、急いで戻ってみれば、古城が濃い霧に包まれています。
中では何者かが争っている様子。
だから風をあやつって、霧を一気に吹き飛ばしたグリフォンのルシエル。
自分の留守中に暴れていたとおもわれる面々をギロリとにらみつけるグリフォン。
中庭の片隅には、倒れている水色オオカミに泣いてすがっているティア姫の姿。
おもわずカッと怒気をあらわしそうになったところを、止めたのは彼の背中に乗っていたサイラス王子。
「待ってくれ、ルシエルどの。あれは私の仲間たちだ。どうやらあのデカいヘビと戦っていたようだ」
王子の言うとおり、地面には赤い大蛇が転がっています。
それを見てとりあえず怒りを抑えたルシエル。中庭へと舞い降りていきました。
突然のグリフォンの登場に、すっかり気勢をそがれてしまった勇者たち。
ハッ、と気がつき聖剣にて叩き落したはずの首を見ると、そこにあったのは黒い氷の塊。
大蛇のほうは向こう側にて、目をまわしてのびています。
「なんだコレは? オレは確かにヤツの首を狙ったはずなのに」
リキむあまり手元が狂ったのかとふしぎがる勇者。
「一番の見せ場でハズしやがったのか、ダセぇな」
「アレをハズすとか、ある意味、すごいですね」
「……へたくそ」
「まぁまぁ、とりあえず倒せたみたいですし」
戦士と魔法使いと弓士にこきおろされて、神官にかばわれた勇者。「おかしいなぁ」と自分の手元を見ては、小首をかしげるばかり。
そんな彼らのところにサイラス王子が駆け寄ってきました。
「お前たち、無事か」
「おう、こっちはなんとかな。そっちこそグリフォンと一緒に飛んでくるとは、どういった流れなんだよ?」
「くわしいことは後で話す。それよりも」
王子が顔を向けたのは地面にだらしなくのびている赤い大蛇。
が、彼はすぐに腰の剣を抜き放ちました。
突如として大蛇のすぐ側に、黒いオオカミの姿が現れたからです。
まるで気配を感じさせなかった新手の出現。
ギョッとした勇者たちも、王子に続いて武器をかまえます。
「またオオカミかよ。それにしてもなんだ、コイツは? 黒いけど、ところどころにへんな色ムラがありやがる。まるでまだら模様だな」
「染めの質が悪い、洗いざらしの古い服みたいですね」
勇者シュウや神官エリエールに、毛並みについて、かなりヒドイことを言われているのにもかかわらず、まるで気にもしない黒いまだらオオカミ。
目の前の勇者たちはムシして、足下に転がっている赤い大蛇の頭を、前足にてコツンと蹴飛ばす。
「おい、いつまで寝ている」
「ううーん」と目を覚ましたミラ。「あんたはガロン……。あれ? アタいの首、落ちてない」
「すんでのところで助けた」
聖剣の一撃にて首を落とされそうになって気を失っていたところを、黒い氷を出してすり替えたというガロン。
「そうなのかい? そいつは助かったよ」
「気にするな。お前が死んだら、オレの仕事が増える」
「……アンタねぇ、もうちょっと、こう、気の利いた台詞のひとつも言えないもんなのかい。そこは『だいじょうぶか? オレがきたからには安心しろ』とかさ。そうすりゃあ、アタいだって、ちょっとはホの字になるかもしれないのに」
助けてもらえたことには感謝しつつも、女としては不満顔のミラ。ぶつぶつと文句をこぼします。
しかし黒いまだらオオカミは興味なさげに、ツンとしたまま。
「勇者にグリフォンまでそろってはな。今回はこれまでだ。とっとと引き上げるぞ」
「わかったよ。はぁー、どうしよう。レクトラムさま、むちゃくちゃ怒るだろうなぁ」
かってに話をまとめた赤い大蛇と黒いまだらオオカミ。
勇者たちが見ている目の前で、その姿がズブズブと足下の影の中へと沈んでいき、すぐに消えてしまいました。
「えっ! いなくなっちまっただと? 連中、どこへ行きやがった?」
また魔道具で姿を隠したのかと、勇者たちがキョロキョロと周囲を探すも、すでにどこにもいません。姫が襲われた一件を聞いたサイラス王子も、手伝って入念に中庭を捜索しましたが、それらしい気配はどこにも見つけられませんでした。
影が消えた辺りの地面に手をふれて調べていた魔法使いのドック。
「空間魔法のように見えたが、違う。まるで影そのものをあやつっているように見えた。あのチカラはいったい……」
まんまと逃げられたことを悔しがっている勇者をよそに、一人ムズかしい顔をしているドック。
そんな彼らのもとへと、のしのしと近寄ってきたグリフォン。
「おおまかな話はティアから聞いた。まずは白銀の魔女王の手下からティアを守ってくれたこと、礼をいう」
そう言って天空の覇者は立派なワシ頭を下げました。
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