水色オオカミのルク

月芝

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50 翡翠のオオカミ、ふたたび

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 ミラの放ったナイフを受けて、ぐったりとして倒れたままの水色オオカミの子、ルク。
 左肩には刃が深々と刺さったまま。呪いが込められており、うかつに抜くこともままならない。
 心配してそばを離れようとしないティア姫と神官エリエール。
 古城にあったクスリや神官の持つ魔道具もいろいろと試してみましたが効果なし。
 看病のかいもなく、回復のきざしがまるで見られません。
 これには居合わせた他の者らも気が気ではありませんでした。

「ふむ。白銀の魔女王の呪毒ともなれば、なまはんかなことでは解けまい。どうしたものか」

 青年の姿となっているグリフォンのルシエルが悩んでいると、ティル姫がいいことを思いつきました。

「そうです! まえにルクが話していた西の森の魔女さまにご助力を請いましょう。その方ならばきっと」
「西の森の魔女……、もしやエライザさまのことでしょうか? それならばあるいは」と魔法使いのドック。
 彼の話によれば魔女王とは違った意味で、魔法使い界隈では語り草になっている伝説の人物とのこと。成した偉業の数々、その博識ぶり、とくに薬学に関しては並ぶ者なしと云われるほど。
 これを聞いた一同に希望が湧きました。

「よし、それならばオレがひとっ飛びにて、エライザどのを迎えに行ってこよう。本気を出せば往復するのに一日とかかるまい。それまで耐えるのだぞ、ルクよ」

 言うなり青年の姿は金色のツバサを持つグリフォンとなり、そのまま大空へと。
 あとはルシエルが首尾よく西の森の魔女を連れて来てくれることを祈るばかり。
 と思っていたら、ほんのわずかの時間を経て、戻ってきたではありませんか!
 忘れ物でもしたのかと、みんなが怪訝な表情をしていたら、彼はちょっとバツがわるそうに、こう言いました。

「いや、それが……。荒地のはしでちょうど知り合いにあってな。事情を説明したら彼女が自分に任せろと言うもんだから」

 そのわりにはグリフォンの背中には、誰の姿も見当たりません。
 サイラス王子のときのように乗せてきたわけではなさそうです。
 これはどうしたことなのでしょうか?
 みんなが詳しい説明をもとめようとした矢先、古城の中庭に一陣の風が吹く。
 砂ぼこりが舞って、おもわず目を閉じる面々。

 風がやみ、彼らがまぶたを開けると、そこには初夏の新緑を思わせる鮮やかな緑色の毛をしたオオカミの姿がありました。
 翡翠(ひすい)のオオカミのラナです。かつて野ウサギの兄弟と西の魔女の森を目指している途中で、ルクたちが出会った水色オオカミの女性。
 彼女はみなに軽く会釈をすると、そのまま倒れている水色オオカミの子どもの下へ。

「やれやれ、グリフォンが人間の嫁をもらったって話を、風のウワサで聞いたんで、冷やかしがてら荒地に立ち寄ったら、こんなことになっているだなんてね。ほら、しっかりしな、ルク」
「ううーん……、その声はラナさん? やぁ、ひさしぶりー」

 チカラのない声でそう答えたルク。ふろうとしたシッポはパタリとたおれ、わずかに言葉を発するのもダルそう。
 そんなルクにラナは告げます。

「いいかい? よくお聞き。毒もまた水の変じた姿なんだよ。だからこそ水色オオカミの体にみょうに馴染んでしまうことがある。アンタがしんどいのはそのせいさ。だからまずは自分の体の中のイヤのものを、しっかりと感じとるんだ。ほれ、やってみな」
「う、うん」

 自分の体内に意識を向けるルク。するとあちらこちらに、じわーっとイヤな染みのようなモノが広がっているのがわかりました。

「なんだか気持ちわるいのが、ふよふよしているよ」
「そいつらがアンタの中でわるさをしているモノだよ。それがわかったら、今度は一か所に集めてみな。こう、ムネの辺りにギュッと丸めるように」

 ラナの指示にしたがうと、少しずつですがムネの辺りにイヤなものが集まってきました。ですがときおり抗われることも。「がんばって」「がんばれ」「負けるな」と、みんなから声援を送られて、これを励みにどうにかそれらをねじ伏せていく。
 じょじょに集まってきたイヤなもの。
 ついには一つとなって玉のようになりました。
 その様子を滝つぼの深淵のような碧い瞳にて、じっと見守っていた翡翠のオオカミのラナ。
 その場にいた全員にすこし離れるようにと言いました。
 そして水色オオカミのチカラをつかって氷の箱を造りだします。

「ルク、そのムネの中のものを、この箱の中に吐き出してしまうんだ」

 言われた通りにすると、ゴボリとノドの奥が鳴って、ペッと吐き出されたのは、手の平にのるぐらいの大きさの紅い玉。
 とたんにルクの左肩に刺さっていたナイフがポトリと抜け落ちる。
 それをくわえたラナ、すぐさま箱の中に放り込むと、フタを閉じてしまいました。
 するとみるみる色が変わっていく箱。込められていた呪毒が内部から周囲の氷を浸蝕しているのです。
 すっかりドス黒くなってしまった後に、箱はドロリと溶けて跡形もなく消えてしまいました。


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