51 / 286
51 グリフォンと翡翠のオオカミ
しおりを挟む翡翠(ひすい)のオオカミのラナの手助けもあり、自力にて体の中から呪毒をとり出すことに成功したルク。ですが巨大な氷の壁を出したり、城をおおうほどの霧を出したりと、水色オオカミのチカラを使い過ぎていたこともあって、ずいぶんとつかれがたまっていたよう。そのままスゥスゥと安らかな寝息を立ててしまいます。
「この子はもうだいじょうぶ。寝ていればじきによくなるさ」
ラナの言葉にみんながようやく安堵の吐息をこぼしました。
これでほんとうにひと息つけます。
とはいえ勇者たち五人はミラとの戦いのせいで、ボロボロでくたくた。
ティア姫とサイラス王子とのこともありますし、ルクはごらんの通り。またグリフォンも翡翠のオオカミに少し話があるとのこと。
今後のことなどの細々とした相談もありますし、その日はみんなまとめて、このまま古城にて泊まることになりました。
ティア姫が用意した夕食に舌鼓をうった後は、みなおもいおもいに過ごします。
勇者組の男たちは、そろってお風呂場に突撃。どうやら旅仲間の若い娘からニオイのことを言われて、ずっと気にしていたようです。
神官のエリエールは念のためにとルクの看病についています。
そしてルシエルはラナをともなって席を外しました。
グリフォンと翡翠のオオカミは、城より少しばかり離れた荒地にきています。
空には月がこうこうと照っており、夜にもかかわらず相手の姿がはっきりとわかるほどに明るい。
「なんだい? わざわざこんなところにまで連れ出して」
「二つばかり用件があってな」
「ずいぶんともったいぶる」
「一つはおまえの探し人のことだ。今日、オレたちに起こったことは、かいつまんで説明したな」
「あの白銀の性悪魔女がちょっかいをかけてきたってんだろ。まさかっ!」
「あぁ、黒いまだら模様のオオカミが姿を現した。黒の水色オオカミ、たぶんアレがおまえの話していたヤツだろう」
ルシエルの口から黒いオオカミの話が出たとたんに、ざわりと逆立つラナの緑の毛。殺気や怒りにも似た何かが彼女の体より立ち昇り、気焔を発し周辺の空気をピリリと緊張させる。
もとから凛とした雰囲気をまとっているラナ。そこに凄味が加わっていっそうの迫力を持つ。
「やはりな。だからおまえをわざわざここまで連れ出したんだ。そういきり立つな」
グリフォンから落ち着けと言われて、どうにか感情を抑える翡翠のオオカミ。なんども深く息を吸い込んでは、己の心をしずめていく。
「すまん。つい、ね。そうかガロンが、あの人がここに……。クソッ! ひと足ちがいだったのか」
「勇者たちの前にふらりと現れて、魔女の部下の大ヘビをつれて、すぐに姿を消してしまったがな。いちおうはお前の耳に入れておこうと思ってな」
「そうか……、ウワサを聞くたびに追っているんだけど、あっちもクサっても水色オオカミ。どうにも神出鬼没でね。なかなか」
「あの調子では魔女王にいいように使われているようだが、それはともかくとして問題はもう一つの用件だ」
「?」
「ルクのことだ」
古城をとり囲んでいた高い氷の壁。城をおおいつくすほどの霧を出したり、産み出した水や氷のおかしな性質、天から雲を呼び込んだりしたことを説明するルシエル。
ふつうの天の御使いの勇者とは、一線を画した規格外な能力。しかもそれはいまだに底がまるで見えない。
そのわりにはあまりにも幼く、無知で無防備がすぎる。
「今回の件でもそうだが、どうにも水色オオカミのチカラの使い方が極端なのだ。粗いとでもいえばいいのか。いずれ、とり返しのつかないことにならぬかと、オレは案じている」
「それは……、たしかにそうだね。どうやらあの子はちゃんと修行を積んでから、地の国へと降りてきたわけじゃないみたいだし」
「そこでだ。おまえ、しばらくルクの面倒をみてやれ」
「えっ! いや、しかし私には……」
ガロンという黒いオオカミを追い続けているラナ。ゆえにこの提案に渋りますが、ルシエルがとりあえず自分の話を最後まで聞けとなだめます。
「それを含めてだ。能力ばかりの話ではない。おかしいといえば、ルクの引きの強さというか、縁というか。ここまでの旅の話を聞いたのだが、西の森の魔女にはじまり、霧のオオカミだの古代の神像だの、オレやおまえに勇者たち、あげくに白銀の魔女王とまで。地の国へと降り立ってわずかの間に、これだけの良縁、奇縁、悪縁を招き寄せている。このこと、おまえはどう思う?」
「どうと言われても判断に困るが、たしかにこっちで同族と顔を合わせることも、本来ならばめったにないこと。それが私を含めてすでに三頭もか……」
「オレはな、運命なんて言葉は信じちゃいない。だがあの子を見ていると、ひょっとしたらと思わせられるんだよ」
「運命ねえ」
「ルクが通ったあとが線となり、オレやおまえのような様々な点を結びつける。ここしばらくなかった御使いの勇者の出現。これにより世界の何かが動き出しそうな予感がするんだよ。そのカギをあの子が握っている。オレにはそう思えてならない」
けっして大げさではなく、ただありのままに己の心が感じたことを口にするグリフォンのルシエル。一切を飾らない言葉。それゆえにストンと聞く者の心に想いが届く。
「天空の覇者であるアンタにそこまで云わせるのか、あの子は」
そうつぶやいたラナ。しばらく考え込んでから言いました。
「……わかったよ。ルクは私がしばらく面倒をみよう。せいぜい基本からみっちりと仕込んでやるさ」
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる