水色オオカミのルク

月芝

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57 ラナ

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 天の国に住む水色オオカミたち。
 その中で瞳の色がかわった者は、御使いの勇者として地の国へとおもむき、旅をします。

「そのことは知っているな?」とラナに言われて、コクンとうなづくルク。では「旅の終わりについては?」とたずねられて、「気に入ったところに住むんでしょう。ハクサさんみたいに」とルクは答えました。
 ハクサとはバロニア王国の遺跡にて出会った霧のオオカミのことです。

「その通りさ。でもね、使命は必ずしも絶対ではないんだよ」
「えっ! そうなの?」

 第二の選択肢があると言われておどろくルクにかまわず、ラナは話を続けます。

「そのハクサさんは何と言っていた。その地に流れ着いたことについて」
「えーと、たしかひと目見て気に入ったとか、なんとか」
「……ここが自分の居場所だと思った」
「そう! それ! そんなことを言ってたよ」
「だったら、その居場所が他のモノだったらどうする? 土地じゃなくて、建物、あるいはモノ、もしくはもっとちがう何かだったら」
「ちがう何かって、そんなことがあるの?」
「あぁ、あるんだ。私はソレに出会ってしまったんだよ。少し長い話になるけど、いいかい」
「うん」
「じゃあ話そう。あれは私がまだ御使いの勇者として生きていた頃のこと……」



 天の国より地の国へと降りてきたラナ。
 その頃はいまとはちがい蒼天のごとき、目のさめるような青い姿をしていました。
 各地を彷徨い、多くの経験をして、たくましくも美しく成長していく。
 あるとき仲間の水色オオカミに出会いました。
 御使いの勇者は一頭とは限りません。その時どきによって複数いるときもあれば、まったく現れないときもあったりといろいろ。天の国より降りる時期もバラバラ。みな広大な世界にて、おもいおもいの旅を続けているので、ちらりと見かけたりすることはあっても、バッタリと出会うことのほうがめずらしい。
 そんなめずらしいことが起こりました。

 彼は足の先っぽだけが青く、それ以外はすべて純白という姿。
 まるで海辺から見上げる夏の入道雲をおもわせる力強い白さに、おもわず心をうばわれたラナ。あいさつをするのも忘れて見惚れてしまいます。
 その白い水色オオカミの名前はガロン。
 ですがガロンもまたラナの姿に目が釘づけとなっていました。一点のくもりもない青空をおもわせる蒼天の青。なんとうつくしい女性なのかと。
 ひと目で恋におちたラナとガロン。
 互いが互いに強く惹かれ、そして思いました。

「あぁ、自分の旅は、彼(彼女)に出会うためであったのだ」と。

 そして彼らは選んだのです。
 御使いとしての道ではない、別の道を。
 こうして彼らの御使いの勇者として旅は終わり、共に生きるための新たな旅がはじまりました。
 いろんなところを転々としていくうちに、ラナの毛の色が蒼天から翡翠(ひすい)へとゆっくりとかわっていきました。そしてガロンは四肢の先にあった青さがすっかり消えて、全身が銀毛の混じった白へと。
 二頭とも、とってもキレイなのですが、それは同時にあることを意味していました。
 チカラこそはそのままですが、天の国の水色オオカミではなくなってしまったということ。その身の変化は使命を捨てた者の証。ついに彼らは完全に地の国の住人となったのです。
 自分たちで決めたことですが、故郷や由来を失うというのは、とてもかなしい、さみしいもの。ぽっかりと胸に大きな穴があいたようで、心がふるえて、頬を伝う涙がとまらない。
 ラナとガロンは互いの涙を舐めあいながら、より添い、そのさみしさに耐えました。


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