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60 鎮魂の森
しおりを挟む共に旅を続ける翡翠(ひすい)のオオカミのラナと水色オオカミの子ルク。
修行の成果は着々と出ており、ルクもかなりチカラの加減がうまくなってきました。それでもまだまだラナには遠くおよびません。
旅の道すがら、訓練の一環として追いかっこをするルクとラナ。
逃げるのはルクで、鬼はラナ。
風のように走れる自分の足に、絶対の自信があった水色オオカミの子ども。
元気いっぱいに、ギューンと空気を切りさきながら駆ける、駆ける。
途中でわざと森に入り込んでは、木々の間をぬうように抜けて、ときには木の枝を足場にして、タンタンと軽快に跳ねながら突き進む。
で、さすがに「もう、だいじょうぶかな」と小池のほとりで、ひと息ついたとたんに、むんずと頭を地面に抑えつけられました。
「足はなかなかのものだが、まだまだだな」
あっさりつかまったルク。「えー、なんでー」とわけがわかりません。なにかヒミツでもあるのかとたずねるも、「年季がちがうからな」と笑って流されてしまいます。
それでなっとくできるわけもなく、頬をぷっくりとふくらませたルク。
「まぁ、ヒミツというかコツだな。お前はまだ自分の能力に頼りきっているんだよ。でも私の場合はちゃんと考えているんだ」
「ボクだってちゃんと考えているよー」
「なんと説明したらいいものか。ようは若さや体力にまかせてガムシャラに動いているだけってことさ。自分が動くことにばかりにかまけず、周囲や相手にもしっかりと目を向け、注意を払うことも大切なんだ」
「うーん、なんだかムズかしそう」
「いまはまだわからないかもしれないが、いずれわかるようになるだろう。あせらずじっくり考えな。さてと、それじゃあ次は私が逃げるから、しっかりと追いかけてきな」
言うなり駆け出す翡翠のオオカミ。
あわてて水色のオオカミの子がそれを追いかける。
二頭の追いかけっこは、陽が暮れるまで続きました。
翌日のことです。
ラナが「この近くにちょっとかわったところがある。ついでだし、のぞいてみるか?」と言ってきたので、ルクはシッポをフサフサゆらしながら「行く」と答えました。
案内されるままに、やってきたのは最寄りの森。
ですが生えている植物が、どれもこれも見たことのないモノばかり。
まるで石でできているような、固い青銅色の肌のずんぐりとした木々が、まっすぐに天へと向かって伸びており、かなり背も高い。
咲いているのは水晶のような花。足下はさらさらとした粒の細かな薄紫色の砂。この森全体の地面がそんな砂で埋めつくされている。
歩いていると、ときおりザァーと音がする。
おどろいてそちらに目をやれば、木々の枝の先がなにかのひょうしに、崩れたものが地表へと落ちる音でした。落ちた衝撃にてさらに粉々となり、あの砂へと姿をかえる。
それを見たルクは「まるでアイドクレーズの花みたいだ」とつぶやきました。
アイドクレーズの花とは、種に想いをこめると、一夜にして花を咲かせて、万病に効く薬となる雫がとれるふしぎな植物のこと。西の森の魔女エライザさんのところで見たやつです。
「もしかしたら彼女が、ここの植物から産み出したものなのかもしれないね」とラナ。
物珍しさにキョロキョロとしているルクに、ラナが声をかけます。
「ここは鎮魂の森と呼ばれている場所さ。あんたはどう思う?」
「どうって……、なんだかとってもヘンなところ、かなぁ」
「まぁ、それも正解だね。でもそれだけじゃない。ほら、おかしなところが他にもいろいろとあるだろう」
うながされて考え込むルク。
言われてみると、たしかにいくつもの奇妙な点が……。
「あれれ? そういえば空気がやたらとすんでいてキレイだ。風もない。それにみょうに静かだ。トリどころかムシの鳴き声すら聞こえてこないなんて。ひょっとしてここには、誰もいないの?」
「そう。たんに食べられるモノがないからとかの理由だけではなくて、近在の者たちは誰もここには近寄ろうともしないんだよ。もう、ずっとずっと前からそうなんだという話さ」
キレイだけど、まるで生命を感じられない場所、鎮魂の森。
名前の由来は不明だけれども、鎮魂というぐらいですから、元は死者を弔っていたのでしょうか。
内部はどこかおごそかな雰囲気が漂っており、静まりかえっているので、やたらと自分の立てた足音が響いて気になります。
そんな森の中をずんずんと憶することなく進んでいくラナ。
あとについていくと、開けた場所へと出ました。
森の奥を丸くくりぬいたかのような広場。
下には石畳が敷き詰められており、ここが特別な場所だということはひと目でわかります。
そんな広場の中央に建っていたのは、灰色をした石碑でした。
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