水色オオカミのルク

月芝

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69 白銀の魔女王の城、とある一日

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「あー、いそがしい、いそがしい」

 ふきそうじ用の布を片手に、そう言いながら長い廊下を二本足にて駆けていくのは、白いウサギ。
 そのあとをホウキを持った白いカエルと、バケツをもった白いサルも、二本足にてパタパタ追いかけていく。

 ここは浮遊島にある白銀の魔女王レクトラムの居城。
 彼らは魔女が造り出した魔法生物にして、城の雑用係。
 形こそはウサギやカエルやサルのそれですが、まるで白い型紙から切りだしたかのような姿にて、体の厚みもちょっと薄いです。
 それらがいっぱい城内をうろついています。
 とにかく広い、このお城。
 美にやたらと執着するご主人さまは、とっても神経質なところがあって、ほんのわずかな汚れも許しません。
 だから雑用係はとってもたいへん。日がな一日をあちこち走り回っては、みんなでそうじに明け暮れるハメに。

「おーい、つぎはどこだい?」

 前を走るウサギに声をかけたのはカエル。

「次はミラさまのところだよ」

 それを聞いた後ろの二匹。そろって「げぇー」と、とってもイヤそうな声をあげました。
 なにせ紫眼のミラさまの部屋は、そうじがとってもめんどうなのですから。
 彼女は宝石類が大好き。たくさんタメ込んでいます。自分で集めただけでなく、魔女王さまから褒美としてもらったものまで合わせたら、千ではすまない数。
 それらを全部、ひとつひとつ丁寧にみがかされるのです。しかも聞きたくもない宝石のうんちくやら、自慢話に延々とつき合わされる。
 そのくせうっかりポロリと落とそうものならば、とたんにカミナリが落ちます。怒りを表す例えなどではなくて、魔法による本物のカミナリがドカンと! いくら魔法生物だとてイタイものはイタイし、おっかないものはおっかない。
 だから彼女の部屋は、魔女王さまの寝室に続いて、雑用係たちによる城内そうじしたくないランキング堂々の第二位。

 ちなみに第三位は、黒まだらオオカミのガロンさまのところ。
 あまり部屋にいることがないので、散らかっておらず、そうじはとっても楽なのですが、当人の雰囲気がおっかないのと、いきなり影からニョキっと姿を現したり、消えたりするのが心臓に悪いともっぱらの評判。もっとも雑用係に心臓はありませんけど……。
 逆に一番人気は、御側用人筆頭のコークスさまのお部屋。
 わがままなレクトラムさまの世話をしながら、城内を取り仕切り、各種事務仕事をそつなくこなすスーパーエリートのお部屋は、びっくりするぐらいに整然としており、ほとんどそうじの必要もないほど。せいぜいが軽く机まわりを拭いて、棚にハタキをかけるぐらい。
 なのにちゃんと「ごくろう」と渋い声でお礼を言ってくれるし、ご褒美に角砂糖までくれるもんだから、雑用係はみんな大好きコークスさま状態。

 雑用係たちは角砂糖が大好物。
 一日の仕事終わりにもらえるひと粒の角砂糖を心のささえに、毎日をがんばっています。
 いかに魔法生物とて、心はガリガリとすり減るのです。
 甘いモノでも口にしなければ、やっていられません。

 ミラからたっぷりと興味のない話を聞かされながら、ずっと宝石をふいていた白いウサギとカエルとサルたち。目はチカチカして、頭はくらくら。
 どうにか仕事を終えて、あてがわれている休憩室へと戻ったときには、もうくたくたです。
 そんな彼らに「よう、おつかれさん」との声をかけてきたの、壁にある一枚の鏡の向こうにいるモノ。
 声の主は魔女王の居室にある大鏡。これもまた魔女によって造られた魔法生物。
 大鏡の役割は、城内に設置されてあるすべての鏡を通しての連絡や警備網の構築。あとは女王様のごきげんとりです。
 飽きもせずにひんぱんに鏡を見つめては、「わらわは美しいかえ?」とたずねてくるレクトラムさま。そのたびに「世界でいちばんお美しいですよ」「とってもステキですよ」「よくお似合いです」などと答えるだけの、かんたんなお仕事。
 ですがそれが日に何度もとなると話はかわってきます。いかにキレイな女性とて、そうそう眺めていれば、いいかげんに飽きてきます。
 もちろん、そんなおそれ多いことなんて、とても口にはできませんが、内心ではウンザリしている大鏡。

 巨大な城にて同じような境遇の雑用係と大鏡。
 しょっちゅう顔を合わせているうちに、気がついたらこっそりと裏でグチをこぼしあう、親しい間柄になっていました。

「そっちこそおつかれー。魔女王さま、もう寝た?」と白いウサギ。
「ああ、ついさっきね。夜更かしは美容の大敵らしくって、夜はわりと早く休んでくれるから、助かるよ」
「でも、そのぶん朝が早いんだよね」

 白いカエルがぼやくと「年とるとそうなるって聞いたぞ」と白いサル。
 とたんにクククと押し殺した笑いをあげた大鏡。
 つられてみんなもクスクス笑いました。
 角砂糖をちびちびかじりながら、一日のうさをはらす魔法生物たち。
 これは白銀の魔女王の城の、とある日のできごとです。


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