水色オオカミのルク

月芝

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77 裏方の水色オオカミ

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 ひと仕事を終えて、やれやれと草原の東にいるデュカ族のところへ戻るために、走っていた水色オオカミのルク。
 あとは本番の結果次第ですが、それはダイアスとノットに任せるしかありません。
 ダイアスの走りを見たわけではないので、なんとも言えませんが、ルクの見立てでは、けっしてノットにも勝ち目がないとは思えないのですけど。

「すまない。ちょっと、とまってくれ」

 首に巻きついていたココムさんに言われて、立ち止まるルク。
 そこにチョロロと近づいてきたのは、ルクの足の裏におさまりそうなほどの、小さな小さなトカゲさん。

「ココムのあにき。ちょっとお耳に入れたいことがあって」

 トカゲさんのもたらした情報は、風の草原の周辺部をうろついている人間のこと。小弓を片手に、動きやすそうな革の鎧姿。
 察するに、どうやら斥候らしいとのことを告げて、トカゲさんは去りました。

「せっこう?」とルク。
「先行してワナの有無や地形の様子を調べたり、目的の場所やモノのあたりをつける役目のことさ」
「ふーん、でもそんな人がいるってことは……、狙いはやっぱりウマたちかな」
「おそらくは。単独なんてありえない。うしろには集団がひかえていると考えるのが妥当かと。それにしても、コイツはちょいと間のわるい」
「?」
「もしも風の儀の最中を狙われたら、いろいろと面倒なことになるかもしれないということさ」

 ふだんは用心深く、周囲への警戒をおこたることのないウマたち。
 ですが風の儀、それも二大部族の代表同士が激突するモノともなれば、心は浮足立ち、意識はついついそちらに向かいがち。なにせ草原中が大注目の世紀の一戦ですから。
 勝負に夢中になるあまり、このときばかりはウマたちも背後がおろそか、無防備に。
 それゆえに危険だとココムさん。

「だからって、これだけ盛りあがっている以上は、いまさら風の儀を延期やナシにするなんてムリ。……となれば、やっぱり人間どもをどうにかするしかないんだが、ああ、よわった、よわった。なにせ自分はこんな小さな体だし、あいにくと毒もない。ああ、どうしよう。ほんとうによわったなー」

 などと言いながら、じーっとルクを見つめてくるココムさん。
 なんとなくイヤな予感がしたルクが、さりげなく顔をそらすと、スルスルと動いたココムさんが、再び「よわった、よわった」とつぶやきながら、じーっと見つめてくる。
 右を向いても、左に逃げても、ヘビの追跡はとまらない。
 小さな点のような円らな瞳が、ひさすらに、ぬめーっと。
 ついに観念したルク。ひとつタメ息をこぼしてから、「もう、わかったよー。ボクががんばればいいんでしょう」
 根負けした水色オオカミの子ども。
 小さな茶色いヘビが、してやったりと、にへらと笑みを浮かべました。



 フェルナ族が風の儀を受けることを伝えるため、使者としてデュカ族のところまで足を運んだのは老馬のセルジオさん。
 彼は今回の見届け役で主賓(しゅひん)となる水色オオカミのルクにも、きちんとあいさつをしにきました。その際に、こっそりとノットさんを後押ししたことについてお礼をいわれましが、「なんのことかなー」と、ルクは知らぬ存ぜぬを通します。
 見届け役という立場上、片方に肩入れするのはよくない。だからそうした方がいいと、事前にココムさんから言われていたからです。
 ですが目は泳ぎ、台詞は棒読み。あまりにひどい大根芝居につき、バレバレ。
 セルジオさんは笑いをこらえるのがたいへんだったようです。

 こうして正式に風の儀が開催されることとなり、その日は三日後となりました。
 ダイアスとノットが走るのは草原の南西に位置するところ。
 とくに名称とかはありませんが、ここには野原と荒地、ぬかるみなど、いろんな地形が混在しており、たんなる速さ自慢だけでは、駆け続けるのがムズかしい土地柄。足の強さに加えて、気力や体力、的確な判断力に忍耐力なども求められる、風の草原屈指の難所なのです。
 部族の代表同士を競わせるにふさわしいと、双方の合意のもとで決まりました。

 すべての取り決めがなされ、あとは当日を待つばかり。
 興奮を隠しきれないウマたち。お祭りのような雰囲気の中、双方ともに準備や調整に余念がないのを尻目に、こそこそと動き回っていたのは水色オオカミの子ども。
 デュカ族とフェルナ族の勝負の行方を、のんびりと見守るだけの役のはずが、一転して裏方まで引き受けるハメになったルク。なんとか無事に開催にこぎつけるために、大忙しです。
 ココムさんの仲間たちからもたらされる情報をもとに、草原の外周部をせわしく行ったり来たり。

 バレないようにしげみに伏せつつ、様子をうかがっていると、ココムさんの読み通りに、じょじょに装備を整えた人間の姿が増えていく。
 いよいよ風の儀が明日へと迫った夜には、ついに大きな馬車が五台も連なって草原へと姿を見せました。数も総勢五十人を超す大所帯。
 馬車の中をのぞいてきたトカゲさんの報告では、動きやすそうな軽装の男たちの他に、丈夫そうなロープや投網に鉄のクサリ、あと棒の先に輪っかのついた道具がたくさん積んであったそうです。

「輪っかのついた棒か……。いよいよ、これで連中の狙いが確定したな」とココムさん。

 へんてこな道具の話を聞いても、いまいちピンとこないルク。
 なんでもウマの首に、ひょいと輪っかのところを引っかけて、捕まえてしまう道具なんだとか。足が速く、チカラも強いウマたち。でも首根っこをおさえられると、あんがい弱くて、おとなしくなってしまうそうです。

「それで、どうしようか? いまさらだけど、ボクって、あんまり攻撃は得意じゃないんだ。でも氷をつかってじゃましたり、つかまえたり、霧で身を隠したりするのはうまいって、ラナが言ってた」

 心根がやさしすぎるので、ルクは自分から他者を直接傷つけるようなチカラの使い方ができません。そのかわりに守ることに関しては師匠である翡翠(ひすい)のオオカミのラナも太鼓判をおしてくれました。
 この話を聞いたココムさん。そのことも計算に入れて、しばし考えてから「だったら、こんな作戦はどうだろうか……」と何やら、ルクの耳にごにょごにょ。


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