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79 風の儀、その裏で
しおりを挟む首にヘビのココムさんを巻いた水色オオカミが、姿をあらわしたのは、荒地の先にある湿地。ここは足下がぬかるんでいるので、どうしてもウマの動きが一段とにぶくなる場所。
それはつまり、つかまえようと狙っている人間からすると、格好の狩場ということを意味しています。
ココムさんの仲間たちの情報によって、ここに風の草原に入り込んでいる人間たちの一部が潜んでいることは、すでにわかっていました。
風の儀のコースと重なったのは、たまたまなのでしょうけれども、せっかくの一騎討ちをじゃまされるのもしゃくなので、とりあえずコース付近にいる連中から片づけることにしたルクたち。
連中が野営をしている周辺を、まるっと高く分厚い氷の壁でかこんで、反省するまで放置とかいう方法も考えたのですけれども、それだと少々なまぬるい。こりない面々が、またぞろちょっかいをかけてくる。だからココムさんはある提案をしました。
「せっかくだし、二度と風の草原のウマには手を出したくないと思うぐらいに、おおいにビビらせてやろう」と。
基本的に各個撃破。集団だと無闇に勇を発揮し、調子にのって強気になるのが人間ですから。
数を頼みになんてさせません。各々が奇怪な目にあって、おそれおののいてから、お引き取りいただこうとの考え。
いろいろと、やりようを説明しているときのココムさん。
それはそれは底意地のわるい顔をしていましたとも。
湿地に生えている草の中でも、比較的背の高い草のしげみの中にて、投網を手にウマが姿をあらわすのを待っている男。
他にも棒の先に輪っかのついた道具や、ロープなどを手にした男たちが六人からなる小集団。少しずつ離れて待機しています。
ずっと同じ姿勢でいるのはつかれるので、ちょっと体を動かそうとした男。
ですが足がまるで動きません。
うっかり泥にでもめり込ましてしまったのかと思い、自分の足下をみて「ひっ」と小さな悲鳴をあげました。
なんと! 自分の足下がカチンと凍って、固まってしまっているではありませんか。
これでは動けなくて当たり前。
騒ぎを聞きつけて、他の五人が駆けつけようとして、そっちも悲鳴をあげました。なにせまったく同じ目にあっていたのですから。
「なっ、なんだこれは!」「氷なのか? そのわりに冷たくない」「くそ、ぜんぜん割れねえ」「どうなってやがる」「誰か、なんとかしてくれ」
あわてふためく一団。ですがすぐに静かになりました。
レンガのような四角い氷の塊が、上から降ってきて、頭にゴッチン。
おそろいのタンコブをこさえて、コテンと全員仲良く気を失ってしまいました。
「これで、よしっと。でもこの人たち、どうするの?」
たずねたのは、物陰からのっそりと姿をあらわしたルク。
すべては水色オオカミのチカラによるもの。翡翠(ひすい)のオオカミのラナの指導の下で、修行に明け暮れたおかげで、いまでは狙ったところに、思い通りに、すぐさま氷を出現させることができるようになっていたのです。
だからいきなり相手の手足を拘束するなんて、お手のもの。
「おつかれ。とりあえず身ぐるみはいで、適当にほっ放りだしておく。あとはトリどもがつつきまわしたり、ムシどもがブスブス刺して、目を覚まさせる手はずになっているから。ククク、連中、起きたらビックリするだろうな。なにせ草原で真っ裸なんだから」
そう答えた小さい茶色いヘビのココムさん。まるでイタズラ小僧みたいな表情にて、チロチロ赤い舌をゆらして、なんだかとっても楽しそう。
「でも、そんなことでおしおきになるの?」
「なるなる。なにせ人間ってのは服がないと、何にもできない生き物だからね」
「へー。そういえばボクが知ってる人たちも、みんな服を着ていたっけ」
「毛皮のかわりだか何だか知らないが、そのせいでかえって不自由をしていたら、世話ないと思うのだがね」
「ほんとうだねー」
ズルズルと人間たちを引きずっていき、風の儀のじゃまにならないところで、処置を終えて、次の現場へと向かうルクとココムさん。
こんどはこの先にある大池です。水飲み場も絶好の狩場なので、人間たちが十人ばかりたむろしているとのことらしいので。
シュタタと駆けながら、ルクがちょっとブツクサ。
「たおすのより、服を脱がすのがめんどうだよ。革のよろいとか、なんだかややこしいし」
「まぁまぁ、でも、おかげでコツがわかったじゃないか。つぎからさっきの新技でサクサクいこう」
「うん。でもアレって、他に使い道がなさそうなんだよねー。それに師匠にバレたら、ぜったいに怒られる気がする……」
「めっぽうウデの立つ姉さんでしたっけ? それはたしかに怒られますね。というか、たいていの女性は、きっといい顔をしないと思うよ」
オオカミの手足では人間の服は上手にぬがせられません。ボタンとか金具のベルトとか、ヒモの結び目とか、とってもたいへん。
かといって乱暴に牙や爪で切り裂くのも、ちょっと気がひける。
そこで水で濡らしてから凍らして、パキンと砕く方法を思いついたのですが、やってる当人が、なんとなく「ひょっとして、これって、ダメじゃないかな?」と思った次第。
「ボク、風の儀が終わったら、このワザはなかったことにしようと思う」
「……うーん、ちょっと惜しい気もするけど、そうですねぇ」
そんなことを話しているうちに、じきに大池が見えてきました。
ここを片づけても、まだ草原に入り込んだ人間たちは半分以上も残っています。
おふさげはやめて、すぐさま気合を入れなおしたルクとココムなのでした。
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