水色オオカミのルク

月芝

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97 人々の営み

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 ギリクさんに弓をみてもらっている間、リリアの案内にて街を散策していたルクとフレイア。
 時間ごとに水を吹き出す仕掛けがほどこされた噴水におどろき、大道芸人たちの技に感心し、悪党をこらしめる正義の味方が活躍する人形劇にハラハラして、露店商なんぞをひやかしながら二人と一頭で仲良くブラブラ。
 いいニオイに、わるいニオイ、ここにはいろんな知らないニオイが漂っています。人々の営みを前にして、鼻がとってもいそがしい水色オオカミの子ども。

 いまは亡き父親が街の英雄だったこともあり、そのひとり娘のリリアを見知っている者も多く、行く先々にて、「大会がんばれよ」「応援しているからね」などと声をかけられます。
 偉大な父親の看板を背負っている分、彼女の方がヌート少年よりもよほどプレッシャーを感じていそうなものなのですが、特にそんな様子もありません。
 フレイアさんがそこのところをたずねると、「弓を射るのが怖いのなんてあたりまえだろう? だってアレは武器なんだから。命をうばえる道具なんだ。それを手にしているときに、他のことなんて考えている余裕はないよ」とリリア。
 あまりにも自然にそう答えたものだから、かえって大人のフレイアさんのほうが目をぱちくり。
 どうやら彼女の中には、脈々とハスターさんの教えが息づいているようです。

 そんな話をしながら女たちが歩いていると、すぐ足下にいたはずのルクの姿がありません。
 どこへいったのかとおもえば、後方のとある建物のところで、足を止めているではありませんか。
 水色オオカミの子どもが立ち止まっていたのは教会の前。
 開け放たれた扉から建物の中をのぞけば、天窓より光が注いで明るく広い礼拝堂。その奥には、右手に剣を持ち、左手には弓を持った、おおきな女神の石像がまつられてあります。そしてその脇を固めるように、きちんとならんで座っている六頭のオオカミたち。

「ルクは神さまに興味があるのかい? あれは火の女神さまと、それに従う炎のオオカミたちだよ」

 通りからじーっと建物内を見つめていた水色オオカミに、リリアが教えてくれました。
 周囲に人がいないのを確認してから、「へー、あれが女神さまかー」とルク。

「正しくは女神の一人だね」とはフレイアさん。

 なんでも神さまは全部で六人ほどいるそうで、各地を旅してまわっている彼女によれば、あのように眷属をしたがえているのは、この地方の教会の女神像だけだそうです。

「ふーん、ところでここにも神官さんっているの?」
「あー、いるにはいるんだけど、その……」

 ルクの質問に言葉をにごしたリリア。
 じつはここの神官のおじさん、悪い人じゃないんだけど、昼間からお酒をのんだくれている人らしくって、あんまり頼りにならないとのこと。
 ごらんのとおり街の景気がいいもんで、とくに苦労をしなくても、お布施や参拝客が集まってくるもので、すっかり怠けているんだとか。
 だから神官というよりも、教会の管理人みたいなものと、街のみんなはわり切っているんだそうです。
 地元の信者から呆れられている神官のいる教会。
 荒地のグリフォンのところで知り合った、勇者パーティーの一員である神官のエリエールさんが「何かあったら教会を頼れ」と言っていましたが、この分ではあてにならないようです。とくに用事があったわけではありませんが、いざというときに知ってあわてるよりも、事前にわかったことでヨシとすることにルクはしました。

「なんなら、のぞいていく?」

 リリアが誘ってくれたのですが、それには首を横にふる水色オオカミ。
 じゃあ、そろそろギリクさんの仕事も終わっているだろうから、工房に戻ろうかということになったところで、一行の前に立ちふさがったのは、五人の少年たち。
 ヌートとその取り巻きたちです。

「ちょっと待て、リリア」
「なんだよ、ヌート。あたいはあんたとちがっていそがしいんだよ」
「なっ! オレさまだっていそがしいんだぞ。こうみえても店の手伝いとか、家のこととか、勉強とか、弓の練習とか、やることはちゃんとやってるんだからな」
「それはベスおばさんが怒るとこわいからだろう」
「うっ」

 いきなり図星をつかれて、あとずさるヌート。
 彼の実家は弓の街でも有数の商家。街だけでなく国内にて、いくつもの商店や商売をかかえており、それらを取り仕切るのはヌートの母親であるベスさん。父親もそこそこ出来る人なのですが、あまりにも奥さんの存在感が強すぎて、ちょっと影の薄い入りムコ。
 どうやらヌートは父親の方に気質が似ていると、もっぱらの評判です。
 そんなヌート少年、取り巻きたちの「がんばって」との後押しもあり、なんとか気を持ち直すと、人差し指をビシっとリリアに突きつけて言いました。

「リリア、次の大会でオレさまと勝負しろ。それで、もしもオレさまが勝ったら、けっ……」
「けっ?」
「けけけ……」
「けけ、け?」

 ナゾの奇声。
 ふしぎそうに軽く小首をかしげて、やや上目づかいにヌートの顔を、きょとんと見つめたリリア。
 とたんに真っ赤になったヌート少年。何をおもったのか、いきなりこんなことを言い出しました。

「け、け、家来にしてやる」
「はい?」
「いいか、約束したからな。じゃあ、大会で会おう、さらばだ」

 言いたいだけ言うと、返事も聞かずにさっさと逃げるように走っていったヌート。
 その背中を取り巻き連中があわてて追いかけていく。
 いきなり勝負を吹っかけられたと思ったら、家来になれとか……。
 わけがわからないリリアがルクに「どういうこと?」と顔を向けると、ルクも「さぁ」と首をかしげるばかり。
 くつくつ一人笑うはフレイアさん。
 とにもかくにも弓術大会にて勝負をすることになったリリアとヌート。
 はたして勝負の行方やいかに?


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