98 / 286
98 弓術大会 予選
しおりを挟む年々増える大会参加者。
それにともなって実施されるようになったのが予選会。
他の街での祭事でもおこなわれており、方法は様々ですが、これによって半数近くがふるいにかけられることになる。
弓術大会での予選では、運営側が用意した弓と矢を用いて、定められた距離に設置された木の的を射抜くだけ。
これによって道具の優劣ではなく、純粋に技量をはかるのが目的。
ただし使用できる矢は一本かぎり。
やり直しナシの一発勝負。
衆人や参加者らの視線にさらされる異様な雰囲気。ふだんとはまるでちがう空気と慣れない道具。ハズせば一年の努力がムダとなる緊張感。
たった一本の矢の行方によって、弓術の三部門すべての参加資格の有無を決する。
これらが想像以上に参加者の肩におもくのしかかり、指先がふるえて、その鏃(やじり)の狙いを惑わせる。
技量のみならず、胆力や精神の強さをも試される。
だからこそ、そんな大事な場面の第一射を、誰よりも先にあっさりと決めたリリアに、おもわず会場内がどよめきました。
通例では、気がせいた者が、あせって矢を射て失敗。それにより緊張がうすれて、他の参加者らの心に余裕が生まれるというのに。
それをまだ若い娘が、初っ端からスコンと見事に的をうち抜いたものだから、あとに残された者たちの方が、逆にあせることになってしまいました。
その結果、半分どころか、六割近い者たちが本来の実力を発揮できずに、脱落となることになりました。
本選の予定と、制射、走射、馬射、三つの部門の詳しい説明が運営側からされる会場に集っていたのは百二十名ほど。彼らが本選への出場を決めた人たちです。
その中には黒い縮れ毛頭のヌートの姿もありました。
この百二十人のうちでも、三部門すべてに参加するとなると、さらに数を減らして、五十六名になります。
なにせひと口に弓の職業といっても、微妙にちがいますから。
たとえば弓兵として仕官している兵士ならば、城壁の上や尖塔、あるいは陣地内にて、制止した状態で弓を打つ機会が多いために、むいているのは動かずに次々とくり出される的を狙う制射部門になります。
エモノを求めて森を駆けまわっている狩人ならば、やはり設定されたコース内を移動しつつ的を射る速さを競う走射部門との相性がいいです。
そして馬射部門のように、騎乗にて数々の障害物を越えての射撃ともなると、ウマの扱いに長けている傭兵とか騎士とか、あと商隊の護衛をしている者が圧倒的に有利。
だからこそ三つすべてを制する総合部門での優勝は、とってもムズかしい。
それを八連覇もしてしまったリリアのお父さんのハスターさん。彼がいかに常人離れした技量の持ち主であったのかということ。
いちおうはリリアも父にならって、すべての部門に参加を申し込んだものの、制射と走射の二つならばともかく、馬射でまで優勝を狙うほど、身の程知らずではありません。
だから試合で使うウマは、借りてすまそうと考えていたのですが……。
「えっ! 貸し出せるウマが一頭もいないの?」
「すまねえ、リリアちゃん。具合のいいのは全部、出払ってしまっているんだ」
「そうかぁ、じゃあ仕方ないよね。ムリさせたらウマたちがかわいそうだし。いいよ、他をあたってみるから」
「ほんとうに、すまねえ」
何度も頭をさげる馬屋のオヤジ。
気にしないでと笑顔を見せたリリアでしたが、店を出たとたんに困り顔になりました。
予選もすんで、詳しい説明も聞いて、あとは三日後から始まる本番を待つばかり。
だから帰りに馬屋に立ち寄ったところ、店主は貸せるウマがないと言う。
祭事だけでなく、商隊や個人で借りる人たちもいるので、こんなこともあるかと二軒目の馬屋に行ったのですが、そこでも断られ、ついには先ほどの三軒目でも。
で、手当たり次第に街中の馬屋を回ったのですが、まさかの全敗。
さすがにこれはおかしい……。
ここまでじっとガマンしていたフレイアが、最後のところでオヤジの胸ぐらをつかみ、「どういうことだ!」とスゴんだのですが、相手は半べそをかきながら「かんべんしてくれ」とくり返すばかり。
見かねたリリアが止めに入っていなければ、きっとおおごとになっていたことでしょう。それぐらいの剣幕でしたので。
街をあとにして、家へと戻るリリアとルク。街に宿をとっているフレイアも心配して、ついてきています。
「どうしよう。まいったなぁ……」とリリア。
ウマにのって弓を射る馬射部門は、大会の最後の方。
初日と二日目が制射部門。
一日休みをはさんで、四日目と五日目が走射部門。
そしてまた一日休みをはさんで、七日目と八日目が馬射部門となり、九日目に表彰式とパレードとの予定になっています。
競技の棄権はできるのですが、当然のごとく得点はなし。それだけでなく大会運営を妨げたとして、獲得得点から三割もの減点が課せられてしまいます。
総合部門は三つの競技の平均点にて順位が決まり、ひとつがゼロで減点分まで加わると、腕におぼえありの名人たちがひしめく中では、ほとんど最下位が決定といっても過言ではありません。
「くそっ! きっとあのガキが親のチカラで、裏から手を回したにちがいない」
憤るフレイアさん。ですがリリアはそれをきっぱりと否定しました。
「あいつはバカだけど、さすがにそんな卑怯なマネはしないよ。それにベスおばさんだって」
やり手の商人にして、大きな商会の会長を務め、街の運営にも関わっているベスさん。だからとて我が子かわいさに、こんなことは絶対にするような人物ではないんだとか。
そもそもリリアの死んだお母さんと彼女は親友同士。だから男手一つで何かと不自由しているだろうと、日頃からハスター父娘を気づかってくれていた。ハスターが死んだあともそれはかわらない。むしろいっそう手厚くなったぐらい。
「なんだかとってもいい人みたいだねぇ」
「ふむ、私の早とちりだったようだな。出来た御仁なのだな」
ルクとフレイアの言葉にコクンとうなづくリリア。
ともあれ犯人捜しは、いったん忘れて、問題はウマです。
そこで水色オオカミの子どもはシッポをふりふり言いました。
「街にいないんなら、よそから連れてくればいいんじゃないのかな」と。
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる