105 / 286
105 弓術大会八日目 女傭兵
しおりを挟むシトシトと霧雨が降りはじめたとおもったら、すぐにやみました。
あとにくっきりと姿をあらわしたのは、森の小道のあちこちに張られた鉄の糸。
背景にとけ込むほどの細さゆえに、かなり目をこらさないとわからないモノですが、雨にぬれたおかげで、木漏れ日を受けてキラキラ。ひと目でわかるように。
「こんな感じでよかったの?」
「ああ、上出来だよ。あとは私にまかせな」
フレイアに頼まれて、水色オオカミのチカラで地面がぬかるまない程度の、軽い雨を降らせたルク。
雨上がりの小道に大剣が舞う。
上下左右にたくましい腕がふられるたびに、ブツンブツンと音をたてて切れていく鉄の糸。
そうして道を切り開いていると、ふいに、そばのしげみから飛び出してきたのは、一本の矢。
あわてることなく、これを剣で弾いたフレイア。
次のしゅんかんには、しげみを真向から一刀両断。
ドカン! と草木が飛び散って、地面にはぐちゃぐちゃにこわれたワナが。
「ふむ。糸にふれると矢がでるしかけだね。すべてにしかけるんじゃなくて、まぎれ込ませてあるのがいやらしい。けど威力はたいしたことなかった。当たってもたかが知れてるし、こいつはおどしかな? どうやら何者かはリリアのじゃまは目論んでいるものの、傷つける気はあまりないようだ」
それを聞いて、ほっとした表情を見せるリリア。
ですがまだまだ油断はできないので、あまり気を緩めないようにとフレイアに言われて、すぐに背筋をシャンとのばしました。
フレイアが先頭でワナをつぶしながら道を進む。
途中から糸だけでなく、先にあった矢のワナの他に、浅めの落とし穴まで姿をあらわしました。これが地味にやっかい。
なにせうっかりビエラが足でも突っ込んだら、グキリと足首を痛めてしまいかねませんので。
たちのわるいイヤがらせのせいで、どうしても歩みが遅くなってしまいます。
いっそのことちがう道からとのリリアの提案は女傭兵が却下。「この手のワナって、迂回路や逃げ道にトドメをしかけるのが定番なんだよ」とのこと。
よゆうをもって出発したのですが、気がつけば、かなり時間がおしてきました。
あせるリリアとルク。ビエラはトロンとした目で生あくび。
でも、ようやく森の出口が見えてきました。森さえ抜ければひと目もグンと増えるので、さすがにわるさはできないでしょう。
が、そこでまたしても一行を制止したフレイア。
「よろこぶのはまだ早いよ。この手の展開のお約束でね。ゴール直前ってのが一番、気がゆるんで、あぶないんだ」
その言葉を聞くなり、ピクっと耳を動かしたのはウマのビエラ。水色オオカミのルクも鼻先をクンとする。そして二頭は前方をするどくにらみつけました。
出口付近のしげみの陰に、多数の気配を感じ取っていたのです。
そしてゾロゾロと姿をあらわしたのは、こん棒を手にした覆面姿の男たち。
「ほら? 言った通りだろ。リリアたちはそこを動くな。ルクは彼女たちをたのむ」
「わかったー。でもあっちはいいの」
「ああ、ここのところあまり体を動かしてなかったから、ちょうどいいや」
ブンブンと大剣をふって、不敵な笑みを浮かべるフレイアに、リリアが「あのう、人死にはさすがにちょっと。いちおう火の女神さまに捧げる祭事の最中なんで、縁起がわるいのは困るかなぁ、なんて」
「わかってるよ。じゃあ、ちゃっちゃと片づけてくるから」
憶することもなく一人、男たちのところに歩いて近づくフレイア。
手にした大剣をいきなり連中に向けてぶん投げた。
ぐるぐる回りながら飛んでくる凶器に、あわててよける男たち。
「いきなり、武器を投げ捨てるとか、いったい何を考えて……」
覆面男の一人のつぶやきはそこで終わりました。フレイアの拳を右頬にモロに受けて、一発で意識が飛んでしまったからです。
ぐにゃりと膝からくずれおちた仲間の姿。
それを見下ろす女の瞳が、らんらんと獰猛(どうもう)なかがやきを放っている。これを前にして、男たちの間に動揺が走りました。
「おい、話しがちがうじゃないか」「ちょっと小娘をおどすだけだって」「やたらと気前がいいと思ったら」「こんなヤバイ女がついてるなんて聞いてねぇぞ」
なにやらブツクサとモメだした覆面の男たちに、フレイアは言いました。
「そのへんについても、くわしく教えてもらおうか。もっとも、とりあえず全員、最低、一発はなぐるけど」
すっかりおよび腰になっていた男たちにおどりかかる女傭兵。
森に男たちの悲鳴が木霊する。
一方的な狩りの様子を見ながら、「フレイアさん、強いねー」とルク。無邪気にシッポをブンブンふって、まえに街でみかけた人形劇に登場した正義の味方のような、彼女の活躍をよろこんでいます。
「うん。強いのはわかっていたけど。素手で男たちを圧倒するって……」とリリア。ちょっと涙目になっています。弓姫とかいわれて、ひそかに浮かれていた自分がはずかしい。調子にのってごめんなさい。
「やっぱりおっかないっす。しかもぜんぜん本気じゃないっす。あんなののせられるのダイアスさんぐらいっす」とビエラ。風の草原屈指の名馬にふさわしいと言われた女傭兵。のせるのがアレじゃなくって、ほんとうによかったと、空を見上げた牝馬。あー、今日もいい天気、絶好の競技日和。
すぐに静かになって、フレイアさんがみんなのところに戻ってきました。
相手から分捕った布地で、拳についた赤いモノをふいているのは、見なかったことにします。
「全員、ぶっ飛ばして、肩の関節をハズしておいたから。あとは街の衛兵たちにまかせよう。それからリリア、あんた、ルシアーノって名前に覚えがあるかい? どこぞの商店主みたいなんだが」
男たちから聞き出した黒幕の名前を口にしたフレイア。ですがリリアはしばらく考えた後に、「ちょっとわかんない」と答えました。
なにせ弓の街はとってもにぎわっています。商店はたくさんあって、入れ替わりもはげしく、街の住人でも、そのすべてを把握している者はほとんどいないでしょう。
「あたいはわからないけど、ベスおばさんなら知ってるとおもう」
「ベスっていうと、あのヌート少年の母親か」
「ああ見えてもヌートは、いいところの子なんだよ。街どころか国でも屈指の商会の跡継ぎなんだ。そこの会長がベスおばさん。街の運営にも関わっているから、きっと」
「そうか、ではあとで訪ねてみるとしよう。と、それよりも急ごうか。つまらないことでずいぶんと時間をとられてしまった」
フレイアにうながされて先を急ぐ一行。
幸いなことに街の付近ではちょっかいをかけられることもなく、なんとかギリギリ、競技が始まる時間の前に会場へと到着できました。
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる