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125 石の姫
しおりを挟むネコの子ならぬドラゴンの子。
老婆にえりくびをつかまれプラプラと入室した姫君。
そんな小さなお客人の姿をみてフレイア、「おう、ウルルじゃないか。しばらく見ないうちにおおき……くなってねえ。あいかわず、ちんまいな。あんまりかわってねえ」
感動の再会とまではいかなくとも、約百年ぶりの帰郷。ひさしぶりだというのに、いきなりそんなことを言われて、ぷぅ、と頬をふくらましたピンクの髪の幼女。
「フレイア姉さまこそ、まるでかわってないのじゃ。その分だとまだイイ人はできてないのじゃ」
「うぐっ」
まさかの幼女の反撃。いきなりイタイところつかれて、おもわずノドをつまらせたフレイア。
フレイアとウルルは遠縁にあたるそうで、外界をふらふら出歩いている女傭兵は、これでもいちおう皇龍の一族の末端に位置しているお姫さま。だからこそ「おひいさま」とウィジャばあさんから呼ばれていたのです。
ウルルは直系筋、フレイアは傍流も傍流、一族を名乗るのもおこがましいと当人はおもっているのですが、たとえ一滴でも自分らの血が入っていれば、それはれっきとした親戚。家族や仲間想いのドラゴンたち。ゆえにわけへだてなく接します。
だからウルルもフレイアを「姉さま」と呼んで慕っているのですが、わざわざここまで幼い足を運んだのには、他にも理由がありました。
「それでフレイア姉さま。何かいい情報はありましたか?」
ウルルからそうたずねられたフレイアは、だまって首を横にふりました。
幼女はこれにとてもガッカリした表情を浮かべました。
フレイアは何もひまつぶしのためだけに、外をぶらついていたわけではありません。その旅の目的の一つに、ウルルの切実な願いが託されていたのです。
それは石となってしまった彼女の姉、第二姫ラフィールを元にもどす方法を見つけ出すというもの。
ラフィール姫はうすい桃色の花びらのようなウロコをした、それはそれは美しいドラゴンの姫。歩くとウロコ同士がかすかにこすれて、リーン、リーンと澄んだ鈴の音色のような音を奏でる。
心根もやさしいから、それはもう、モテまくったそうです。
そんな姫のハートを射止めたのは、さる青年ドラゴン。
ぼくとつとした性格ながら、楽器を巧みに演奏し、歌も上手。ドラゴンの中では、わりとおとなしめの彼。
きっかけはわかりませんが、気づけば二人は相思相愛の間柄。
で、次の旅から彼が戻ったら、式をあげて晴れて二人は夫婦になる予定でした。
ですが帰国の予定日を過ぎても、彼は帰ってきませんでした。
一日がすぎ、一年がすぎ、十年がすぎ、百年がすぎても。
待てども待てども、むなしく時間ばかりがすぎてゆく。
とても長生きする種族ゆえに、時間にたいする感覚がしょうしょうのんびりとしているとはいっても、さすがにこれはおかしい。
ドラゴンといえば地の国でも屈指の強さを誇る生物。それはたとえおとなしい青年であっても同じこと。なのにプツンと消息を絶ってしまったのです。
仮にも皇龍の姫君の婚約者なので、王の命によりドラゴンたちも懸命にその姿を探し求めましたが、ついに見つけることはかなわず。
おそらくは……、ということになりました。
あわれなのは、あとに残されたラフィール姫。
涙に始まり、涙に暮れる無為な日々をおくり、ただただ愛しい人のことを考えては、さめざめと泣いて過ごす。
だというのに、これにいろめき立つ者たちがおりました。
それはかつて求婚に名乗りをあげていたのに、想いがかなわなかった者たち。
もはやじゃまな恋敵はいなくなり、まさに千載一遇のチャンス。
同情や心配をよそおっては近づき、甘くやさしい言葉をささやいて、あわよくばと狙う。
そんな男たちの気持ちもわからなくはありませんが、これがラフィール姫にとってはなんらなぐさみになるわけもなく、そこに追い打ちをかけたのは女たちの口さがない言葉。
「きっと外で他に女ができて、そっちにのりかえたのよ」
「いつまでもメソメソとして。うっとうしいったらありゃしない」
「涙で男を釣るつもりなのかしら。ズルい女」
べつに本心からの言葉ではなかったのでしょう。男たちの歓心(かんしん)を買い、心をうばい続ける女に対する嫉妬、もしくはひがみ、あるいは泣き顔すらも美しい姫にたいするやっかみや、羨望(せんぼう)の裏返しなのかもしれません。
そんなある日のこと。
側に仕えている給仕の者が、いつものように彼女の部屋へと、朝のあいさつに訪れたら、そこには物言わぬ石の像と化していたラフィール姫の姿がありました。
それがいまから三百年ほど前のこと。
もちろんドラゴンたちは何も手をこまねいていたわけではありません。
竜のしずくをはじめとする、自分たちが知りうる、ありとあらゆる治療法を試みたのです。ですが、ついに回復することかなわず、現在も彼女は石のまま。
フレイアは親戚でもあり、仲のいい友人でもあったラフィールを助ける方法を求めて、ずっと外の世界を旅していたのです。
すぐれた魔法使いがいると聞けばそちらを訪ね、大きな図書館がある国へと足を運んでは資料を漁り、女神の奇跡のウワサを耳にすれば現地に行って確かめる。
傭兵として動いていたのは、その方が何かと都合がよかったから。この身分だとあちこちブラついていても、怪しまれずにすみますので。
フレイアの口から、これらの石の姫にまつわる話を教えてもらったルク。
ウィジャばあさんも沈痛そうな面持ち。ウルルなんて話の途中あたりから半べそをかいて、ぐすんと鼻を鳴らしておりました。
ついにはその頬をポロポロと涙がこぼれはじめたので、水色オオカミの子どもは、これをペロペロとやさしく舐めてあげました。
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