140 / 286
140 笑う白銀の魔女王
しおりを挟む世界中の空を姿を消したりあらわれたりしながら、気まぐれな航路を浮遊している島。
そこにそびえるのは白銀の魔女王レクトラムの居城。
城内の執務室にて手早く書類仕事を片付けていたのは、右目に眼帯をはめているコークス。魔女王の一番の側近の男性。
仕事がひと段落つき、手元の書類から顔をあげた彼が、そばの壁にかかっている鏡に話しかけました。
この鏡は魔女王が造り出した魔法生物。本体は彼女の自室にある大鏡で、城中にあるありとあらゆる鏡を通しての連絡網や警備網の構築を任されています。
「ガロンの具合はどうだ」
「外の傷はおおむね。ただこれまでに蓄積されたモノまでは」
鏡からの報告を受けて、「そうか」とだけもらしたコークス。引き続き治療に専念させるようにとだけ告げると、通信を切りました。
火の国にて、心身ともに弱った水色オオカミの子ども。
彼の身柄を手に入れる好機ととらえた魔女王レクトラムの命によって、竜の谷へと侵入をし、魔道具「暗路鏡(あんろきょう)」をしかける任務に従事していた黒いまだらオオカミのガロン。
ですが竜の谷には特殊な結界が張られており、いかに影を使ってあちこちを自由に行き来できるチカラを持つガロンであっても、侵入は容易ではありません。
それをおしての潜入、カラダへの負担は相当なものでした。
激しく消耗している状態にて、なんとか暗路鏡を設置することに成功するも、そこで侵入が発覚。手痛い一撃を喰らって、ボロボロの状態にて命からがら逃げ帰っていたのです。
水色オオカミの子どもの気配を追ってたどりついた場所が、竜の谷の玄関口に相当する神殿であったこと、そしてそんな重要な施設をまかされるほどのドラゴンがいたことが、ガロンにとっては不運でした。
ドラゴンの中でも指折りの古強者(ふるつわもの)との遭遇。完全に気配を消して、影に潜んで様子をうかがっていたところを、よもや強襲されるとは。それをギリギリで回避できただけでも、たいしたもの。
そこまでして任務をはたそうとしたガロンに対して、彼の主人である魔女王レクトラムがかけた言葉は何もありませんでした。ただ冷たい視線をちらりと向けただけ。
彼女にとっては目の前のボロボロで汚らしい色味のオオカミなんぞよりも、冬の晴れた空のような青い毛をした水色オオカミの子どものほうが、よっぽど重要であったのです。
あわれなガロンは、報告を終えるとそのまま気を失い、いまもふせっています。
黒まだらオオカミのガロンが命がけで臨んだ任務は、結局失敗に終わってしまいました。
これを知って、城内にいた者たちはみんなオロオロとうろたえます。
あれほど欲していた水色オオカミの子どもを手に入れそこなったのですから、さぞや機嫌がわるくなっているにちがいないと。
ですがみんなの予想に反して、レクトラムは「ふふふふ」と愉快そうな声をこぼし、非常にめずらしいことに、顔には笑みさえ浮かべています。
彼女の様子に小首をかしげたのは、そばに仕えているコークス。
ふしぎがっている彼にレクトラムは言いました。
「暗路鏡を通じて、少しだけあの子を見ることができた。あれはよい。わらわはたいそう気に入った。毛の美しさもさることながら、チカラも強い。まだ育ちきっておらぬがゆえの、未成熟なカラダがもつしなやかさもよい。にごりのない夕陽のような瞳もそれは見事よ。一日中ながめていても、きっと飽きることはあるまい。あぁ、アレが手に入るのならば、この城にあるすべての宝物と交換しても惜しくはない」
どこか恍惚とした表情にて、ますます水色オオカミの子どもへの執着をつのらせるレクトラム。
だれよりも美しく、だれよりも残酷で、だれよりもわがままな白銀の魔女王。
そんな彼女にそこまで言わせる水色オオカミの子どもに、深い同情とあわれみ、それからわずかな嫉妬をおぼえるコークス。
けれどもそんな心の内は微塵も表に出しません。
「では、引き続き行方を追い、監視を続けつつ、捕獲計画の準備を進めたいとおもいます」
「よかろう。ほんとうならばすぐにでも出向いて手に入れたいところだが、さすがにそばにドラゴンどもがちょろちょろしていてはな。まぁ、たまには待つのもよかろう。せいぜい実が熟するのを楽しみにしておこうか」
「おまかせください。最高の状態でレクトラムさまにお届けするようにいたします」
「ふふふ、期待しておるぞ。コークスよ」
「ははっ」
主人に向かって深々と礼をする眼帯姿の男。
その時、床にうつる自分のうすい影が左の視界に入る。
ふと、脳裏をよぎったのはガロンのこと。
お気に入りを手に入れたら、魔女王さまは彼をもう用済みと言った。ひょっとしたら、いずれは自分も同じ目にあうのでは……。いや、それでも自分がとるべき道は決まっていると一抹の不安をふり払うコークス。
すべては偉大なる白銀の魔女王レクトラムさまのため。
そのために生き、そのために死す。彼女に救われた、あのときから、絶対の忠誠を捧げると決めたのだから。
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる