水色オオカミのルク

月芝

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143 帰郷

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 しゃれこうべのフランクさんと、ルクがおしゃべりをしていると、ふいに顔をあげてキョロキョロとしだした水色オオカミの子ども。

「どうかしたのかい?」
「うん、なんだろう……。急に水の気配が強まったんだ」

 そう言って、鼻先を動かしてはクンクンとあたりのニオイをかぐほどに、その気配がドンドンと濃くなっていき、ルクはおもわず眉間にしわをよせました。
 全身をザワザワと乱暴な手つきにて逆なでさられているような不快な感覚。
 これはあまりよい前兆ではないことを、旅の経験上から学んでいたルクは、フランクさんに言いました。

「なにかが起きようとしている……。このままここにいちゃダメだ。すぐに離れないと」
「そうなのかい? けっこう長いこと、この谷底にいるけれども、これまで何も起こらなかったんだけどねぇ」

 危機感をつのらせるルクとは対照的に、のほほんとしているフランクさん。なにせしゃれこうべにつき、いまさらあわてたところでしようがありませんから。

「そんなわけだから、いくよ、フランクさん」
「えっ! いくよって、ちょ、ちょっとー」

 いきなりカプっと、ドクロをくわえた水色オオカミ。
 そのままいそいでこの場を離れようとしましたが、そこでアレレ? となって立ち止まってしまいました。
 だって、しゃれこうべの下から宝石のついた銀の髪飾りが姿をあらわしたのですもの。
 しかもしかもです。「いきなり、なにをするんだよ。びっくりするじゃないか」との声を発したのは、くわえているドクロではなくって、そっちの髪飾りのほうなんですから。
 これにはルクのほうがびっくりです。
 どうやらこちらが本体で、しゃれこうべはたまたま上にかぶさっていただけみたい。
 これには当のフランクさんも「ええーっ、そうだったのー!」とおどろいています。
 そこでルクはようやく自分の能力について思い出しました。
 竜のしずくなるドラゴンの秘薬にて得た新たなチカラ。何らかのひょうしにて物に宿った意志と通じることができるというもの。それが発動していたのは、この髪飾りであったようです。
 と、あまりのんびりと考えこんでいるひまはなさそう。
 だって水の気配はさらに濃くなっており、肉球ごしにずんずんと、かすかながらも、なんとも不穏な震動が感じられましたから。
 ペイっとしゃれこうべを放りすてると、銀の髪飾りのほうをくわえて、走り出した水色オオカミ。
 すぐさまチカラにて宙に氷の足場を造り、タンタンタンと谷を駆けあがっていく。

 崖を中ほどまでのぼったところでしょうか。
 ドドドというものスゴイ音とともに、谷全体がゆれたとおもったら、上流からいっきにおしよせてきたのは大量の土砂まじりの水。
 倒木やら岩などをごろんごろんと転がすほどの勢い。茶色の濁流があっという間に、谷底を埋め尽くしてしまいました。
 どうやらルクが察知していたのは、この鉄砲水の予兆だったようです。
 足下のそんな様子を見て、「ひえー」と声をあげたのはフランクさん。
 なお彼のしゃれこうべは、水にのまれてすぐに見えなくなってしまいました。あのぶんではとても無事ではすまないことでしょう。

「まさか自分のホネを流されるところを見るはめになろうとは……」

 かなり珍しい経験をしたフランクさん。髪飾りに宿っている意志につき、その表情はわかりかねますが、声音の調子からしてそこそこ複雑な心境みたい。
 とりあえずルクは「げんきだしてね」と、もごもご言いました。
 なにせ髪飾りをくわえている状態につき、あまり大きく口をあけてはっきりしゃべることができません。うっかり濁流の中にポロリとしてしまうとたいへんですので。



 こうして危機を脱したしゃべるドクロあらため、しゃべる髪飾りのフランクさんと水色オオカミのルク。
 そこで次に浮上した問題は、フランクさんの身のふり方。
 なにせ髪飾りにつき自分では動けません。そして彼の声を聞けるのはルクのみ。
 ならばいっしょに連れて行くかというと、それもちょっと。
 ただでさえ目立つ青い色のオオカミが、高そうな銀の髪飾りまでつけてウロウロしていたら、悪目立ちにもほどがあります。
 するとフランクさんは言いました。

「だったら自分をこの吊り橋の向こうにある、生まれ故郷の村に連れて行ってはくれないだろうか。残してきたジルや両親たちがどうしているのか、ずっと気になっていたんだよ。それでもしも無事ならば、彼らに渡してくれたらありがたい。だれもいないようならば適当に道具屋にでも売り払ってくれてかまわないから」

 フランクさんの故郷は、吊り橋を渡り、森を抜けて、小高い山をひとつ越えた先の山間部にあるサイズ村。
 何代もの長い年月をかけてコツコツと開拓を続けたおかげで、裕福でこそありませんが食べるのには困らない、のんびりして牧歌的なところだという話です。
 それぐらいならばお安いごようだと、快く引き受けたルクは、さっそく彼をくわえなおすと、そのまま走りだしました。


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