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172 決戦前夜
しおりを挟む滅びの紅砂という未曾有の危機を前にして、議会が非常事態宣言を発動。
これによりパイロルーサイトの主都を囲む城壁にある四つの大門が封鎖されて、人や物、おカネの流れがきびしく制限されたのが三日前。
そこからは近隣より続々と応援が駆けつけて物々しい雰囲気に。
しかしこんな状態にもかかわらず都の中は、いつにもまして活気づいておりました。
たとえ戦時下であったとしても、商魂たくましい商人らにあきれつつ、紫眼のミラが向かっていたのは都の中央にある役所。
報酬の宝石目当てに、彼女は白銀の魔女王の配下である大蛇という正体を隠し、腕利きの魔法使いとして雇われた身の上につき、これから作戦会議に参加することになっていたのです。
会議室に集っていたのは、各国より派遣されてきた軍隊の指揮官たちや、都のお歴々。それから雇われた傭兵の主だった者に、魔法使いたち。
兵力が総勢でどれくらいになるのかはわかりませんが、魔法使いに関しては、数はそこそこ揃っているものの、どうひいき目に見ても、精々が二流といったところにミラの目には映りました。これはなんともココロもとない。
今回は防衛戦となるので、いかに都を無事に守り抜くのかがカギとなります。
そこで議会が用意したのが、秘蔵の大型魔道具。
台座の支柱におおきな丸い珠がのったモノで、これと同じ品が城壁の六ケ所に配置されており、一斉に魔力を通すことですっぽりと都をおおう広域結界がはれるんだとか。
これにより都を守りつつ、敵を掃討するというのがおおまかな作戦の流れ。
結界はなかなかの強度らしく、大砲の一撃をも防ぐ。
ただしつねに魔力をそそぎ続ける必要があり、ちょっとでも足りなくなると、とたんに結界が穴あきだらけになって、みるみる強度も落ちてしまうとのこと。
どうやら魔法使いを集めていた理由は、魔法よりもむしろ魔力目当てであったみたい。
とはいえ魔力を安定しながら放出し続けることはたいへんです。
だからここぞという時に使用することとし、それまでは魔法使いたちは待機して魔力を温存することになりました。
もっともミラ以外は、ですけれども。
彼女のカミナリ魔法は集まった連中の中でもズバ抜けており、その攻撃力を守りにだけ割くのはもったいないと首脳陣が判断したからです。
かよわい女の身で前線に立てとか言われて、ちょっとムクれるミラ。
そりゃあ自分が強いのはわかっているけれども、そこはそれ。乙女心がちょっぴり複雑にて、どうしても眉間にしわが浮かんでしまう。
憂いをひめた赤髪の美女。横顔のなんとも悩ましいこと。ダマっているぶんには彼女はとってもキレイ。古来よりヘビの化身とは美形と相場が決まっているのです。
それにまんまと惑わされたのは、どこかの国から派遣されてきた少し太めの軍人さん。
「ご心配めされるな。ミラ殿にはこの私が指一本ふれさせんよ。我らが持ち込んだコレがあれば、いかなる敵であろうともこっぱみじんよ」
まるで自らのチカラを誇示するかのように彼が披露したのは、大人の男性の腰回りほどの太さもある筒。長さはちょうど両腕を広げたぐらいか。
とある皇国にて新開発されたという小型の大砲。従来の重たい鉄の塊とはちがい、個人で持ち運んでは使用できるという代物。使用される玉をかえることで、さまざまな効果も得られるんだとか。
けっこうな数を持ち込んでいるらしく、ガハハと豪快に笑い、「これさえあれば魔法使いどもの出番はないやもしれぬな」とのなんとも頼もしいお言葉。
これにはミラも、「頼りにしてますわ。将軍」とにっこりと微笑んでおきました。
「もしよろしければ、このあとお茶でも」という彼からの誘いは、やんわりと断りつつ、「いずれまた、戦いが終わってから」と期待を持たせるような返事をしておく魅惑の美女。
作戦の流れを確認し、各自の持ち場も決まったところで会議は終了。
ミラは自分の持ち場となる正門前の城壁へと向かいました。
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