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183 剣の道
しおりを挟む強制同調によるあやつり人形状態にて、サクサク一階層目を踏破した一行。
続けて二層目に挑戦中。
ここにきて剣聖とルクがはじめて会話をしたとき、彼女がライムさんを見て、「あれじゃあ二階層あたりですぐに死ぬ」といった意味がわかりました。
「うわーっ!」
「ひぃぃぃー!」
「ぎゃあー!」
これは全部、ライムさんの絶叫です。
ただいま彼は二階層目の試練に挑戦中。
なお肉体の操作は引き続き剣聖さん。
そんな彼の周囲をさっきからビュンビュンと飛びまわっているのは、はげしく回転しては、ものスゴイはやさで迫って来る円盤の形をした凶器。
外縁部がノコギリみたいなギザギザにて、丸太もザクザク切り刻みそう。
あちらこちらから飛んでくるこれらを、かわしたり、はじいたりしながら、奥を目指す。
ただし真っ暗な中にて。
二階層目には光源がまるでありません。ここはそういう造りなんだとか。
暗闇の中にて音やら風の流れを読み、飛来するモノを見切る。
的確に敵の攻撃を見切り、最小限のうごきでかわし、ついでに目に頼らない戦い方をも身につけられて、なおかつ恐怖に耐えるココロまで鍛えられるという話ですけど。
いきなり難易度がはねあがったように、水色オオカミにはおもわれました。
「うん、これじゃあ、たいていのヒトはここで逃げ出すよね。むしろふつうに突破したヒトたちって、すごくない?」とは、ルクの率直な感想。
そんな彼の茜色の瞳には、闇の中で立ち回っているライムさんの姿が映っています。竜の谷でチカラを得てから、暗い所でもかなりへっちゃらになったみたいで、よく見える。
カラダをあやつっている剣聖さんは、どうやらわざと紙一重にてかわし続けているらしく、そのたびにライムさんの悲鳴が二階層中にひびきわたっておりました。
がんばれ、ライムさん。
次の階に降りるころには、かなりヘロヘロになっていたライムさん。
腰をくの字に曲げて、らせん階段の下りがキツイと、おじいちゃんみたいなことを言っていました。
ですが、そんな状態の弟子の姿に「いいかんじに、カラダがほぐれてきた」と剣聖さんはまんぞくそう。
三階層目はこれまでとは一転して、何もない広い部屋。
室内は明るく、危険なワナや仕掛けも見当たりません。
そんな部屋の中央には一枚の分厚い石板がででんとふんぞりかえっている。
表面には九つの穴が、等間隔にて三、三、三と並んであいている。
「これは?」
ライムさんがたずねると剣聖さんが答えてくれました。
「これは突きを練習するための穴だ。左上のはしから右回りに渦を描くように順に突いてゆき、最後に中央をひと突き。これで一回。あとはこの作業をたった一万回こなすだけで次への扉が開かれる。どうだ、かんたんだろう? まぁ、ここは休憩所みたなものだな。じゃあ、がんばれよ」
ふいに解かれた強制同調。
ガクッとカラダからチカラが抜けて、おもわずヒザがくずれそうなったライムさん。「へっ?」と気の抜けた声をあげる直弟子に、きびしい師匠は告げました。
「こんなの私が出るまでもない。ひたすら構えや正しい動作を気にしつつ、同じことをくり返すだけなんだから。こういう地味な反復練習こそが、いざというときにお前を助けてくれるんだ。ほら、とっとと始めないと貴重な時間がどんどんなくなっていくぞ」
剣聖の言葉に、ハッとしたライムさん。
つかれたカラダにムチをうち、すぐに訓練にとりかかります。
ボロ剣をかまえて、踏み込み、穴に切っ先を突き入れる。
たったそれだけのこと。
でも、そのたったそれだけのことが、とってもムズかしい。
ちょっとでも集中が途切れたり、気を抜けば、切っ先がそれてカツンとはじかれる。
調子や呼吸が乱れても失敗する。
攻撃が外れる。それすなわち実戦だったら、死へと直結しかねないこと。
訓練だからと、わずかにでも横着しようものならば、すぐさま剣聖さんに怒鳴られる。
これまでのつかれもあり、やがて意識がもうろうとしてきたのか、ふらりふらりとそよ風にゆれる枝葉みたいになっていくライムさん。
そろそろほんとうに限界が近いみたい。いまにも倒れてしまいそう。
心配のあまり駆けよりそうになったルクを、剣聖が目で「じゃまをするな」と制する。
何回目かはわかりませんが、じきに突きの音がかわりました。
つかれきったカラダからは、ムダなりきみがごっそりと抜け落ち、踏み込みも軽く、意気込んで上体が前へとつんのめることもなく。のけぞるように下がる仕草もなくなった。
どんどん動きが削られてゆき、必要最小限の動きだけになっていく。
呼吸も浅く、全体の調子もやがて一定になり安定してきた。
極めて機械的に、淡々とくり返される突き。
カッ、カッ、カッ、と穴をうがつ音だけが鳴りひびく。
半日ほどもかけ自力にて一万回目を達成した直後に、どさりと倒れたライムさん。
そのままグースカと眠ってしまいました。
「ふむ。まずは及第点といったところか。だが才能の欠片もない凡人として考えれば、たいしたものよ。それだけ例の姫への想いが強いということか……。まぁ、なんにしても鍛えがいがありそうだな」
弟子のがんばりに、ちょっとうれしそうな剣聖さんなのでした。
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