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184 はるかなる高み
しおりを挟む四階層目は、高い天井より轟音とともにふりおろされる巨大な刃を、刀身にて受け流すという試練。失敗すれば真っ二つです。
五階層目は、白いモヤに満たされた中にて、五十もの幻影相手に連戦して勝利するという試練。失敗すれば幻なのになぜだか真っ二つになるそうです。魔法でしょうか?
六階層目は、泉の中からあらわれた自分の分身との一騎打ちの試練。負けたらもちろん、そこいらに転がっている白骨たちの仲間入り。
四と五は強制同調にて剣聖主導にて進み、六はライムさんが一人きりにて立ち向かい、なんとかコレを撃破。さっそく修行の成果がでているらしく、自分でも信じられないほどカラダが動いて、よく反応してくれるんだとか。
なおここまで彼が過酷な修行を続けていられるのには、水色オオカミの存在もおおきかったのです。
なにせルクが造り出す水を飲めば、つかれがとれてスッキリ爽快、元気がモリモリ復活するのですから。
どうやらルクの中にある「ライムさんがんばれ」という応援の気持ちが、水色オオカミのチカラにも反映されているみたい。
順調に攻略されていく逆さの塔。
続く七階層目は、一対多数の大乱戦。
白いモヤは五階層と同じなのですけれども、あらわれた幻影の数が倍の百。しかも前とはちがって順番に立ち会うわけではありません。全員が一斉におそいかかってくるのですから、とってもたいへん。試練に失敗すれば袋だたきです。
ここでは剣聖さんは指導役に徹して、うしろから助言を与えるのみ。
「これまでの修練で身につけたものがあれば、これしきどうということはない」
師の言葉を信じて、ひるむことなく敵勢の中へと雄々しく斬り込んでいくライムさん。
次々と幻影を斬りふせてゆく。
かつてのへっぽこぶりはすでになくて、もう立派な剣の男です。
それにしたっていくらなんでも異様な成長速度。
たしかに剣の丘の試練を成しとげれば、短期間で強くなれると言われていましたけれども、これはあきらかにおかしい。
ほんとうにだいじょうぶなのかと心配したルク。
そのことに言及すると、剣聖さんはこともなげに「ああ、それはこの場所のせいだろう。ここって少し空気が薄いだけじゃなくて、カラダも重くなるんだよ。それも下の階層に降りていくほどに、ジリジリと。当人も気づかないうちに」と言いました。それだけではなく「ふつうはもうすこし時間をかけて、カラダをならしてから進むんだけどねえ。もとからちょっと抜けているせいか、ライムのやつ、環境の変化にまるで気がついてやしない。まぁ、おかげで指導にも素直に従うし、ごちゃごちゃと余計なことも考えないから、こっちは楽でいいけどね」とも。
自分が弱いことをよくよく自覚している。
それでも大切な人のために強くなりたいと願う。
胸に秘めた想いがけっしてかなうことがないのを知りながら。
騎士としての敬愛だけでもなく、男と女の情愛だけでもなく、友だちへの友愛だけでもない。
いろんなものを丸っと呑み込んだライムさんのような生き方を、剣聖さんは「献身」と表しました。
じきに見事、百体もの幻影を自分だけのチカラで倒しきったライムさんが、笑顔でもどってきました。
これにて第七階層の試練も攻略完了です。
八階層目の試練は、人が一人だけかろうじて通れる細く真っ直ぐな廊下にて行われました。
前方からジリジリと迫ってくる壁。これを剣にて破壊する。ただそれだけなのですが、幅はせまく、まんぞくにカラダを動かせる広さがありません。
壁を壊すには必殺の突きを放つしかない。
ここではふたたび剣聖さんが強制同調にてライムさんをあやつることに。
彼女が見せたのは、おそらく剣での刺突の技では最高峰に位置するもの。
カラダを半身ほどずらして斜にかまえ、右の利き足を後方へと下げ、やや腰をおとし、ボロ剣の切っ先を壁へと向けたところまでは、水色オオカミの子どもにもわかりました。
ですがそのあとの動きがまるで見えません。
踏み込んで突きをくり出したとおもったら、次のしゅんかんには分厚い石壁が粉砕されておりました。
風を越えたいかずち、あるいは光のきらめきは、刃がみせたまぼろしか。
ルクの茜色の瞳でも追い切れない動き。
もしもあの切っ先が自分に向けられたとき、はたしてよけられるであろうかと、考えずにはいられません。
「すごい……、これが剣聖のチカラ」
寿命も能力も、地の国の住人らの中ではけっしてズバ抜けているわけではないはずの人間。そんな存在が到達しうる、はるかなる高みの一端。
これを前にして、おもわずルクは驚嘆せずにはいられませんでした。
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