水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
185 / 286

185 無明の間

しおりを挟む
 
 九階層目には何もありませんでした。
 あるのは漆黒の闇ばかり。

「ここは無明の間、ひたすらじっと十階層へと続く扉が開くのを待つだけの場所さ」

 剣聖さんの説明にライムとルクはそろって首をかしげるばかり。
 ただ待つだけ……。
 そんなことに何の意味があるのでしょうか?

「ふふふ、じきにわかるさ。ここの過酷さがね。ではこれより一切の会話を禁じる。わずかな声や物音もたてるな。たてたらまた一からやりなおしになるからね」

 視界を埋め尽くすのは黒。
 暗闇の中、おしゃべりも出来ない。
 たいくつな時間ばかりが続く。
 とくにすることもない水色オオカミは、とりあえず寝てすごすことにしました。
 もぞもぞと動く気配があり、おそらくはライムさんもカラダを休めることにしたようです。
 では、おやすみなさい。ぐぅ。



 パチンと目をあけた水色オオカミの子ども。
 真っ暗な中でしばしぼんやり。ルクの茜色の瞳をもってしても黒い視界が完全に透けて見えることはありません。それほどまでにこの階層の闇は深い、もしくは試練のために用意された特別なモノなのでしょう。
 ライムさんの方に目をやると、彼は床に横になったまま、身じろぎひとつしません。ずっとボロ剣を抱きしめています。
 目覚めたルクはその姿にたのもしさを感じる反面、さびしさも感じていました。
 彼が望みどおりに剣士の道をひた走っている。
 ライムさんは着実に強くなっています。でもその裏で彼が本来もっていた大切な何かが、ポロポロとはがれ落ちているように、ルクにはおもえてならないのです。
 どんどんと自分の知っていた彼ではなくなっていく。
 成長するとは、そういった側面を持ちあわせているのでしょうけれども、これが無性にかなしくも感じられてしょうがない。
 そんなことを考えつつ、ふたたびまどろんでいくルクなのでした。



 寝ては、起きるをくりかえすこと三度。
 いいかげんに寝むるのにもあきてきました。
 第十階層へと通じる扉は、まだ開きません。
 逆さの塔の試練に挑み続けること、すでに何日目なのかもわかりません。なにせここは地下深くにて陽の光がまるで届かないのですから。それにずっと閉鎖された空間にいると、時間の感覚もおかしくなってしまうようです。
 でもそればかりが原因ではありません。
 この古代遺跡の中は、カラダが重くなったり、呼吸が苦しくなったりするばかりではなく、ほかにもいろいろとおかしな点がありますので。
 たとえば食事。
 ルクは水色オオカミであるがゆえに、水もしくは水気さえあれば生きていけます。
 ボロ剣に宿っているとおぼしき剣聖さんは、思念体みたいなものなので食事を必要としません。
 でもライムさんはちがいます。彼は正真正銘、生身の人間です。いかに急速に剣士として成長を遂げようとも、いいえ、成長しようとすればするほどに、カラダはより多くの食事が必要とするはず……。なのに彼は逆さの塔へともぐってから、ただの一度たりとも食べ物を口にはしていないのです。どうやら空腹も感じていないみたい。
 ひょっとしたらこの中では時間の流れすらもがおかしくなっているのかもしれません。



 第九階層、無明の間の試練に挑むこと、どれほどの時間がたったことでしょうか。
 目安となるべきモノが何もない環境下にて、音を封じられたライムさんの身に、じきに異変が起こりはじめました。
 寝たり起きたりをせわしなくくり返したとおもったら、あぐらにて精神集中でもするかのように座禅を組む。手探りにてボロ剣をべたべたとさわっては、なんども握りかえし、まるでその存在が本当にあるのかを確認しているかのよう。
 かとおもえば苦しそうに頭をかきむしったり、自分の腕に歯をたてて、必死に声をころして泣きだしたり。
 あきらかなる異常行動。
 心配のあまりライムさんに近づこうとしたルクの頭の中に剣聖さんの声がひびく。

「放っておけ。あれはいま自分のココロと戦っているのだ」
「?」
「澄んだ泉の水はのぞきこんだ者の姿を映す。だがここの暗闇はのぞきこんだ者のココロを映し出す。己が内のキレイもきたないも、大切な想いも、あきらめたはずの想いや捨てたはずのモノまで、なにもかもすべてをあばきだす。それを見せつけられるのは、ある意味、ココロにかせられた拷問のようなもの」

 暗闇に映し出されるのは己の希望、絶望、願望、欲望……、ごまかしようのない自分の本性をまざまざと見せつけられる。ふたをしたはずの感情をむりやりに引きずりだされる。
 騎士道や献身など、彼を支えるモノすべてが否定される。
 そして闇の静寂は、苦しみもがき、あがき続ける者の耳元にて、甘くささやく。

「どうしておまえばかりが苦しむ必要がある? おまえは強い。チカラがあるのだから、欲しいモノがあるのならば、うばえばいい」と。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

処理中です...