187 / 286
187 武闘会の受付にて
しおりを挟む剣の丘の試練を見事に成しとげたライムさん。
逆さの塔の最下層にて聖剣をも一刀両断したところで、剣聖さんからほめられたまではよかったのですけれども、うながされるままに奥の一室へと足を進めたところで、彼とルクはとてもヒドイ目にあいました。
いきなり部屋の扉がピタリと閉まったかとおもえば、内部にドボドボ流れこんできたのは大量の水。あっという間に室内は水で埋め尽くされる。
水色オオカミのルクは水の中でもへっちゃらですけれども、いくら強くなったとはいえライムさんは生身の人間。さしもの剣豪も息ができなければ死んでしまいます。
だからあわてていると、急に水流がまきおこって、天井の穴へと吸い込まれてしまった一人と一頭。
縦穴の中をものすごい勢いにて、ずんずんと上へ上へと押し流されていく。
あまりにも強い水のチカラ。なすすべもありません。
そして気がついたときには、剣の丘の小島のあった湖の上空へと、高く打ちあげられておりました。
どうやらはげしい水柱にて、最下層から地上へズバンと放り出されたみたい。
ひさしぶりに見た太陽はとってもまぶしく、青い空は解放感をあたえてくれて、新鮮な空気に全身がよろこび、うちふるえる。
ですがそんな感動に浸っていられたのは、ほんのいっしゅんのこと。
なにせ上がったら下がるのが自然の摂理。
そのまま湖に叩きつけられるようにして落下。
水色オオカミと青年騎士は、そろってドボンとハデな水音を立てる。
じきにプカリとあお向けにて浮かび上がったライムとルク。
あまりの衝撃にて、呆然となり、しばらくは動くこともままなりませんでした。
そんなことがあったのも、はや十日ほど前のこと。
へっぽこ騎士あらため剣豪となったライムさん、彼の腰にあるボロ剣に宿る剣聖さん、水色オオカミのルク、一人と一霊と一頭? というかなり奇妙な一行の姿はコモンダリアの四大公家のひとつ、キャトル家が統治する領地にありました。
ウマの背にのり半月ほどもかかる距離を、まさか延々と走らされることになろうとは。
師匠はとってもきびしい。
日々これ修行、すべてが師であり学ぶべきことがあるとの基本方針なのだそうです。
ようは四六時中、昼夜を問わず、ずっと修行が続くということ。
剣聖への道はとってもけわしい。
でもまさかこの距離を十日ばかりで走破するとはおもいもよりませんでした。これには成し遂げた当人が一番おどろいています。しかも途中で隠しておいた先祖伝来の甲冑をしっかり確保し、これを着こんでいたのにもかかわらず。
どうやらかつてとは比べものにならないほどに、ライムさんの肉体は強化されているようです。
旅先からもどったライムさんは、その足にて、武闘会への参加申し込みへと向かいました。
同行している水色オオカミ、その毛の色は黒。
人里に降りるにあたって、ルクの冬のよく晴れた日のような空の青さは、いささか目立ちすぎる。そこで相談の上、一時的に人間用の毛染めにて色を変えることにしたのです。
ルクはもともと穏やかな顔立ち。雰囲気もほがらかにて、オオカミ特有のけわしさはあまりありません。
だからおとなしく青年騎士につき従っている姿をみれば、猟犬、もしくはイヌとオオカミのあいの子ぐらいにしか見えません。おかげでたいていのところには堂々とついていけそうです。
申し込み受付があるのはコモンダリア国内、西の領都の中央区にある役所の窓口。
この一帯はキャトル家のおヒザ元、武闘会もこの地にて開かれるのです。
役所の中から外にまで鈴なりにのびた列。武器を手にした屈強そうな男たちばかり。
これらすべてが大会への参加を申し込みにきた者たち。
みんな我こそはとの気迫にあふれた腕自慢の猛者。
そんな中に紛れこんだのは、鎧こそは立派ですが中身がいまいちな青年。
彼を見かけた大部分の者たちは、ちょっと小バカにしたような表情を浮かべるか、興味がなくしてすぐに視線を外すばかり。面子を重んじる誇り高い騎士ならば、怒りだしそうな失礼な態度すらもありましたが、それらをライムさんはさらりと受け流す。
へっぽこ騎士としてすごしてきた時間が長いせいか、そんなことにはすっかり慣れっこになっているみたい。
行列はなかなか進みません。
いかにお役所仕事とはいえ、参加申し込みだけなのに対応があまりにも遅すぎる。
おかげでみんなイライラ。なかなかの険悪さにて、周囲の空気が重苦しい。
その原因はようやく建物の中へと入れたところで判明しました。
三つ並んでいる窓口。そのうちの二つがふさがっていたのです。
前に陣取っているのは二人の人物。互いににらみ合っており、一触即発といった雰囲気です。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる