水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
197 / 286

197 ペームトの街

しおりを挟む
 
 夜の人形の森はとっても不気味。
 そして朝の人形の森も、やっぱり不気味。
 すくなくともココットとナルタの姉弟の目には、そのように映ったみたい。
 なにせうす暗い森の中とはいえ、陽がのぼれば、そこそこ明るくなるもので、あちらこちらにてぶら下がっている人形たちが、よく見える。
 ボロボロに傷ついた人形の姿は、幼子たちをおおいにおびえさせました。

 彼らをはげましつつ、ゆっくりと並んで歩くルク。
 いっそのこと自分が運ぼうかと提案したのですけれども、そこまでは甘えていられないと、姉のココットがきっぱりと断りました。
 きっとお母さんを亡くしてから、いろいろとあったのでしょう。
 甘い話にパクリと喰いつかないように、幼いながらにどこか警戒しているみたい。しっかり者のお姉ちゃんです。
 だからもっと小さいがゆえに、ついつい止まりがちになるナルタの足が動かなくなったら、少しばかり背中を貸してあげるだけにとどめておきました。

 森は奥へと進むほどに人形の数が増えていく。

「これってなんなんだろうねぇ」

 周囲を見あげながらルクがつぶやくと、ペームトの街だけの習慣らしいということをココットが教えてくれました。
 なんでも厄除けだか、願掛けだか、の意味があるらしいのですが、くわしいことまでは彼女も知らないそうです。
 なんにしてもかなりかわった風習です。
 あちこちを旅してきた水色オオカミの子どもは、興味深げにて吊るされてある人形たちを観察していましたが、あまり人形に馴染みのない男の子のナルタはとくにこわいらしく、ときおり風などに吹かれてカランコロンと音を立てる人形におどろいては、そのたびに姉やルクのカラダにしがみついていました。
 それでもがんばった姉弟たち。だってこんな森で二晩も過ごしたくなんてありませんから。
 けんめいに足を動かし、互いにはげましあって、ついに人形の森を抜けたのは夕暮れ前のこと。
 焼けるような赤い空。
 さわやかな風が吹く開放的な平野の姿に、ホッとするココットとナルタ。
 にもかかわらず、彼らはまだ足を止めようとはしません。ふり返ることもなく、むしろこれまで以上にズンズンと進んでいく。
 目的地がいよいよ迫ってきたから気が急いているというよりも、どうやら姉弟たちは、少しでもあの森から離れたいみたいです。
 ずっと気丈にふるまっていたお姉ちゃんも、やっぱりこわかったみたい。
 しっかりしているように見えて、年相応の顔ものぞかせるココット。そんな幼女の姿にほっこりとさせられるルク。



 人形の森をようやく抜けて、ホッとしたのもつかの間。
 背後の暗闇よりのびてきたのは人形たちの腕。
 ボロボロに傷ついた無数の手がぬぅっとのびてきて、欠けたり足りなくなっている指にカラダをつかまれたかとおもったら、ズルズルと森へと引きずり込まれてしまう。
 幼い姉弟と水色オオカミは、そのまま人形たちがうごめく深い闇の底へと……。



 ハッとしてまぶたを開けたら、すでに朝陽がのぼっておりました。
 自分を枕にし、やすらかな寝息をたてている幼い姉弟を見て、安堵する水色オオカミ。
 昨夜は森を抜けてしばらく進んだ先にて、野営をしていたのですけれども、どうやらふしぎな場所に立ち寄ったせいか、ヘンテコな夢をみてしまったようです。
 これではとても子どもたちを笑えません。
 自分もまだまだだなぁ、と反省しきりのルクなのでした。

 道の両脇にはずっと向こうにまで続く黄金色の麦畑。
 泳いでいる小魚たちの姿がよくみえる、澄んだ水が流れる小川。
 その上をまたいでいるかわいらしい石橋をこえると、正面に姿をあらわしたのはペームトの街。
 あまり高くはない外壁と堀に囲まれている街の中には、とんがり帽子の赤い屋根が連なり、遠目に見える頭二つほど飛び出た建物は教会か役所でしょうか。
 目的地をまえにして、感無量な幼い姉弟たち。
 ですがルクには少しばかり気がかりなことが。
 それはこのまま行って、はたしてふつうに街へと入れてもらえるのかということ。
 場所によっては出入りが厳しく制限されているところもあります。ときにはおカネが必要になることもあります。門番の人に事情を話して、ゆるしてもらえたらいいのですけれども。

 でもそんな心配は取り越し苦労だったみたい。
 麦畑で農作業をしていた若い女性の一人が、水色オオカミと幼い二人の子どもたちの姿を見かけて、声をかけてきたからです。

「こんにちわ。ずいぶんかわった毛のワンちゃんだねえ」

 どうやらイヌとかんちがいされたみたい。
 これは好都合だと、ここぞとばかりに「わん」と吠えてみせたルク。シッポをふりふりしながら、娘さんにテラテラなでられるままに任せます。
 水色オオカミとしてのホコリ? そんなもの、もとよりありません。
 彼女の名前はリオーネさん。ペームトの街でも有名な工房をかまえている親方の娘さんにて、いまは街の女衆らといっしょに畑の手入れに精をだしていたところなんだとか。
 ですがこの出会いこそが、天の采配であったのです。
 なぜなら彼女は……。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

処理中です...