水色オオカミのルク

月芝

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206 双頭のケモノ

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 ココットとナルタの幼い姉弟は、きっともうだいじょうぶ。
 それを確信した水色オオカミのルクは、人形たちが守るやさしい場所をあとにしました。
 カゴの中のトリは、ほんとうにしあわせなのか?
 その答えはルクにはまだわかりません。
 ですが、いくら自由を声高に叫んだところで、しょせんは世界という檻の中からは出ることはかなわず、縁(えにし)というクサリから解き放たれることもない。
 自由が必ずしも、しあわせに繋がるわけでもない。
 日々の安らぎを捨ててまで、手にする価値があるとはとてもおもえない。
 なのにソレには、どうしようもないほどに、ココロをゆさぶる何かがある。
 甘い蜜のように、フラフラと引き寄せられる魅力がある。
 大切なモノから目をそらされ、かんちがいをさせられる。
 まるで悪い魔女がささやく堕落の呪文のよう。
 器にキレイに盛られたおいしそうな料理。
 それをひっくり返して、すべてを台無しにしてしまうような……。
 自由とはだれかの努力をこわし、踏みにじり、それを蹴散らした上に成り立っているような気がしてしようがないのです。
 ルクにはそれがとてもこわいことだと感じました。
 大切だけれども、安易にわかった気になってはいけないモノ。
 そのことを胸に深く刻みこみ、旅を続けます。

 野を越え、山を越え、いろいろと考えながらも、地の国の大地を北へと向かい水色オオカミが駆けていると、前方に多くの人間たちの気配がしました。
 鼻をヒクヒクさせると、鉄や血のニオイが濃い。
 それがドンドンと近づいてくる。
 ルクはいそいで、すぐそばのしげみへと身を隠しました。
 しばらくして姿をみせたのは、重たい足を引きずり歩く、鎧姿の騎士や兵士たち。
 折れた槍を杖がわりにし、破けた衣服はドロだらけ。カラダにまかれた包帯には血がにじんでいる。のろのろとついて来る馬車の荷台からは「うーうー」と苦し気な声がもれており、五体満足な者がほとんどいません。
 そんな一行が目の前をゆっくりと通りすぎていく。
 なんらかの戦闘行為があったのはまちがいなさそう。
 戦争でもして負けたのでしょうか?
 ただルクの目を引いたのは、兵士らの着ている鎧のところどころについている引っかき傷。まるで巨大なケモノの爪にエグられたかのようなあとです。それに兵士らがヒソヒソとおびえるように口にしていた「双頭のケモノ」という言葉も気になります。
 三百名ほどもいるでしょうか、そんな武装した集団を一蹴するような存在が、この先にいる。
 地の国にはいろんな住民たちがいます。ヒトやケモノだけでなく、グリフォンやドラゴンといった超常の存在も。魔王なんてのもいるらしいのですから、頭が二つあるケモノがいても、なんらおかしくはないのですけれども……。
 どうにも気になった水色オオカミの子どもは、とりあえず敗軍が逃げてきたところへと向かってみることにしました。



 男たちの怒号や雄叫びに混じり、聞こえてきたのははげしい剣戟、そして悲鳴と絶叫。
 巨大な剣をふりかぶり、叩きつけるかのようにして放ったのは一人の騎士。
 立派な体躯をしており、強敵を前にしてもひるむことなく、果敢に攻め立てている。
 ですが相手はさらに大きなカラダをしており、毛むくじゃらな黒く太い腕にてこれを受けとめると、騎士の必殺の一撃をはね返し、無造作に腕を横になぐ。
 轟っと風がうなる。
 たったそれだけの動作にて、騎士の剣はなかばから砕け、固いはずの鉄の鎧が紙切れのように切り裂かれ、鮮血の花がパッと咲き、その身は千切れ飛んで地面に転がって、ついにはピクリとも動かなくなってしまう。
 おそらくは彼がここに残っていたしんがりの中心人物であったのでしょう。
 かなめを失った小集団は、それでも最後の一兵になるまで、逃げることなく勇敢に戦いました。
 しかしチカラの差は歴然。
 ほぼほぼ一方的な虐殺劇は、じきに幕を閉じました。
 しんと静まりかえった大地は紅く染まり、周囲には血の放つ鉄サビのようなニオイと死が満ちている。
 無残な骸がそこかしこに折り重なっては転がり、命の光を失い白くにごった瞳が空を見つめていました。
 蹂躙した連中を見下ろすかのようにして立っていたのは巨大なケモノ。
 丸太のような両腕の先からは、ぽたりぽたりと血が滴っている。それは散っていった命の残骸。
 手についたそれを舌にてペロリとひと舐め。
 その頭部には二つの首がありました。


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