水色オオカミのルク

月芝

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226 サンとソレイユ

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 もうずっとずっと昔のこと。
 天の国の御使いの勇者として、地の国を旅していたのは、まばゆいばかりの黄金の毛をした水色オオカミのソレイユ。
 大地を駆ける姿は獅子よりも雄々しく、風にたなびく毛が光の帯となり、まるで地に降りた彗星の尾のような残光を描く。
 自分がいるべき場所を求めて旅をつづけていた彼は、海峡を渡った先にある豊かな地にて、とある女の子と出会いました。
 茶色のおさげ髪に、クリクリとした円らな黒の瞳は無垢にて、ニパッと笑う幼女。
 彼女の顔を見たしゅんかんにソレイユは「自分の居るべき場所はここだ」と強くおもいました。

 まだまだあどけない女の子の名前はサン。
 両親を早くに亡くすも、やさしい村のみんなに見守られつつ、教会にて世話になって神官見習いをしていました。
 コロコロとよく笑う子にて、彼女がいるだけで場がなごみ、周囲がぱっと明るくなる。そしてカラダのつかれや落ち込んでいた気分もどこかに吹っ飛んでしまう。
 まるで彼女が元気を分け与えてくれているみたいです。

「ひょっとしたら、この子は聖女さまに選ばれるかもなぁ」

 彼女の面倒をみていた老神官の言葉を、否定するような者は村には一人もいませんでした。みんなもなんとなくですが、そんな気がしていたのです。
 幼さゆえか、生来の気質か、まるで物怖じしないサン。
 村の近くにある森にて、はじめて黄金色のオオカミをまえにしたときに言ったのは、「あまそう」という言葉。
 これにはソレイユのほうが首をコテンとかしげることに。
 なにせキレイだの、雄々しいだの、神々しいだのというホメ言葉は散々に耳にしてきましたけれども、これまでに聞いたことのない感想でしたので。

「あまそう? とはどういう意味なのだ」

 ソレイユにたずねられてサンはこう答えました。

「だってハチミツみたいな色なんだもの。パンケーキにかけたらとってもおいしいの。あなたを見てたら、なんだかおなかがへってきちゃった」

 とたんにクーとかわいらしい音がして、「あうっ」と自分のお腹をおさえた幼女。
 その姿にくつくつと笑わずにはいられないソレイユ。

「もうっ、女の子にはじをかかすだなんて、ダメな人ね」

 小さな女の子に面と向かってそんなことを言われて、ますます愉快になってしまったソレイユ、ついにはこらえきれなくなり声をあげて笑ってしまいました。
 おかげでムクれたサンからポカポカと叩かれることに。
 もっとも、ちっとも痛くはありませんでしたけれども。

 そのままサンを背にのせて悠々と村へ入ったソレイユ。
 水色オオカミの登場におどろくばかりの村人たちを横目に教会へと向かう。
 出迎えた老神官にソレイユが自分の感じたことをありのままに告げますと、彼はほんの少しだけおどろいた表情をみせるも、すぐに居ずまいを正し、「どうか、この子のことをよろしくお願いします」と頭を下げました。
 この日より、ソレイユはそのまま教会の客となり、サンのとなりにいるようになりました。

 いまとはちがい、まだまだヒトとケモノや他の種族との距離がグンと近かった時代。
 黄金色の水色オオカミはすぐに村人らにも受け入れられて、サンとお守り役として認知されました。
 まばゆいオオカミを従え村中をねり歩く幼子。
 その姿にみなの内にある「彼女こそが聖女である」との想いがいっそう強まり、確信へとかわっていく。
 一方、そんなみんなの想いをまるで知らぬサンは、むじゃきにソレイユの背にまたがっては走り回り、元気よく毎日をすごしていました。
 水色オオカミが滞在することによって、さまざまな恩恵が村にもたらされました。
 ソレイユの水をあやつるチカラにて、良質な水がわく井戸がいくつも掘られ、水路が整い、畑の土もよりよくなって収穫が倍増しました。
 夏の暑さに苦しめられることも少なくなり、冬の寒さに凍えることもなくなる。嵐もこの一帯だけをよけて通る。
 自然はより豊かとなり、森の恵みもドンドンとふえるばかり。
 おかげで村全体が潤いました。
 だからとておごることなく、みんなは日々をつつましやかに、感謝の気持ちを忘れることなく過ごしておりました。
 善良なる人々にかこまれて、サンとソレイユの安らかで穏やかな時間はゆったりと流れていく。


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