水色オオカミのルク

月芝

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227 春を運ぶ者

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 黄金のオオカミを従えた女の子のウワサは、じわりじわりと周辺に広がっていきました。
 それとともに土地を豊かにしてくれるという話も。

 あるとき山の中腹にある村の長が、サンの住んでいる教会を訪れて、自分たちの苦境をうったえました。
 村で唯一の井戸が枯れて以来、毎日毎日、山を下っては、ふもとにある川から水をくんで、また上へと持ってあがるのくり返し。非常な重労働にてとってもたいへん。男たちは狩りや家畜の世話があるので、どうしても手の空いている女や子どもの仕事となりがち。
 山道は足場がわるく石ころだらけにて険しい。うっかり転んだだけでも大ケガになりかねない。落石やケモノにおそわれる危険だってつきまとう。実際に子どもが犠牲になったことも。
 この一帯を治める領主に何度も陳情してみたのだけれども、なしのつぶて。
 自分たちでも新たな井戸を掘ってみたのですが、どうにもうまくいかない。
 そんなときにここのウワサを聞いて、すがるおもいにてやってきたという。

「おねがいします。どうかチカラをおかしください」

 困っている人たちがいるときいて、サンはかなしい顔をしました。
 この子はいつもそうです。自分のことではどんなにつらくともこんな顔はみせません。彼女がつらい表情をみせるのは、いつも自分以外のだれかのため。
 ココロやさしい幼女に、いつまでもそんな表情をさせたままではおかないソレイユ。「よかろう」と頼みをきいてあげることに。
 とたんにサンは笑顔をみせました。

 山の村へと向かったサンとソレイユ。
 寒風の吹いている村の空気は重苦しくて、どこかよどんでさえいました。
 全体がくたびれてつかれきっている。そんな印象を受けたサンたち。
 鼻先を動かしながら水気を探り、ウロウロとしていた黄金の水色オオカミ。良質な井戸が掘れる地点を探していたのです。あとからゾロゾロと村の男たちが道具片手についてくるも、表情はくもっています。あまり期待はしていないようです。
 やがて村の敷地内を出ると、そのまま付近の岩肌へと近づいていきました。

「ここにツルハシを入れよ。この中から清らかな水の気配がする」

 地面ではなくて岩壁を掘れといわれてとまどう男たち。
 ソレイユの言葉に半信半疑ながらも、村の男衆らがトンカントンカン。じきに中かほんとうに清水がわいてきました。
 口に含んでみれば、おどろくほどスッキリとした飲み心地にて、みんなは目を白黒とさせるばかり。

「これは長い年月をかけて山が岩の中にためこんだ雪解け水が染みでたモノ。混じり気がなくクセも少ないから酒造りに適しているかもしれんな。なんにせよ山の恵みゆえ、ゆめゆめおろそかにしないことだ」

 飲み水が確保でき重労働から解放されただけでなく、村の新たな産業となりうるモノまで見つかり村長以下、全員がよろこんだのは言うまでもありません。
 みんなのよろこぶ顔をみて「よかったね」とサンも笑う。
 それだけで場がいっきに華やぎました。
 春のあたたかな風が通りぬけて、一面にパッと花が咲いたかのように、明るくなる雰囲気。
 村全体をおおっていた、どこかウツウツとしたモノがたちまち消し飛んでしまう。
 だれもがよりよい明日へと、想いを馳せずにはいられない。
 何か特別なことをしたわけじゃないというのに、そうおもわせるふしぎなチカラが、サンの笑顔にはありました。

 この出来事を期に、サンとソレイユのウワサはまたたく間に広がっていき、各地から困っていた人たちが集うようになっていく。
 なかには邪まな考えを抱く者もおりましたが、ソレイユの鼻がそれを見逃すこともなく、悪事が露見して、泡を喰って逃げ帰ることになるだけでした。
 幼いサンにしてみれば、困っているヒトがいたら助けてあげるのは当たり前のこと。
 大人たちみたいに見返りなんて求めません。まだ打算という言葉すらも彼女は知らなかったのですもの。だから考えようもなかったのです。
 結果として、それが彼女を中心とした聖女伝説を加速させていくことになります。


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